ジョブズの交渉力を再評価する。ブレント・シュレンダーの「スティーブ・ジョブズ」の書評

すごいんですよ。部屋に入って『ウチのコンピューターを買う権限を持っている人はどなたですか』と聞けるんです。だれもいなければ、相手をしません。 『取引できる権限のある人としか交渉はしません』と言って帰ってしまいます。スティーブは手榴弾を投げこんでから部屋に入るよねと、私たちはよく言っていました。そうしてみんなの注目を一瞬で集めてしまうんです。(ジョン・ラセター)

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ジョブズ
と最も仲のよかったジャーナリストのブレント・シュレンダーが書いた
スティーブ・ジョブズ 無謀な男が真のリーダーになるまで書評を続けます。
本書を読むことで、今まであまり語られなかったApple追放時代のジョブズの成長を知ることができます。
このときのジョブズの交渉力と行動力はパワフルで、彼の第2の成功の原動力になったのです。

ジョブズはAppleを追い出された後、彼が新しく起業したNeXTで
なかなか結果を出せずに苦労していました。
そんな中、ピクサー(ルーカスフィルム)に投資することで
彼は表舞台に戻るきっかけを作ります。
ジョージ・ルーカスが慰謝料問題で苦しんでいる絶妙なタイミングで買収を行い
少ない投資額でピクサーを手に入れてしまうのです。

ピクサーのジョン・ラセターの才能に気づいたスティブー・ジョブズは
彼らとの時間を過ごしながら、コンテンツが莫大な資産になることを見つけます。
そして、「ちゃんとしたものを作れば、その作品は永遠に残るんだ」という名言を残します。
コンピュタには3年から5年という寿命がありますが、映画などのコンテンツに寿命はありません。
彼は自社で映画を制作できるだけの資金を調達して、ディズニーのパートナーになろうとします。

ジョブズは、IPOを映画トイ・ストーリーの公開1週間後に設定します。
映画がこければ、IPOも失敗してしまいますが、彼はここで大きな賭けに出ます。
結局、トイ・ストーリーは大ヒットし
ピクサーを有名にすると同時に、再び彼を資産家にします。

我々が団結して制作に当たっている様子を見ることから、また、我々が一緒に楽しく働いている様子を見ることから、スティーブは元気をもらっていたのだろうと思います。アップルに戻ってからの彼が違っていた理由のひとつがこれなのではないでしょうか。ほかの人の才能を認めるようになった、そういう才能に刺激を受け、自分も負けずにがんばろうと思うようになった、さらには、そういう人々を刺激し、自分にはできないとわかっているすばらしいことをやらせようと思うようになったのではないでしょうか。

また、ピクサーからマーケティングとチームワークのヒントをもらうことで
自分を今まで以上に成長させていきます。

ジョブズはここでも大きな賭けに出ます。
自作のバグズ・ライフの制作が進む中で、興行収入の条件の見直しをディズニーに求めます。
IPOとトイ・ストーリーの成功でディズニーとの力関係は一変しました。
ジョブズはこの千載一遇のチャンスを逃がしませんでした。
5年前にピクサーを救った契約をなんと破棄してしまうのです。
ジョブズは天才ラセターを武器に、ディズニーのアイズナーCEOを揺さぶり
なんと12.5%だった興行収入を両社で折半にしてしまうのです。

ほぼ同時期に彼はNeXtでも離れ技を演じます。
長年苦楽を共にしてきたNeXtの社員を救済するのです。
なんと古巣のAppleにNeXtを4億ドルで買収させ、技術力のある彼らをAppleに移籍させてしまいます。
ギル・アメリオとジョブズの両者の思惑が合致することで
この歴史的な買収が成立し、スティーブ・ジョブズもAppleに復帰します。

そして、スティーブが古巣の倒産を防ぐために
自分を呼び寄せたアメリオなどの旧経営陣を翌年には追い出します。
当時のApple経営陣にはリーダーシップがありませんでした。
マーケティングのチームは20以上あり、それぞれバラバラに動いていたのです。
当然製品ラインはぐちゃぐちゃで、誰も責任を取ろうとしませんでした。
そして1987年のマックワールドでアメリオにリーダーシップがないことが公になります。
彼の基調講演は話がダラダラで、自分が何を話しているのかすらわからず、大失敗に終わりました。
一方、ジョブズの企業戦略のプレゼンは、短くクールで、キレがあったのです。

この後、本書の著者のブレント・シュレンダーをはじめ
多くのジャーナリストがアメリオたたきを行い、取締役会も動揺します。
そして、スティーブはApple株を売却し、アメリオに不信任をつきつけます。
ここで、彼にCEO復帰のオファーが入りますが、ジョブズはここで大きく悩みます。

著者のブレント・シュレンダーはこれこそが、スティーブが成長した証だと書いています。
スティーブは、素早い行動と慎重な判断を上手に組み合わせて動くようになったのです。
この時、彼はCEOを断り、自分がつくったAppleを救うためにアドバイザーに就任します。
この時のジョブズの神がかり的な動きは、今読んでも感動できます。

ストックオプションの買い取り価格を上げて、社員に夢を持たせたり
取締役会を総入れ替えるなど矢継ぎ早に行います。
そして、盟友のビル・ゲイツとの交渉で
マイクロソフトへの訴訟を取り下げ、両社の関係を改善していきます。
Mac版のオフィスの提供と議決権のない株式1億5000万ドルを投資させることで
マイクロソフトと倒産寸前のAppleが一蓮托生であることを世の中に示しました。
そして、この合意がAppleの窮状を救い
スティーブ・ジョブズにリーダーシップがあることも明らかにします。

この提携後すぐのマックワールドで
有名な「シンク・ディファレント」というメッセージが使われるようになり
Appleが本当に世界を変える一歩を踏み出したのです。

今日もお読みいただき、ありがとうございました。
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photo credit: spacechiliblog DSCSTEVE JOBS 1955 – 2011 Exhibition in TurinN3274 via photopin (license)

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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