働かないニッポン (河合薫)の書評

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働かないニッポン
河合薫
日経BP

働かないニッポン (河合薫)の要約

河合薫氏は、働くことは私たちの人生を豊かにし、社会とつながる重要な手段であると指摘しています。しかし、最近の日本人は仕事に対してやる気がなくなっています。この問題を解決するために、個人が自分の仕事に対する考え方を変えることが必要です。仕事に対する意欲を高め、幸せを追求することができると言っています。

なぜ、日本人は働かなくなったのか?

階層最上階のスーパー昭和おじさん・おばさんがやるべきことをやらず、変えるべきところを変えず、花火だけを打ち上げ続けた末路が、現在の「働かないニッポン」なのです。

本書『働かないニッポン』は、健康社会学者の河合薫氏によって書かれた本です。この本は、日本人の働く意欲の低下や働かない状況について論じています。

著者は、日本人の働く意欲が世界的に見ても最下位であると指摘し、その原因を探求しています。実際、「仕事に熱意のある社員、わずか5%」しかおらず、昭和世代のトップ階層のおじさん・おばさんが若い世代のやる気を削いでいると言います。 多くの日本の労働者は働かされていると感じることで、自分のモチベーションを下げています。

経営層が社員が受け身になるような働き方をさせることで、やる気をなくした人々は社会から距離を置き、モラトリアム化しているのです。

この問題の背後には、日本の労働文化や働き方の構造に関わる要素があります。例えば、長時間労働や過度な仕事量、上下関係の強さなどが挙げられます。これらの要素が、働く意欲を削ぐ原因となっているのです。

本書はプロローグから始まり、著者が実際に会社員へのインタビューを通じて、働かないニッポンの構造的な問題を明らかにしています。例えば、やる気をなくし窓際族を目指すエリートや、世帯収入が3000万円でなければ就職する意味がないと考える女子大生など、様々なケースが紹介されています。

若い世代の調査によると働きたくない人が10年前に比べて、確実に増えていることがわかります。私たちの社会はどんどん生きづらくなり、個々人が生産性を下げることで、日本は長い間、閉塞状況を打破できずにいます。

日本衰退の理由のひとつが昭和世代のトップ層にあると著者は指摘します。

本当の生きづらさの原因は、社会構造に責任を負うべき階層最上階の人たちの一部にあるのに、自己責任論ばかりが蔓延っている。 おかげで弱い立場にいる人ほど「自分が悪いんじゃないか」「自分の頑張りが足りないんじゃないか」と感じてしまう社会になってしまいました。 いつだって社会の歪みはまっさきに立場の弱い人に向かうのです。

本来、「仕事=work」は「私」という存在の表現であり、生きる力の源だと著者は指摘します。私たちは仕事を通じて自己実現し、自己肯定感を得ることができます。

しかし、日本社会は、この本来の意味をなくしています。日本の社会構造には、「自分が存在する意味=自分への自信・自分の仕事への誇り」を持つことが難しい状況が存在しているのです。

組織社会化は、新入社員が組織の文化や仕事の仕方を理解し、組織の一員として定着するプロセスです。そのためには、新入社員が自分自身を試す機会や成功経験を得ることが重要です。また、他者からの承認も必要です。

組織社会化には「自分自身を試す機会がある、その仕事をやり遂げられる、要求される仕事のプレッシャーに耐えられる」といった成功経験を促すサポートと、「自分には価値がある」と思える他者からの承認が不可欠です。

しかし、上司が組織社会化をサポートする役割を果たさない場合、新入社員は組織に適応することが難しくなります。 上司は、新入社員に対して責任を明確にし、頑張っている部下にねぎらいの言葉をかけ、背中を押すことで組織社会化を支援することが求められます。

上司の存在は、新入社員や若手社員にとって頼りになる存在であり、組織社会化のプロセスを円滑に進めるために重要な役割を果たします。若手の面倒を見る上司が減ることで、日本の若者はやる気を失っているのです。

SOCが働くモチベーションを高める理由。

今の日本社会では、何を目的に頑張ったらいいのかさえ分からず、上にはむかうのもめんどうくさい。頑張って働くのもめんどうくさい、人間関係もめんどうくさい、すべてがめんどうくさいと思えるほど、人々の心はすさみ切っているように見えます。もはや今の日本には「自殺」するだけの勢いもないくらい、社会は衰弱しています。

人は幸せになるために生まれてきました。私たちは生きるために働き、幸せを追求しています。働くことは、私たちと社会をつなぎ、人生を豊かにする最良の手段です。 生きる力と幸せになる力は、Sense of Coherence(SOC)と呼ばれる心理的な機能によって作用します。

SOCは、人生の困難や危機に対処し、元気でいられるようにする力です。これは私たちが持つポジティブな心理的な機能であり、世界が最終的には私たちに微笑んでくれるという確信を持つことを意味します。 幸せを追求するためには、まずは自分自身とのつながりを大切にすることが重要です。自己理解や自己受容を深めることで、自分自身を幸せに導くことができます。

また、他者との関係性も幸せになるための重要な要素です。人間関係を築き、愛や支援を受けることで、心の安定と幸福感を得ることができます。

しかし、このSOCが日本の職場では著しく下がっていると言います。1990年代以降の日本の職場は、「労働の奴隷」と形容されるような状況になってしまいました。これは、働く人々のSOC(Subjective Well-Being in Organizations)を高める場所ではなく、むしろ弱めてしまう場所になっているのです。

この時代以降、働いても賃金は上がらず、能力を発揮する機会も減少しています。さらに、裁量権も与えられず、他者との接触や敬意も軽んじられています。SOCの形成には、自分の半径3メートル世界の人々との質の良い関係が不可欠ですが、今の日本の職場ではそれが圧倒的に欠損しているのが現状です。

SOCは、「把握可能感」「処理可能感」「有意味感」という3つの感覚で構成されています。 まず、「把握可能感」とは、自分が直面した困難を把握し、理解できる感覚を指します。つまり、困難な状況においても、自分が何が起きているのかを理解し、受け入れることができる能力です。この感覚が高いと、困難な出来事に直面しても、冷静に対処することができます。

次に、「処理可能感」とは、直面した困難に対処できると思える感覚を指します。つまり、問題解決の手段や方法を持っていると感じることができる能力です。この感覚が高いと、困難な状況においても、自分自身で問題を解決できる自信を持つことができます。

そして、「有意味感」とは、日々の生活や出来事が自分にとって意義や価値があり、挑戦とみなせる感覚を指します。つまり、困難な状況においても、自分の人生に意味があると感じることができる能力です。この感覚が高いと、困難な出来事にも前向きに取り組むことができます。

この3つの感覚が高い人は、ストレスや困難な状況にも強く立ち向かうことができます。特に「有意味感」は、SOCのエンジンとなる感覚であり、日々の生活において意義や価値を見出すことが重要です。

仕事とは「私」と「他者」をつなぐものであり、「私」は「他者」と関わることでしか有意味感=自分の存在意義や価値を認識できません。心理的報酬は働く人だけが手にできる、人生の宝物です。 

著者は、働く意欲を高めるために。まずは、個人の働くことへの意識改革を行うべきだと言います。いつの間にか、自分本位で他者とのつながりの弱くなった日本では、働くことが面白くなくなっています。社会は個々の利益追求や孤立を重視し、人とのつながりが薄れ、幸福度を下げています。

このような状況を打破するためには、周りの人に優しくすることが大切になります。 私たちは日常の中で様々な人と接する機会があります。職場や学校、地域の人々との関わりは、私たちの生活において欠かせないものです。

多種多様な「温かい半径3メートル世界」が広がれば、光のある社会ができあがります。自分の周りの人に優しく接することで、人とのつながりを築くことができます。笑顔や挨拶、お互いの助け合いなど、些細な行動が積み重なり、社会全体の雰囲気を変えられるようになります。

このような社会であれば、人々は「あなたは大切な人」というメッセージに触れることができます。自分が存在することに意味を感じ、幸せを感じることができるのです。また、他人に対して優しさを示すことで、自分自身も心が豊かになります。人とのつながりが深まることで、仕事に対するモチベーションも高まるはずだと著者は指摘します。


 

 

 

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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