価格支配力とマーケティング
菅野誠二,千葉尚志,松岡泰之
クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
本書の要約
バックキャスティングやシナリオプランニングは、理想の未来から逆算し、それを実現するためのストーリーを使うマーケティング手法です。現在のビジネス環境がVUCAであることを踏まえ、顧客が共感するパーパスとビジョンからイノベーションを起こせるようになります。
First to Marketを獲得するために必要なこと
簡単に価格支配力を確保するための方策の一つはこうだろう。「市場自体を自社が新たに創造し、その商材やサービス領域における最初の値付け者になることFirst to Marketだ。顧客が相場感を知らず、競合も存在しないFirst to Marketを実現できれば、先駆者として顧客価値にもとういた正当なプライシングができる。もちろん、魅力的な新市場であれば、すぐに競合が追随してくることは想像に難くないが、競合に対しては自社の最初のプライシングの水準がアンカリング(先に提示された数値がその後の判断のべースになる心理現象)を起こすため、未来に向けた参入障壁さえある程度確保しておけば、価格支配力を優位に発揮することができる。(松岡泰之)
価格支配力とマーケティングの書評を続けます。ボナ・ヴィータ戦略コンサルタントの松岡泰之氏は、First to Marketを取ることで、価格への支配力が得られると言います。魅力的な新市場を獲得する、イノベーションを起こすためには、フォーキャストではなく、バックキャスティングが有効だと言います。
🔳フォーキャスト・・・「過去から現在」の事業環境を徹底的に分析すること。「現在~近未来」に向けた戦略を構想するプランニング手法。フォーキャストは、役割分化をすることで、効率化を図ることができます。しかし、役割分化が行きすぎると、部分最適に陥り、変化への対応が遅れてしまいます。
「現在」の延長線上の考え方で未来を切り拓ける場合には、フォーキャストが適していますが、現代のビジネス環境は「VUCAワールド」になります。このVUCAとは、不確実性(Volatility)、複雑性(Complexity)、不確実性(Uncertainty)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字を取ったものであり、ビジネスにおいては、変化が激しく予測困難な状況を指します。
フォーキャストは現在の状況を踏まえて将来を予測するものであり、既存の情報やデータに基づいて行われるため、積み上げ思考になりがちで、未来の変化や新たな課題に対応するヒントを得るのは難しいのです。
例えば、有名な富士フィルムとコダックの例を挙げるまでもなく、過去に大きな成功を収めた企業でも、ベンチャーにディスラプトされてしまうことが増えています。現在のビジネス環境の変化に対応できずに衰退しないために、「現在」への固執はリスクになることを忘れないよおうにしましょう。
経営者は「未来」を起点として逆算する手法、バックキャスティングを活用する必要があります。
🔳バックキャスト・・・将来の理想的な状態を設定し、そこから逆算して現在の課題や行動を考える方法。
つまり、未来で生き残るために必要な変革を考える際には、理想の未来を想像し、そこに向かって具体的な行動を起こす必要があるのです。 バックキャスティングは、将来を見据えて行動するための重要な手法ですが、それには想像力や創造力が求められます。現在のビジネス環境がVUCAであることを踏まえながらも、新たなビジョンやアイデアを生み出すようにすることで、イノベーションを起こせるようになります。
バックキャスティングとシナリオプランニングが有効な理由
バックキャストは、徹底的かつ客観的な未来洞察をおこない、その未来から現在を振り返ったときに自社がすべきことは何かを考えるプランニング手法だ。10年後の未来を粒度高く描き切ることで、現在から10年間、いつ、どのように自社は変わっていくべきなのか、何をはじめ、何を切り捨て、何を強化すべきなのか、変革ロードマップを構想することができる。
バックキャストは、戦略的な課題を粒度高く網羅的に抽出することができれば、さまざまなイノベーションが自然と視野に入ってくる手法です。
・プロダクト・イノベーションの実現
バックキャストでは、技術進展とユーザーの未来のニーズを中心に考えることで、新しい製品やサービスのアイディアが浮かび上がります。例えば、環境問題に対する技術の進歩を予測し、ユーザーが求めるエコフレンドリーな製品を開発するなどの取り組みが考えられます。
・コマーシャル・イノベーションの進行
市場の変動や顧客の購買行動を予測することで、新しいマーケティング戦略や販売チャネルの構築が求められます。具体的には、新しいライフスタイルのトレンドを捉え、それに合わせた広告戦略やオンライン販売の最適化が重要となります。
・プロセス・イノベーションの展開
未来のPEST(政治・経済・社会・技術)分析をもとに、企業の業務プロセスの見直しや効率化を図ります。「バリューチェーン」、「顧客ニーズ」に焦点をあわせることで、プロセス・イノベーションやサプライチェーン・イノベーションが実現します。これには、デジタルトランスフォーメーションの導入や、業務の自動化・効率化を目指す取り組みが含まれます。
・サプライチェーン・イノベーションの推進
供給網の最適化や環境対応を考えることで、より持続可能で効率的なサプライチェーンの構築が目指されます。
・組織イノベーションへの取り組み
未来の業界の動向や競争要因を考慮に入れて、組織の変革や文化の再定義を行います。これには、従業員の教育や、より柔軟な組織構造の導入が考えられます。 バックキャストを活用することで、企業は網羅的かつ具体的な未来像を描き、その未来を現実のものとするための戦略を明確にすることができます。
それぞれのイノベーションを実現するためには、個別に考えることももちろん有用です。例えば、プロダクト・イノベーションを推進するためには、技術の研究開発や新しい製品の開発が必要です。一方で、コマーシャル・イノベーションを実現するためには、市場調査を行ったり、顧客との良質なコミュニケーションを築く必要があります。
さらに、プロセス・イノベーションやサプライチェーン・イノベーションを実現するためには、業務プロセスの見直しや効率化が必要です。そして、組織イノベーションを実現するためには、リーダーシップや組織文化の変革が欠かせません。
我々は20XX年の未来を見てきた。その未来を前提にしたとき、20XX年頃、こんな人や企業に顕在化するこういったニーズに対して、我々のこんな強みを活用して、このようなソリューションが提供可能なのではないか。
シナリオプランニングは、アイディアや概念を具体的な形にするプロセスを指します。これは新しい製品やサービス、さらにはビジネスモデルの初期段階での評価や検証を可能にします。具体的なシナリオを作成することで、リアルなフィードバックを得ることができ、リスクを低減しながら最適化を図ることができます。
シナリオプランニングでは、なぜ(WHY)その製品やサービスが必要なのか、何(WHAT)を提供するのか、誰(WHO)に対して提供するのか、どのような方法(HOW)で提供するのか、そして自社の強みをどのようにシナリオに組み込むかを考えます。これによって、製品やサービスの魅力や利点を伝えることができます。
また、ストーリーによって新規事業の可能性を広げることもできます。 パーパスや顧客体験は人々の心を動かし、共感を生み出す力があります。そのため、プロトタイピングの過程でストーリーテリングを取り入れることで、新規事業の成功確率を高めることができます。ストーリーを通じて、顧客が製品やサービスに共感し、その魅力を実感することができるのです。
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