プレゼン思考
小西利行
かんき出版
プレゼン思考(小西利行)の要約
クリエイティブ・ディレクターの小西利行氏は「プレゼンは人の心を動かすもの」と定義しています。単なる情報共有や説得を超え、相手に共感されるプレゼンを習慣化することで、自分の考えを効果的に伝えるスキルが磨かれます。それによって、相手との信頼関係が深まり、互いにメリットを共有できるWin-Winの関係が構築されるのです。プレゼンを通じて心を通わせることが、より良いコミュニケーションの鍵となります。
プレゼンとは人の心を動かすもの。プレゼンの必勝方程式とは?
これまでは何気なくやっていたコミュニケーションを、少しでも「カンタン」にして「相手が聞きたいもの」に変えることです。「興味が持てる!」「楽に理解できる!」そんな会話や提案ができるなら、コミュニケーションがどんなツールで行われるようになっても恐れることはありません。(小西利行)
コミュニケーションは、人との関係を築く上で最も基本的で重要なスキルの一つです。これまで何気なく行ってきたコミュニケーションも、少し工夫を加えるだけでより効果的になり、「カンタン」に「相手が聞きたいもの」に変えることができます。それによって、相手の興味を引き出し、話の内容を楽に理解してもらえるようになれば、どのようなツールを使う場合でもコミュニケーションへの不安を感じる必要はなくなります。
ただし、それを実現するためには努力が欠かせません。例えば、提案や会話をわかりやすく簡潔にするためには、まず話すテーマや課題を明確に把握することが必要です。その上で、自分自身の中でその内容を十分に咀嚼し整理することが求められます。そしてさらに重要なのが、相手(聞き手)の立場に立つこと。相手が何を必要としているのか、どのようにすればより理解しやすくなるのかを考えながら話すことで、より効果的なコミュニケーションが可能になります。
「プレゼンとは人の心を動かすもの」だとクリエイティブ・ディレクターの小西利行氏は定義します。相手から共感されるプレゼンを習慣化することで、コミュニケーション能力は確実に向上し、Win=Winの関係を構築できます。
プレゼンは未来をつくるためにあります。〝その場で提案して終わり〟ではありません。今のことはもちろん大切ですが、数年後の未来は、それ以上に大切だと僕は思います。だからこそ、今だけを乗り切るカンフル剤ではなく、今の課題を解決しつつ、ワクワクする未来を実現するプランを提案するようにしたほうが良いのです。
特にプレゼンテーションにおいては、単なる情報の共有ではなく、聞き手にとって「未来への可能性」を感じさせることが重要です。そうした「未来をつくるプレゼン」には、ひとつの確立された「型」があります。それが「必勝方程式」です。
必勝方程式(課題→未来→実現案)は、シンプルでありながら効果的な3つのステップから成り立っています。まず第1に、課題の整理がスタート地点となります。現在の状況や直面している課題を明確にし、それを正しく理解することが、すべての出発点となります。
次に、その課題の先にあるゴールとしての未来、すなわちビジョンを描きます。そのビジョンが相手にとって魅力的で、共感を呼ぶものであるほど、次のステップに進みやすくなります。
そして最後に、その未来を実現するための実現案を提案します。この実現案には、具体的なコンセプトやプランが含まれ、ビジョンをどのようにして現実に近づけるのかを示します。
この方程式に基づくプレゼンは、内容がシンプルでありながら説得力があります。「現在はこういう状況ですが、未来はこうなれる。そのためにこの方法が最適です」と伝えるだけで、骨格がしっかりとした論旨が形成され、聞き手も自然と理解しやすくなります。
このように、課題→未来→実現案という3つのテーマに沿って話を構成することで、プレゼンテーションの内容が整理され、相手にとってのわかりやすさが格段に向上します。これは、どのような場面でも応用可能な普遍的なコミュニケーションの型です。また、→を意識し、ロジカルに考えることで、論理破綻を防げます。
プレゼン必勝方程式究極の9項目
僕は、そうしたプロセスで見つけた本当のゴールを「ビジョン」と呼びます。 ビジョンは、必勝方程式「課題→未来→実現案」の「未来」のことです。ビジョンが見えれば、そのプロジェクトに関わるすべての人が、そこへ向かって走り始めます。ビジョンはすべての人の行動指針となり、同時に判断基準になります。
著者は、課題・未来・実現案を踏まえた必勝方程式の究極の9項目を明らかにしています。特に未来軸で考えた場合には、ビジョン作成(ワクワクする未来)が重要になります。
【課題】現状の整理と解決すべき問題の特定
①社内課題
過去から現在に至るまで、社内で直面してきた問題を洗い出します。これには、商品やプロジェクトの改善点、人事体制の課題など、企業が克服すべき内部の課題が含まれます。例えば、製品の品質向上の遅れや人材育成の不足などが具体例となります。
②社会課題
プレゼンテーマと関連する社会的な問題を抽出します。これはSDGsやSociety5.0といった世界的な目標、高齢化や環境問題、人員不足などを含みます。企業活動がこうした社会的な文脈とどう結びつくのかを明確にすることで、課題解決に向けた信頼感を生むことができます。
③本質課題
社内・社会課題の中から最も重要な「本質的な課題」を選定します。「実は○○が解決したい本質的なニーズだった」という視点で、本当に取り組むべき課題を見極める段階です。この課題が解決できることで、企業や社会が大きく前進すると考えられるポイントを設定します。
このフレームワークで「本質課題」にたどり着くことができれば、その課題を解決した先にある未来、つまりその企業やプロジェクトが本当に目指すべきゴールが自然と見えてきます。これは、プロジェクトの方向性を正しく定めるための重要なステップです。
著者の小西氏の経験によると、「本質課題」を高い精度で導き出すための最も効果的な方法は、「そもそも思考」を実践することだと言います。「そもそも思考」とは、「そもそも、この課題の本質は何だろう?」と根本から問い直し、考え抜くプロセスです。この考え方を身につけることで、表面的な問題にとらわれず、本当に解決すべき核心に迫ることができます。 確かに、この方法は目の前の課題や他者の成功事例をそのまま参考にするよりも時間や労力が必要です。
しかし、その分、解決策の精度や納得感が増し、結果として確実にプロジェクトを前進させることができます。小西氏は、「そもそも思考」は一見地道に思えるかもしれないが、その先にある未来を実現するための最強の武器になると強調します。
【未来】ビジョンの明確化と目標の共有
④隠れニーズ
世の中に潜む「まだ表には出ていないが、多くの人が共感するニーズ」を見つけ出します。たとえば、表面的には満足しているように見えるサービスの裏側にある不満や、未来を見据えた新しい価値観など、兆しを見逃さないことが重要です。
⑤ビジョン
ビジョンは、ワクワクする「未来」を指し示す北極星でもありますが、迷ったときにどうすれば良いのかを教えてくれる「道標」にもなるというわけです。 誰もがワクワクし、共感できる未来像を描きます。
このビジョンは、企業やプロジェクトが中・長期的に目指すべきゴールとなり、社員や関係者にとって指針となるものです。「こんな未来を実現したい!」と思わせるような感情に訴える内容が鍵となります。ビジョナリーなベンチャー経営者は社会課題(鬼退治)を解決する現代版の「桃太郎」だと言う話に共感を覚えました。
⑥プロジェクトゴール
描いたビジョンを実現するための短期・中期的な具体的目標を設定します。このゴールは、プロジェクトの進捗を測るためのマイルストーンとして機能します。達成可能で現実的な範囲での目標を設定することで、全体の道筋を明確化します。
【実現案】具体的なアクションと実行計画
⑦コンセプト
ビジョンもしくはプロジェクトゴールを達成するための方向性を設定します。このコンセプトは、企業の持つリソースを活かしたリアルな戦略に基づくべきです。たとえば、「シンプルで機能性重視」や「感情に訴えるデザイン」など、プロジェクトの核となるテーマを明確にします。
⑧アクションプラン
コンセプトを具体化し、人々の心を動かすオリジナルのアイデアを展開します。これは新商品やサービスの開発、プロモーションやイベント、PR戦略など、多岐にわたる内容が含まれます。魅力的かつ実行可能なアイデアで、計画に説得力を持たせます。
⑨実行スキーム
アクションプランを実現するための具体的な実行体制を整えます。チームづくりや人員の配置、必要なリソースの確保など、計画を実行に移すための準備段階です。実行力を高めるためのスキームをしっかりと構築することが、成功の鍵となります。
人生共感図でプレゼンの解像度を高める!
心が動かなければ人は動かない。
人の心を動かすコンセプトを考えるには、どのような要素が必要なのでしょうか。その鍵となるのが「感動」です。ただし、ここで言う感動は、ただ泣ける話や劇的なストーリーを指すものではありません。感動という言葉をよく見ると、「感じて動く」と書きます。
つまり、感動とは「感じること」と「動くこと」が一体となったものなのです。そして、この「感→動」を生み出すプロセスこそが、人々の心を捉え、行動を促すための手段となります。
この「感→動」を実現するためには、「驚き」「共感」「共有」の3つの要素が欠かせません。人は何かに驚き、心から共感し、それを誰かと共有したいと感じたときに初めて心が動き始めます。
これを具体化するために、小西氏は次の3つの問いを意識することが重要だと提唱しています。「もっと知りたい!」と思える新鮮な驚きがあるか、「これは欲しい!」と思えるほど共感できるか、そして「すぐに誰かに話したい!」と感じるほど共有したくなるか。
この3つの問いを満たすことで、感動は行動へとつながり、未来を切り拓くコンセプトが生まれるのです。 さらに、こうしたコンセプトを具体的に構築するためには「人生思考」を取り入れることが有効です。
人生思考を意識すれば、人々のリアルな暮らしと商品をつなげて考える癖がつきます。商品もサービスも、企業もプロジェクトも、それを支えているのは「人」です。だからその「人」の思いとつながらないアイデアには、意味がありません。プランも、ビジョンも、コンセプトも「人生」とつながるものです。だからこそ、人生のそばに「心を動かす発見」があり、商品が売れるアイデアが生まれるのです。
人生思考とは、ターゲットとなる人々のリアルな暮らしや思いに深く寄り添い、その中から「隠れ不満」や「隠れニーズ」を見つけ出す思考法です。この思考法は、単なる課題解決にとどまらず、ビジョン、コンセプト、プランのすべてを形作る基盤となり得ます。
著者が提唱する「人生共感図」は、まさにこの人生思考を活用してアイデアを設計するための実践的なツールです。
人生共感図では、まず2つの三角形を描きます。左側には商品名やサービス名、企業名などを記入し、右側には「人生」と記します。ただし、「人生」は単なる抽象的な概念ではなく、具体的な顧客を設定することが重要です。例えば、「30代の主婦の人生」や「13歳の男子の人生」といったように、顧客の人生を明確にすることで、考える方向性がより具体的になります。
次に、左側にテーマとなる商品やサービス、企業が抱える課題を書き出します。これには、既存の情報やオリエンで提示された内容を反映させると良いでしょう。
そして、右側には顧客の人生を思い描き、その中に潜む「不満」を徹底的に洗い出していきます。この作業では、顧客の立場になりきり、彼らの日常や感情を細かく想像することがポイントです。
こうして出てきた複数の「隠れ不満」をさらに深掘りし、それを「確かに、ソレいいかも!」という感覚に変換することで、「隠れニーズ」を発見します。そして、その隠れ不満や隠れニーズを右側にまとめた後、左側の商品やサービスが提供できる機能や価値、体験をリストアップします。
これらを右と左で交互に見比べながら、顧客の人生側のニーズと商品・サービスの提供価値を重ね合わせていくのです。その結果、「本質課題」が浮き彫りになり、人々の心を動かす精度の高いアイデアが生まれます。 感動を生むコンセプトは、単に斬新なアイデアを出すことが目的ではありません。
それは、驚き、共感、共有という3つの要素を意識しながら、顧客の人生に深く寄り添い、心の中にある本質的なニーズを捉えるプロセスから生まれるものです。この考え方を取り入れることで、商品やサービス、企業の活動を人々のリアルな暮らしと結びつける癖が身につきます。
結局のところ、商品やサービスを支えているのは「人」であり、その「人」の思いとつながらないアイデアには意味がありません。だからこそ、プランもビジョンもコンセプトも、すべて「人生」とつながる必要があるのです。その中にこそ、心を動かす発見があり、商品が売れるアイデアが生まれるのです。
「ナラティブ」とは、小西氏いわく「居酒屋で話題になるようなネタ」と例えられるものです。つまり、誰かに自然と話したくなるような、共有したくなる物語。それをさらに発展させた考え方が「サーキュラー・ストーリー」です。これは、既存のナラティブを活かしつつ、欲しくなる商品アイデアを持つコミュニティを発見し、商品開発をドライブしながら市場へのアプローチも含めた、循環的でエコなストーリーのことです。
企業は商品と共に「ストーリー」を広告やPRを通じて世の中に発信します。そのストーリーに興味を持ち、反応した人々やコミュニティを見つけ出し、そこで盛り上がった話題やナラティブを収集します。その収集したナラティブを企業内でフィードバックとして活用し、次の商品の開発や改良に役立てます。
こうして進化した商品を、さらに「新しいナラティブを組み込んだストーリー」と共に再び世の中に届けます。そして、また新たに生まれるナラティブを拾い上げる。このように、ストーリーの循環を作り出しながら、継続的な商品開発を進めるのです。
このサーキュラー・ストーリーを成立させるための重要な要素が「共感タグ」です。共感タグは、心が動き、人に伝えたくなるきっかけをつくる核となるものです。そのためには、いくつかのポイントを意識することが重要です。
まず、信憑性を高めるために「ファクトを出す」こと。事実やデータが伴うことで、ストーリーへの信頼感が増します。そして、「具体的な行動」を示すことも効果的です。
「エコに貢献」では抽象的ですが、「3本のコンセントを抜きましょう」など、具体的な節電のメッセージは心に響きやすくなります。 さらに、「切望する」言葉を使うことが、人々の感情を動かします。「こんな商品が欲しい」「こんな未来があればいい」と思わせる表現が共感を生みます。また、
「数字を使う」ことで説得力を増し、具体的な比較や第三者の推奨を交えることで信頼を得ることもポイントです。 「実体験を語る」ことでリアルなイメージを伝えたり、「体感記憶」を利用して五感に訴えるエピソードを加えることも効果的です。
「比較」を活用することも重要です。例えば、モンドセレクションで最高金賞を受賞したという実績を打ち出したことで、ザ・プレミアム・モルツは売上を大きく伸ばしました。
こうして共感タグを活用することで、ナラティブやサーキュラー・ストーリーは、単なる物語を超えて人々の心に残るものとなります。それは、商品やサービスが単に機能的な価値を提供するだけでなく、人々の暮らしや感情と深く結びつき、自然と共有したくなるストーリーへと進化するのです。
プレゼンテーションには、単なる「説明」を超えて、多様な機能や効果が備わっています。その進化のプロセスをたどると、まずは「説明」から始まり、次に「説得」を経て「共感」へと至り、最終的には「共犯関係」を築くことができます。この「共犯関係」を生み出すことこそ、プレゼンテーションの最高の成果であり、理想的なゴールだと言えるでしょう。
さらに、この「共犯関係」を築くためには、「不満」に対する視点を変えることが重要です。多くの人は不満をネガティブなものとして避けがちですが、著者は「不満をワクワクするものとして受け入れる」ことの重要性を提唱しています。世の中に存在する不満や課題を、改善や解決の余地がある「可能性」として捉えることで、それは次なるビジネスチャンスや新しいアイデアの源泉となります。
プレゼンは相手の心にちゃんと届けて、目的を達成するためにやるべきものです。そしてその目的が終わっても、そこから相手との関係は続きます。そこにきちんと責任を持つというのが、これからのプレゼン。
プレゼンが終わった後も、人生は続いていきます。だからこそ、自分の思いに正直であると同時に、相手の気持ちにも真摯に向き合う姿勢が大切です。相手に寄り添い、信頼されるプレゼンを目指すことこそ、これからの時代に求められるプレゼンテーションのあり方だと著者は述べています。
この考え方を胸に、私もビジネスに取り組みたいと思います。プレゼンをゴールではなくスタートラインと捉えることで、顧客との関係が深まり、結果としてLTV(顧客生涯価値)の向上にもつながるのです。
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