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ホラクラシーの光と影 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文
著者:イーサン・バーンスタイン、ジョン・バンチ、ニコ・キャナー
出版社:ダイヤモンド社
本書の要約
ホラクラシー組織のリーダーは変化に適応するために、社員に柔軟性と自由裁量を与える必要があります。上下関係が存在しないフラットな組織であるホラクラシーでは、 権限が各グループにあり、スムーズな意思決定ができるようになります。リーダーの仕事は管理から、社員の士気を高めるコーチングにシフトします。
ホラクラシー経営とは何か?
すべての組織は確実性と順応性の両方を一定水準まで高めなければならないが、片方を高めるともう一方が下がるのが常だ。確実性のために過剰に規格化を進めると、市場の変化に鈍感な企業になりかねない。逆に順応性を重視しすぎると企業の細分化が進み、一点集中と規模が生み出すレバレッジ効果が失われる(スティーブ・ジョブズが不在の期間のアップルの迷走ぶりを思い出してほしい)。経営階層はどちらにも道を誤る可能性があるが、たいがいは確実性を重視しすぎる。そして組織は硬直化し、官僚主義が生まれる。(イーサン・バーンスタイン、ジョン・バンチ、ニコ・キャナー )
ザッポス伝説2.0 ハピネス・ドリブン・カンパニーの書評で紹介した自主管理型組織、ホラクラシーをもう少し知りたくなり、本書を読むことにしました。ザッポスの社員は社員は様々なサークルに属し、多様な仕事にチャレンジできます。彼らは顧客や社員との対話を通じて、新たな事業を起こせるのです。ザッポスは顧客の声と社員のやる気から、次々にイノベーションを起こしています。
しかし、ホラクラシーを採用した企業からは、「フラットな職場環境が柔軟性と職場の関係性が深められる」と言う評価と「昇進と報酬制度、責任の所在が曖昧で不透明」と言う声が混在しています。ホラクラシーで結果を出すためには、組織を正しく設計し、運用する必要があります。
組織だけでなく社員にも確実性と順応性が求められています。変化に適応するためには、社員に柔軟性と自由裁量を与える必要がありますが、多くの経営者はこの考え方を採用しません。リーダーにとって、確実性と順応性の適切なバランスがどこにあるかを把握するのは、簡単ではありません。また、ホラクラシーを取り入れても、確実性と順応性のバランスをとる実践はとても難しいと言う課題があります。
自主管理型組織が現場で目指す3つのもの
①個人の能力と組織の目標を一致させる役割を設計する。
伝統的な組織だと、それぞれの社員は守備範囲の広い役割を一つだけ担って働きます。多くの場合、社員が個人で業務を交換したり役割の内容を変えていくのは簡単ではありません。自主管理型組織の社員は、非常に具体的な複数の役割を担い、顧客体験を高めるために様々な業務を行います。
ザッボスの社員は1人平均7.4の役割を担い、顧客体験を高める努力を重ねています。社員はお互いに話し合い、任務遂行に最も適した人にその任務を割り当てます。このプロセスのおかげで社員は自分の強みと興味を活かせるようになり、主体的に働けるようになります。また、顧客との対話を通じて、やるべき新たな仕事が見つかれば、それを試す裁量権も与えられています
②仕事の現場に近いところで意思決定を下す
旧来型の組織は、肩書き、職務権限や上下関係が邪魔し、意思決定が遅れたます。また、責任の所在が不明確になりがちです。一方、新しい組織運営のホラクラシーを採用することで、意思決定のプロセスとルールが簡素化され、アイデアの実現スピードが早まります。
よいアイデアが生まれたら、関係者を直接訪ねて話し合い、やるべきことを明らかにしていきます。「役割と役割の突き合わせ」によって、意思疎通はより効率的かつ正確になり、確実性にとってプラスに働きます。正しい意思決定を行うためには、メンバー全員が自らの能力を明らかにし、課題を見つけたら、積極的に発言し、チームと議論する必要があります。
③市場の新しい二ーズに対応する
テクノロジーが進化し、マーケット環境が激変する中で、数人のリーダーだけで意思決定することはとても危険です。顧客の課題やニーズを掘り起こすために、社員に裁量権を与えるべきです。変化に適応できる柔軟な組織を作らなければ、新たに生まれるベンチャー企業にマーケットを奪われてしまいます。
ホラクラシー組織にリーダーシップが欠かせない理由
旧来型のマネジメント構造よりもホラクラシー型組織構造のほうがリーダーシップはいっそう重要かもしれません。権威に頼るのではなく、自分が具体例を示すことで人々を導き、士気を高めなければならないのです。(ホラクラシー導入企業のリーダー)
「個人の能力と組織の目標を一致させる役割を設計する」「仕事の現場に近いところで意思決定を下す」「市場の新しいニーズに対応する」と言う3つの目標を実現するためには、強力なリーダーシップが欠かせません。リーダーは社員が主体的に動ける自由な組織を作り、変化に適応すべきです。
ザッポスではホラクラシー導入前には150人のチームリーダーがいましたが、導入後は500のサークルに責任を持つ300人のリード・リンクが生まれました。ホラクラシーを採用することで、マネージメントも変わります。リーダーの仕事は、監督と指示から、設計、円滑化、コーチングにシフトします。
ホラクラシーの共同考案者のライアン・ロバートソンは、長期戦略に基づいた経営にはリスクがあると述べています。変化の時代には、自主管理型組織を導入し、変化にスピーディに適応すべきだと言うのです。
たとえば”自分は5年以内に○○になるべきだ”というように”べき”を強要すると、人はその目標に思い入れを持ってしまいます。この思い入れは、現実がその方向に行かなかった場合や、当初の目標と矛盾しかねない別の可能性が浮上した場合、それを感じ取る能力を削いでしまうのです。事前に定めた目標をもとに他人の行動を左右しようとしても、大変難しいことがわかるでしょう。(ブライアン・ロバートソン)
組織の順応性のレベルが高ければ、マーケットの変化に対応し、素早く軌道修正できます。多くのスタートアップやベンチャー企業は早い時期から自主管理を採用し、結果を出しています。ビジョンを明確にし、自主管理の運用方法を明らかにすることで、社員は主体的に動き、自分の能力を今まで以上に発揮できるようになります。
大企業の場合、全部門にホラクラシーを導入するのは難しいかもしれませんが、顧客と直接コミュニーケーションする部門では、自主型管理を採用すべきです。顧客の声を真摯に聴き、スピーディに対応することで、顧客体験を高められます。
よいリーダーとは、組織内のどの場所で階層構造をやめ、ホラクラシーを導入するのが最適かを見抜きつつ、同時に組織の根本的目的のためには階層構造がふさわしい場所ではそれを守る勇気も持つ人です。自主管理型チームを率いる能力のある新しいタイプのリーダーが率いる企業が、今後は成長していくはずです。
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