妄想と具現 未来事業を導くオープンイノベーション術DUAL-CAST (出村光世)の書評

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妄想と具現 未来事業を導くオープンイノベーション術DUAL-CAST
出村光世
日経BP

本書の要約

DUAL-CASTとは、テクノロジーのトレンドから飛躍的な事業アイデアを妄想する「フォーキャスト型アプローチ」と、プロトタイピングによって事業アイデアを具現化する「バックキャスト型アプローチ」の両面から成り立つ、未来事業の発想・実行プロセスを体系化したオープンイノベーション術です。これを使い倒すことで、新規事業開発における課題を解決できると同時に多くの人を巻き込めるようになります。

イノベーションを起こす際に妄想が重要な理由

面白いアイデアが自前主義に敗れることなく、共創を目指す人々に届いていくためにも「事業企画書」ではなく妄想というフォーマットはとても役立つ。(出村光世)

数年前に雑誌のインタビューで本書の著者の出村光世氏を取材したことがあります。彼が率いるKonelは共創を通した「未来体験」のプロトタイピングを行う組織で、質の高いアイデアを量産しています。何度か彼のオフィスにお邪魔し、実際に彼らのプロダクトを体験しましたが、どのアイデアも斬新で面白く、とても刺激を受けたことを今でも覚えています。

そのKonelとテクノロジーがもたらす未来を発信するイノベーションメディア「知財図鑑」が共同で、オープンイノベーション術の新体系である「DUAL-CAST(デュアルキャスト)」のノウハウを明らかにしてくれました。

事業開発者、研究者、クリエイターの三者が共創を生む、オープンイノベーションによって、多様なアイデアを量産し続ける同社の秘密が、本書で惜しげもなく紹介されています。

実は、彼らが大事にしているのが「妄想」です。妄想は具現の始まりで、夢のようなことを考えることを躊躇してはいけないのです。その際、アイデアをただの「面白い空想」で終わらせずに、確実に具現化していくことが重要なのです。

妄想プロジェクトとは、知財を材料として妄想した未来体験を可視化したコンテンツであり、タイトル、イラスト、数行の説明文シンプルな3つの要素で構成されます。実在するテクノロジーを元に、世の中に埋もれている知財をわかりやすく翻訳する“知財ハンター“が、社会への新しい活用法を妄想してビジュアライゼーションでアウトプットします。

知財ハンターは見つかりにくい知財を発見し、クリエイターは本来の機能や特徴を分解し、非研究者であるクリエイターならでは視点でブレイクスルーさせた発想を提案します。妄想を活用し、ビジュアルを活用し、わかりやすくアウトプットすることで、関係者や外部の人たちを上手に巻き込めるようになります。

妄想プロジェクトには以下の3つの特徴があります。
・瞬発的な状況スピード
・ワクワクできる未来感
・つっこまれビリティー(つっこみやすさがポイント)

Konelと知財図鑑の妄想プロジェクトにより、今まで眠っていた知財が、次々事業化されていく好循環が生まれているのです。Chapter1で紹介されている妄想アイデア集は一読の価値があります。

イノベーションを起こすための「DUAL-CAST」の5フェーズ

DUAL-CASTとは、テクノロジーのトレンドから飛躍的な事業アイデアを妄想する「フォーキャスト型アプローチ」と、プロトタイピングによって事業アイデアを具現化する「バックキャスト型アプローチ」の両面から成り立つ、未来事業の発想・実行プロセスを体系化したオープンイノベーション術です。

新規事業開発においては、妄想だけでなく、プロトタイプをつくり、検証していくこと(バックキャスティング)が重要です。新規事業開発を起こすためのオープンイノベーション術の「DUAL-CAST」は、以下の5つのフェイズから成り立ちます。
フェイズ1 妄想ワークショップ
フェイズ2 可視化 イメージの解像度を上げ、社内や世の中に発信します。
フェーズ3 発信
フェーズ4 プロトタイピング
フェーズ5 検証

 

妄想ワークショップは、次の5つのステップで進めていきます。
ステップ1 分解(なぜの真相理解)
ステップ2  拡張(バイアスからの脱却)
ステップ3  収束(未来視点の獲得)
スッテプ4  整合(納得性の強化)
ステップ5  予言(リアリティの向上)

アイデアをぶつけ合う妄想ワークショップを行う際には、以下の4つのルールを順守します。
・ルール1「否定しない」
一般的なプレストと同じだが、賞賛はOK・否定はNGが基本ルールになります。発言しやすい空気感が最も重要なのです。

・ルール2「質より量」
否定されないことが保証されているので、他者からの評価を気にすることなく、とにかく量産していきます。いいアイデアを思いつく人より、たくさんのアイデアを出した人に拍手を送るようにします。

・ルール3「誰かの発想に重ねる」
いいアイデアは互いに刺激し合うことができます。互いの発想を重ね合わせて、アイデアを発展させていきましょう。妄想チームにライバル意識は不要なのです。

・ルール4「切りロでOK」
いきなり具体的な事業アイデアを思いつけるのなら苦労はありません。この段階で発想していくのはあくまで「切り口」であって、具体的な事業企画である必要はないのです。抽象的な表現や単語レベルの記載も歓迎し、発想の重ね技を期待します。(例:XXができるかも、YYの可能性、ZZを欲しいなどの軽い表現も許容します)。

私が関わっているモウトレでも上記と同じようなルールでアイデアづくりを行います。妄想からアイデア発想することで、面白いアイデアが次々と生まれます。心理的安全性を意識しながら、誰かの発想に重ねることで、どんどんアイデアが生まれるようになります。ここからアイデアを絞り、新規事業化を行っていきます。

最初のステップは分解で、技術要素を細かく分解します。次に連想法、動詞法、リスト法などでアイデアを拡張します。次のステップでは未来イシューというカードでアイデアを収束させていきます。

この段階まで残ったアイデアは、事業ネタとして活用できる可能性が高いので、企業のビジョンを横軸に検証難易度を縦軸にしたマトリックスで事業の可能性を追求します。このとき右上にマップされた「事業のアイデア」は最有力のアイデアになります。

また、左上にマップされたアイデアも引き続き検討すべきです。現状の企業ビジョンには合致しないかもしれませんが、実証する価値のあるアイデアだと捉えるようにしましょう。。そのアイデアによって、思いがけない領域で自社技術が生きるかもしれませんし、ビジョンそのものを発展させる可能性があるのです。

フェイズ1の最後のステップでは、リアリティを向上させるためには、架空のプレスリーリスを書きます。アマゾンでもプロジェクトをスタートするときにプレスリリースを書き、プロジェクトの問題点をあぶり出しますが、妄想プロジェクトでも同じ手法で、アイデアのリアリティを向上させていきます。

その後、「フェイズの発信」、「プロトタイピング」を通じて、より具体的にアウトプットしていきます。熱量のある未来のビジョンを発信することで、多様な人が集まり、そのアイデアが応援されるようになります。

鮮やかな未来事業を実現するためには自前主義の脱却、すなわちオーブンイノべーションへの前傾姿勢が必要だ。飛躍的な妄想ほど、具現化させるために必嬰な技術要素(ロストピース)は多く、熱量のあるパートナーや支援者との共創が欠かせない。また、従来の役割から逸脱し、自社の活動領域を拡張していくことも大切になる。

業界の壁を越えて対話することで、妄想が具現化し、未来事業を導けるようになります。未来への入り口を切り開くためには「越境」が求められ、「妄想と具現」のアブローチによって、自然と越境を生み出せるようになります。妄想を起点にしたDUAL-CASTが越境を生み出してくれるのです。

大企業、起業家、クリエイターという多様なメンバーが共創、逸脱、対話を繰り返すことで、斬新なアイデアが生まれ、そこからイノベーションが起こるのです。未来体験を可視化した提案書はとても参考になり、刺激も受けました。また、出村氏に取材をお願いしたくなりました。




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