新時代を生き抜く越境思考 ~組織、肩書、場所、時間から自由になって成長する(沢渡あまね)の書評

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新時代を生き抜く越境思考 ~組織、肩書、場所、時間から自由になって成長する
沢渡あまね
技術評論社

本書の要約

ホームとアウェイという異なる環境を往還することで「価値観の揺らぎ」が生まれます。居心地の悪い環境にあえて越境することで、「気づき」「発見」「学び」が得られます。越境は、組織の景色を変え、人の意識と行動を変え、やがてはイノベーションが起こるようになります。

越境思考のための3つのハイブリッド

自組織単独(スタンドアローン)で問題解決や新規価値創造がしにくい時代、3つのハイブリッドを乗りこなすことのできる組織や個人は強い。その3つとは、場所のハイブリッド、顔のハイブリッド、組織のハイブリッドです。(沢渡あまね)

場所、顔、組織の3つのハイブリッドを身につけることで、人生をより豊かにできます。ビジネスが複雑になる中で課題を解決するためには、閉じた世界である会社組織だけで生きることはリスクになります。過去の延長線上で行動するだけでは、解決策は見つかりません。

多様な組織の中で解決のヒントが見つかる可能性が高いのですから、ネットワークを拡大するために、私たちは今こそ越境体験を積極的に行うべきです。

普段の環境(ホーム)と普段とは異なる環境(アウェイ)とを往還すること、越境することで「価値観の揺らぎ」が生まれます。私たちは居心地の悪い環境にあえて越境することで、「気づき」「発見」「学び」を得られます。

このブログでもおなじみの既存事業の深化と、新規事業の発掘(探索)の双方の必要性を説いた経営理論である「両利きの経営」は、経営者だけのものではありません。一般の社員もこの経営マインドを持たなければ、ビジネスで結果を残せません。 業務の深化と探索のためには、現場レベルでの業務改善は避けて通れないでしょう。

企業を成長させたければ、既存事業やプロセスを俯瞰して問題や課題を指摘し、いままでとは異なるアプローチを取り入れる必要があります。当然、新規事業を行う際には、自分たちの組織の知識や体験だけに頼っていては適切な解決策は見つかりません。

クレイトン・クリステンセンはイノベーションを起こすためには、以下の5つの力が必要だと述べています。(関連記事・イノベーションのDNA
①質問力
物事の探求に情熱を燃やす。彼らは現状に異議を唱えるような質問をよくします。

②観察力
周りの世界、顧客、製品、サービス、技術、企業などに注意深く目を光らせ、観察を通して新しいやり方のもとになる洞察やアイデアを得ています。

③ネットワーク力
イノベータは、多様な背景や考え方をもつ人たちとの幅広いネットワークを通じて、アイデアを見つけたり試したりするのに、かなりの時間と労力を費やしている.

④実験力
イノベータはつねに新しい経験に挑み、新しいアイデアを試しています。実験者は頭の中で、また経験を通して、世界を飽くことなく探求し、判断を保留しながらさまざまな仮説を検証しています。

⑤発見力
認知的スキルの関連づける力

イノベーションは先天的なものではないのですから、「質問」「観察」「ネットワーク」「実験」「関連づける」という5つの力を活用し、革新的なアイデアを生み出しましょう。

当然、社内だけで5つの力を活用するには、無理があります。過去の成功パターンを頼るのではなく、クロスファンクション(組織横断)とクロスボーダー(越境)を両立させ、結果を出しましょう。

スタンドアローンで答えを出せる事業領域と、クロスファンクション/クロスボーダーでないと答えを出しにくい事業領域があると認識し、組織体制を変えることが経営者に求められています。

越境してクロスファンクション/クロスボーダーで成果を出せるようになるためには、組織体制を変えたり、ルールを変えたり、もちろん経営層や管理職を含む働く人々のスキルやマインドを変えなければうまくいかないでしょう。

大切なのは、組織や立場が異なる人と合意形成をして物事を進めるマインドやスキルを身につけることです。

3つのつながりを意識することで、越境へのハードルを下げられます。
①テーマでつながる
問題や課題、あるいは研究テーマなどを通じて共感者とつながるアプローチ。

②立場でつながる
同じ職位や近しい職責を担っているなど同じ立場で、企業組織や部門を越えて仲間を見つけるアプローチ。

③ライフステージ/ライフスタイルでつながる
同じライフステージや、同じライフスタイルの人同士でつながるアプローチ。

私は以前、社外取締役をしていた会社で上場した経験がありますが、そのノウハウを提供するうちに、IPOに関わる人たちのネットワークが大きくなりました。経営者、士業、コンサルタント、証券会社の経験豊富な人たちとの出会いが、私に多くの刺激を与えてくれました。広告会社出身である私にとってこのアウェイの環境から、多くの学びが得られ、その後のビジネスに良い影響を与えてくれたのです。

様々なつながりを意識することで、クロスボーダーのネットワークが拡大し、多くの人の知識と体験をと自分の知恵を関連づけることで、クライアントに貢献できるようになります。

社外取締役、アドバイザーという私の仕事は究極の複業で、DXや働き方改革が欠かせません。zoomやGoogle、Slackのおかげで、自宅、シェアオフィス、車の中などで私はボーダレスに働けるのです。

魔法の言葉が社員を動かす!

大都市のほうが、情報も人も集まりやすい。先進的な人材を獲得しやすく、高利益のビジネスモデルを回しやすいリアルはまちがいなく存在します。中小企業より大企業のほうが、ブランド力も投資余力もあり、人海戦術で新たな事業を始めやすく、スケール(拡大)させやすい優位性もあるでしょう。 そうなんです。立地や企業規模は不公平なのです。

大企業の方がブランド力があり、採用でも優位に立てます。地方の中小企業には多くのハンディがあることは間違いありません。しかし、ITを活用し、越境思考でポジティブに自社を捉えることができれば、戦うことは可能です。

地方都市も中小企業も、つながるハンデを克服すれば、新たなビジネスモデルや雇用モデルを創出すること可能なのです。

言い訳をやめ、自社がコントロールできることに全力投球することで、新たな「勝ちパターン」が見つかります。 著者は以下の「3つの戦略」を有機的に組み合わせることで、社員にやり甲斐を与えられ、企業を強くできると述べています。

①採用戦略
どのような人材を採用するか? その地域にない経験や能力を持った人を、いかに採用するか?テレワーク、フレックスタイム、週3日勤務のような柔軟な働き方を取り入れることで、優秀な人を呼び寄せることが可能。

②定着戦略
優秀な社員を定着させ、彼らのエンゲージメントを高めるようにします。会社の課題を潰し、越境人材が働きやすい会社にし、新たなビジネスモデルを経営者が先頭に立って、創出すべきです。

③ビジネスモデル戦略
デジタルの力を活用し、より高収益、高利益なビジネスを実現します。その利益で社員に還元するのです。

DXを活用することで、下請けから脱却し、大企業との取引が可能になります。またフルリモートで働ける環境を用意することで、優秀な人材を採用できるようになります。越境思考のある人材を集めることで、古くからいる社員の思考と行動も変わります。

金沢市の山岸製作所は、家具の製造と販売を手掛けてきましたが、6代目である山岸晋作さんが就任してから家具インテリアの販売、オフィスデザイン、ワークスタイルのコンサルティング業務に転換し、業績を伸ばしています。

山岸氏は中小企業のダメな会社には、悪魔の言葉があると言います。逆に成長している企業では、魔法の言葉が使われていると言います。
「~だからできない」→悪魔の言葉
「~だからこそやれる」→魔法の言葉

経営者と社員が悪魔の言葉を使うのをやめ、魔法の言葉を使うことで、前例主義の悪しき習慣から抜け出せます。

『小さい企業だからできない』『地方だからできない』ではなく、中小企業だからこそ変化しやすい、地方だからできる。これを追求していきたいですね。(山岸晋作)

本書に紹介されている中小企業のケーススタディからパワーをもらえます。都心のベンチャー企業や大企業でしかできないと思われているDXやワーケーションなどの取り組みを地方の中小企業が実践しています。本書のメッセージをしっかり受け止め、マインドと行動を変えることで、古い体質から脱皮できます。

VUCAの時代に新規事業で企業を成長させるためには、前に踏み出す力(アクション)、考え抜く力(シンキング)、チームで働く力(チームワーク)が欠かせません。
■前に踏み出す力
①主体性(物事に進んで取り組む力)
②働きかけ力(他人に働きかけ巻き込む力)
③実行力(ゴールや目的を設定して確実に実行する力)

■考え抜く力(シンキング)
④課題発見力(現状を分析し目的や課題を明らかにする力)
⑤計画力(課題解決に向けたプロセスを明らかにして準備する力)
⑥創造力(新しい価値を生み出す力)

■チームで働く力(チームワーク)
⑦発信力(自分の意見をわかりやすく伝える力)
⑧傾聴力(相手の意見や話を丁寧に聴く力)
⑨柔軟性(意見の違いや立場の違いを理解する力)
⑩情況把握力(自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力)
⑪規律性(社会のルールや人との約束を守る力)
⑫ストレスコントロール力(ストレスの発生源に対応する力)

問題や課題を解決したり、新たな価値創造をおこなうために、越境を当たり前にしましょう。アウェイの人たちとはコミュニケーション力とITという武器が欠かせません。越境は変革のためのきっかけであり、エンジンであるという著者の言葉が響きました。見える景色が変われば、組織は変わるのです。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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