リモート経済の衝撃
野口悠紀雄
ビジネス社
本書の要約
テレワークによって、場所に左右されずに働くことが可能になります。職場、自宅、サードプレイスなど働く場所を増やすことで、家族との時間が増やしたり、新たな出会いをデザインできます。新たなネットワークとの交流やリカレント教育によって、斬新なアイデアが生まれ、イノベーションを起こせるようになるのです。
リモート技術が当たり前になる時代が到来!
リモートとはリアルの代替物ではなく、新しい大きな可能性を開くものだ。このことは、すでに企業の業績に現れている。(野口悠紀雄)
今回のコロナ禍の中、漸く日本でもオンライン会議が当たり前になりました。しかし、コロナが収まれば、日本の多くの企業はリモートをやめてしまいそうです。
日本がリモートの広がりを一時的なものと考えて対応を誤れば、再び日本は敗戦を迎えることになりそうです。 インターネットを中心とするIT革命に乗りくれた日本企業は、アメリカや中国のIT企業が成長し、時価総額を高める中、取り残されてしまいました。
デジタル化がもたらす変化の核心は、リモートワークを可能とし、かつ効率化することです。結果、欧米や中国の企業は生産性を高めることに成功しています。リモートワークなどのDX化を先延ばしすると、日本の生産性は低迷したままで、ますますアメリカや中国企業との差が広がってしまいます。
日本ではメタバースがバズワードになっていますが、アメリカのIT企業は本気で取り組んでいます。マイクロソフトのサティア・ナデラは、Activision Blizzardの買収意向を発表した際、次のようなメッセージを発信しました。
Activision Blizzardはメタバース プラットフォームの発展においても、重要な役割を果たすことになるでしょう(サティア・ナデラ)
Activision Blizzardの買収額は、総額687億ドル(約7.8兆円)に上り、この投資額マイクロソフトの本気度を明らかにしています。
メタバース計画には、マイクロソフトやメタ(フェイスブック)だけでなく、さまざまな企業が参入しています。ブロックチェーンの新しい技術であるNFT(非代替性トークン)を利用して、仮想空間内の経済取引を実現しようとする計画もあります。
テレワークがもたらすメリット
リモート技術の利用は、コロナ禍において急速に社会に広まった。コロナが終息したとしてもなくなるものではない。コロナ後の社会の重要な要素として残るだろう。グーグルが多大の資源を投入してProject Starlineを推進しているのは、コロナ後においてもリモート技術に対する需要は強く残るという見通しがあるからだろう。
グーグルのProject Starlineは、遠くにいる人とまるで目の前にいるかのように面会できる手段です。人間を3Dキャプチャし、それを圧縮して伝送することで、3Dメガネやヘッドセットなどを装着しなくとも、裸眼で立体視ができる「ライトフィールドディスプレイ」を使うことによって、3D画像を自然な形で立体的に見ることができるようになります。Project Starlineを使うことで、私たちの会議体験はリアルに近づきます。
2021年8月、フェイスブック(現メタ)は会議やセミナーを仮想空間で開くサービス「Horizon Workrooms」をスタートしました。
メタバースは「モバイルインターネットの後継者」だ。VRやARは、PCやスマートフォンに続く、主要なコンピュータプラットフォームになる。(マーク・ザッカーバーグ)
Horizen Workroomsでは、利用者が自分に似せたアバターを作り、会議に参加します。この仮想空間は、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)の技術を活用して作られたもの(メタバース)になり。メタバースの中で人々と交流したり、会議をしたり、買い物やゲームをすることが可能になります。フェイスブックはSNSの企業からメタバースの企業へ変わるとザッカーバーグは宣言しています。
マイクロソフトはアバター方式ではなく、ホログロムを用いた「Hololenz 2」というARゴーグルでのサービスをリリースしています。Holoporationは、複数の3Dカメラで撮影した人物の3Dモデルでリアルタイムで転送します。情報を保存した後、Hololenz 2での再生も可能になります。3次元の等身大ホログラムが会議室に投影されるので、あたかも会議室にいるようにコミュニケーションを行な得るようになります。
しかし、リモート会議やメタバースの技術が進んでも、日本人の意識は他国とは異なるようです。 野村総合研究所のアンケートでは、在宅勤務が仕事の生産性に与えています。「生産性がかなり落ちた」「やや落ちた」の合計の比率が他国より高くなっています。
日本48%
中国47%
韓国41%
アメリカ40%
イギリス40%
イタリア30%
スウェーデン28%
ドイツ26%。
日本で在宅勤務があまり進まないのは、技術的な理由によるというよりは、「日本型の働き方」による面が大きいと思われる。
在宅勤務で働く場合にもっとも重要なのは、勤務評価を成果主義に転換することです。日本の組織では、これまでは、「成果」よりも「オフィスにいるかどうか」や上司への忖度が評価されていました。当たり前ですが、勤務評価の基本を成果主義に転換し、オンラインで成果を出せる人を採用しなければ、今後の技術革新の波に乗り遅れてしまいます。上司のマインドセットを変えない限り、日本は成長できない国になってしまいます。
日本の都市の場合、通勤条件の劣悪さを考えると、オフィスワークのコストは諸外国に比べて高くなります。オフィスに通うことがそれだけのコストを補うに見合うものであるかどうかを考える必要があります。また、オンラインシフトで都心の高いオフィス家賃もを払わずにすみ、経費を削減できます。
テレワークでは職場では当たり前だった雑談の機会が減り、アイデアが生まれなくなるという指摘があります。これもオンラインで「アジェンダ(議題)のない会議」を行うことで解決できます。同じような問題意識をもつ人を集め、雑談を積極的に行うことで、新しいアイディアが生まれるようになります。
また、テレワークによって、場所に左右されずに働くことが可能になります。職場、自宅、サードプレイスなど働く場所を増やすことで、家族と過ごす時間を増やしたり、新たな出会いをデザインできます。新たなネットワークとの交流やリカレント教育を受けるなど自己投資を重ねることで、斬新なアイデアを生み出せるようになります。
人生100年時代に、自分の可能性を広げることで、いつまでも仕事を続けることが可能になります。新たなIT技術を活用し、働き方や学び方を変えると決めた人が、企業から選ばれる人になり、人生をエンジョイできるようになるのです。
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