事業開発一気通貫 成功への3×3ステップ
秦充洋
日経BP
本書の要約
事業開発は以下の「3サイクル×3ステップ」を一気通貫で行うべきです。[1]発想のサイクル ①事業コンセプト②顧客への提供価値③顧客検証[2]モデル化のサイクル ④バリューチェーン⑤マネタイズモデル⑥キャッシュフローモデル[3]実行と巻き込みのサイクル ⑦チームとアライアンスを育てる⑧事業とオペレーションを絶えず見直す⑨事業開発を組織で支える
事業開発の「3サイクル×3ステップ」
事業開発にあたってはまず、既存事業でやっているやり方をいったん棚上げし、「事業開発の常識」を担当者はもちろん、上司や経営陣も学び、認識を改めるところから始める必要があります。(秦充洋)
変化に適応しなければ、会社の存続が厳しくなっています。市場環境の変化、SDGsへの対応、顧客体験のアップ、人口減少で優秀な社員の採用が難しくなる中、新規事業の開発が多くの企業経営者の共通課題になっています。
しかし、新規事業を行うことはとても難しく、多くの経営者や担当者が悩みを抱えています。事業開発に関する悩みは以下の3つに分類されると著者は指摘します。あります。
①アイデアに関する悩み(どう創造するのか?)
②ビジネスモデルに関する悩み(どう構築するのか?)
③巻き込みに関する悩み(社内の関係者をどう巻き込んでいくのか?)
事業開発は「3サイクル×3ステップ」を一気通貫で行うべきというのが著者秦充洋氏の主張になります。
[1]発想のサイクル
①事業コンセプト ②顧客への提供価値 ③顧客検証
[2]モデル化のサイクル
④バリューチェーン ⑤マネタイズモデル ⑥キャッシュフローモデル
[3]実行と巻き込みのサイクル
⑦チームとアライアンスを育てる ⑧事業とオペレーションを絶えず見直す ⑨事業開発を組織で支える
まずは、発想のサイクルの3ステップから考えてみましょう。
①事業コンセプト
インプットを基に数多くの「事業アイデア」の中から「事業コンセプトの仮説」を発案し、それらについてターゲット顧客の仮説を立て、顧客理解を通じて提供できる価値の仮説を明らかにして、本当にその仮説が成り立つのかを実地に検証する。さらにその結果をフィードバックして検証された「事業コンセプト」がまとまってくるというサイクルです。
多くのアイデアを出すためには、十分なインプットが欠かせません。世の中の変化や顧客の理解、有効なビジネスモデルなど、考える材料があること、そしてそれらを踏まえた発想手法を使うことでアイデア出しの難易度は大いに下がると言います。
3C、4P、5フォース分析などさまざまなフレームワークを活用し、情報収集や検討の効率と精度を高めます。アウトプットした要素と要素を掛け合わせ、50のアイデアをチームで作成します。そこからアイデアに優先順位をつけ、3つ程度に絞り込み、以下の視点で事業の可能性を検証し、初期仮説を組み立てます。
・当社の事業ドメインか?
・顧客はつくのか?
・儲かるのか?
・実現できるのか?
・強みを生かせるのか?
・真似されないか?
②顧客への提供価値
まず、キャズム理論を活用し、初期顧客と成長顧客を定義します。同時に顧客体験を高めるための提供価値をデザインします。絞り込んだ市場で最初の成功を獲得することで、次のステップに初めて進めるのです。顧客の提供価値を的確に表現することで、顧客が商品やサービスを自分ごと化してくれます。顧客の事例やPR記事を活用し、エビデンスを用意することで次の顧客を獲得できるようになります。
顧客理解を深めるために、カスタマージャーニーを設計します。その際、以下の視点を持つことで、顧客の課題やプロトタイプやマーケティングの仮説が作れます。
・顧客が持つ潜在的な課題、困りごと、妥協
・それに対する現在の顧客の対処方法、代替品、競合品・それが解消できることの顧客にとっての価値
・インパクト
・対象となる顧客の属性、セグメンテーションの切り口のヒント
・購買行動やタッチポイントの理解
マーケットを拡大するためには13.5%のアーリーアダプターを獲得することが肝になることを忘れないようにしましょう。また、顧客仮説を時系列で並べてみることによって、新規事業の「成長ストーリー」が見えてきます。初期顧客を取り組んでいる間に、顧客実績やマーケティングノウハウ、テクノロジーが蓄積できます。それを見ながら今後の成長戦略を考えることで、事業計画の精度が高まります。
私はベンチャー・スタートアップの支援をしていますが、この顧客の提供価値が整理できると事業がうまくいく可能性が高まることを実感しています。 最終的に成長顧客を念頭に置きつつ、まずは初期顧客で実績と収益を確保しながら、継続的な投資を行い、市場拡大を目指していくようにしましょう。
③顧客検証
顧客検証で必要なのは、潜在ニーズを発見するための「プロトタイプ・MVP(Minimum Viable Product)」づくりです。重要なのは、できる限り早い段階でターゲット顧客や関係者にプロトタイプを見せてフィードバックをもらうことです。当初の仮説は間違っていることが多いため、プロトタイプを活用し、仮説の検証を徹底的に行います。
プロトタイプをつくって、顧客ニーズを検証するためには以下のステップを行うようにします。
1、顧客の行動をカスタマージャーニーなどで理解して潜在的課題を発見する。
2、プロトタイプを検討し、作成する。(最初は精巧なものにせずにラフなもので大丈夫です。)
3、プロトタイプを顧客に検証してもらう。(その際、アーリーアダプターの発見を意識する)
4、修正と検証を繰り返す
例えば、プロトタイプの検証中に顧客の提供価値を見直す必要があると分かれば、提供価値を再検討します。その上でプロトタイプを再度作り直します。顧客の価値の検討に戻らずに、プロトタイプの調整で対応しようとすると未来に大きな失敗を犯すことになります。初期の段階の小さな失敗は取り戻せると考え、提供価値のステップに戻るようにしましょう。
利益の出るビジネスモデルをどう設計するか?
売上とコストの差がプラスになるように事業を設計することが「ビジネスモデルの構築」となります。
マージン型、バリューアップ型、フリーミアム型などいくつかのビジネスモデルの型から、自社にフィットし、かつ利益を上げる仕組みを考えます。モノ売りからコト売りへの転換(サービス・ドミナント・ロジック)をつくることで、顧客の課題を解決することで、利益を上げられるようになります。
ここでバリューチェーンを中心にモデル化のサイクルについて考えてみます。
④バリューチェーン
事業を円滑に運営するための業務の流れ、またその実現に必要な社内外のパートナーとその体制を設計します。バリューチェーンを設計することで、事業コストの算出ができるようになります。
バリューチェーンの設計は以下の4つのステップを踏みます。
1、業界のエコシステムを把握する
2、オペレーションを設計する
顧客とそこへの提供価値を念頭に、業務プロセスや運用プロセス、サプライチェーンなど、必要な体制や機能、技術やノウハウを洗い出します。 次に作業や業務をイメージし、運用プロセスとサプライチェーンを描きます。
3、マーケティングを設計する
顧客にアプローチして、実際に顧客になってもらうために必要な体制や機能、技術やノウハウを具体的に洗い出します。顧客が実際に製品やサービスを利用する過程(利用プロセス)と、そこでのタッチポイント(顧客接点)を整理します。その際、マーケティングのための新たなカスタマジャーニーを描き、抜け漏れを防ぎながら、正しい施策を設計するようにしましょう。
4、ブレイクスルーをつくり込む
より高いレベルの成功を手に入れるためには、何らかのブレイクスルーを用意することが求められます。外部パートナーの技術、ノウハウ、顧客基盤の活用によって課題を短期間で解決できるようになります。
⑤マネタイズモデル
「誰から、どのような名目で、いくら支払ってもらうか」を示すマネタイズモデルを設計することも重要です。顧客基盤と継続収入の拡大を行い、 「価格・客単価」「数量・顧客数」「固定費」「変動費」の利益ドライバーをどう動かせるのかを検討します。これらの間にあるトレードオフを乗り越える施策を考えることで、利益アップが図れます。また、顧客の生涯価値(LTV)に着目することで、顧客体験を高めることを考えられるようになります。
プライシングには慎重を期すことが求められます。収益性を高め、顧客基盤を作り出すためには価格設定が重要なポイントになります。価格は積み上げ型ではなく、顧客への提供価値から逆算すべきです。価格を上げて利益を出したければ、顧客への提供価値を高めるべきです。
⑥キャッシュフローモデル
初期投資やその回収見込み、将来の成長可能性などからキャッシュフローモデルをつくり、考えてきたビジネスモデルで十分な利益を出せるように様々な要素を調整します。 どのくらいのリスクがあるのかなど事業判断に必要な情報を検討します。この一連の検討でKPI(重要指標)を明らかにします。
[3]実行と巻き込みのサイクル
⑦チームとアライアンスを育てる
実行と巻き込みのサイクルに入ると専任者を中心にした体制やチームを組みます。具体化に向けて様々な作業を確実かつ素早く実行するために、ポジティブで行動力のあるメンバーを集めるようにしましょう。
⑧事業とオペレーションを絶えず見直す
製品やサービスを実際に市場に投入できるように具体的かつ詳細に事業内容やオペレーションを構築します。実際のトライアルやローンチによって継続的に見直し、交渉と調整を重ねながら改善していきます。
状況の変化は常に起こると考え、変化に適応していくのです。実際に行動することで新しい情報や知見が入ってきますから、それに合わせて事業内容やオペレーションの継続的な見直しを行います。
事業のアイデアは革新的であればあるほど実現の過程で大きな課題が出てきます。その課題を克服できれば強いノウハウとなり、競争優位性を発揮でき、他社の参入が難しくなります。
⑨事業開発を組織で支える
事業開発を企画し、実行していくのは人であり組織です。良いチームをつくることはもちろん、事業開発にゴーサインを出せる意思決定者や関係部門を説得し、巻き込んでいくことが欠かせません。
3サイクル×3ステップは、複数の手順を踏んで検討を進めていきます。各ステップや各手順は1度ずつやれば終わりというわけではなく、課題を見つかれば、前のステップに戻って検討する、前の手順に戻る、といったことがよく起きます。決してあきらめずに、顧客やパートナーとの対話を続けるうちに新規事業の成功が近づきます。事業成功のためには強いメンタルと妥協しない姿勢、インプットとKnow Whoの蓄積、交渉力が鍵を握ります。
起業家や大企業の事業開発の担当者にはぜひ、読んでいただきたい一冊です。ボリュームがありますが、著者の経験、ノウハウが間違いなく参考になるはずです。
コメント