「人口ゼロ」の資本論 持続不可能になった資本主義 (大西広)の書評

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「人口ゼロ」の資本論 持続不可能になった資本主義
大西広
講談社

本書の要約

若者が結婚や子育てに積極的になるためには、社会的な貧困を撲滅する必要があります。経済的安定感や十分な社会的支援が確保された環境のもとでは、若者たちはより安心して家庭を築くことができるでしょう。貧困問題を解決することで、日本の人口は増加するのです。

人口減少の原因は日本人の貧困化?

2022年の日本の出生数が77万人だったという2023年6月の厚生労働省発表の報道は、100年後どう多めに見ても日本人口はその100倍の7700万人未満であるということを示しています。この77万人の全員が100歳まで生き(そこで死ぬ)、かつその後の出生減がなかったとしての最大限の予測が7700万人だからです。(大西広)

人口減少社会が到来して久しいですが、効果的な政策が打たれておらず、人口減に歯止めがかかりません。過去30年近く、実質賃金の減少が続き、2022年以降の物価上昇によってさらなる負担が増しています。この状況は、少子化対策の必要性を示唆しています。しかし、政府が打ち出す「少子化対策」は愚策ばかりで、これが人口減少の問題を真に解決する手段にはなっていません。

特に、若年労働者の不足は、日本の経済活動にブレーキをかけるとともに、周辺の新興国が経済的に急速に発展する中、外国からの労働者の受け入れに対する依存を増大させる要因となっています。しかし、海外の賃金が上がる中、日本は魅力的な国としては映らず、オーストラリアやシンガポールに優秀な人材を奪われています。

現在、外国人が中心的に担っている労働を、低賃金で日本人が行うためには、先進国としての高い教育水準が必ずしも求められなくなる可能性があります。しかし、教育レベルを意図的に下げることは、大学や教育機関の存続を危うくするだけでなく、国の将来をも暗くするリスクを持っています。

この少子化は人々が望んでもたらしているのではない、子供をつくろうとしてもできない状態に労働者がおかれていることが原因している、ということです。

日本人の低賃金が結婚や出産を妨げる要因になっています。 過去30年間で男性の貧困化が進んでいる理由はさまざまですが、特に低所得の男性にとっては結婚や家族を持つことが難しくなっています。経済的な安定がないため、結婚や子育てに関する負担が大きくなり、非婚化が進んでいるのです。 このような現象は、社会全体にとっても深刻な問題です。男性の貧困化が進むことで、女性は金持ちの再婚相手を求めざるを得なくなり、結婚における格差が広がっていきます。これにより、社会全体の階級社会化が進んでいると言えるでしょう

国民生活基礎調査によると、子供の7分の1が貧困とされています。このような状況から、過去にはなかった「子供食堂」やフード・バンクのようなものが必要とされるようになっています。

こうした状況では安心して子供を産むことができません。その理由は、子育てや教育にかかる費用が高すぎるという回答だけでなく、「家が狭いから」という経済的な理由もあります。特に2人目や3人目の子供を産むことが難しくなっています。また、子育てによって生活レベルを落としたくないという人たちは、DINKSを選択をし、人口減少を加速させています。

若い世代が直面している金銭的、肉体的、精神的な子育ての負担は増加の一途を辿っています。一方で、所得の伸び悩みが続く中、多くの人々が子どもを持つ決断を後回しに、あるいは見送る状況が続いています。

人口を増やすための政策とは?

すべての子供が完全に平等に扱われる社会であってこそ、本当に安心して子供が産める。

現代のフランスやスウェーデンでは、結婚していない女性が産む子供の割合が多くなっており、この動向に伴い、未婚の母としての子供への社会的偏見は薄れてきています。

さらに、これらの国では母子家庭の貧困問題も大幅に減少しているとの報告があります。その背景には、子供中心の社会保障政策が存在します。このような「社会化された社会」は、子供たちにとって非常に公平であり、生まれ育った家庭の形態や経済的背景が教育の機会に与える影響が少ないと言えます。

教育の無料化やサポートの拡充は、単に「教育は価値がある」という考え方だけでなく、人口や家族政策の一環として取り組まれているのです。これは、教育のアクセスと質を向上させることで、すべての子供たちに平等なチャンスを提供するというビジョンを反映しています

スウェーデンのような社会化を評価すると同時に格差自体の解消を狙うことがマルクス経済学の特徴になります。

こうして人口問題の解決にはどうしても「平等社会」が不可欠であることを見ましたが、それが「資本主義」の本質と鋭く対立する以上、私たちが求める社会はもはや「資本主義」ではないということになります。それは私に言わせると「共産主義」の 本来の意味に通じます。

共産主義の考えには「共同」と「平等」が含まれています。たとえば一国の生産活動が直接的な意味で共同作業としておこなわれることが不可能である以上、「平等」がその実際的な中身となるのです。マルクス経済学の専門家の大西広氏はこの「平等社会」が不可欠なら、「共産主義が不可欠」になると指摘します。

著者は、若者が結婚し、子供を持ちたいと考えるようになるための2つの条件を紹介しています。
①子供を持っている他人を見てうらやましいと思えるという条件
②自分もまたそれになりうると思えるという条件。

結婚や子供を持つことは、多くの人にとって人生の一大イベントです。しかし、その前提として、他人の子供を見てうらやましいと思えることが大切です。友人や親戚の子供を見て、その成長や幸せな姿を目の当たりにすることで、自分も同じような喜びを得ることができると感じるのです。

また、自分自身も結婚や子育ての経験ができる可能性を感じることも重要です。結婚や子供を持つことは大きな責任となりますが、自分の力でそれを乗り越える自信があると感じることが必要です。

経済的な安定やパートナーとの信頼関係など、結婚や子育てに必要な条件を整えることができれば、若者は結婚や子供を持つことに積極的になるでしょう。 しかし、実際には結婚や子育てが苦しい現実も存在します。友人や知人の結婚生活がうまくいっていなかったり、子供を育てることで経済的な負担が大きくなることもあります。こうしたリスクや困難を目の前にすると、若者は結婚や子供を持つことに躊躇するかもしれません。

したがって、若者が結婚し、子供を持ちたいと考えるためには、まずは社会全体で貧困をなくすことが必要です。経済的な安定や社会的な支援が確保されることで、若者は結婚や子育てに前向きな姿勢を持つことができるでしょう。単純な対策ではなく、根本的な社会の改革が求められているのです。

このような条件を整えるためには、社会全体で貧困をなくすことが必要です。著者は人口問題は貧困問題の裏返しだと述べています。資本主義の政策、特に日本の子育て政策が失敗を続ける中、著者のマルクス経済学の視点からのアドバイスは、これらの問題を根本から考え直すための新しい視点を提供するかもしれません。

経済的な背景や社会的な状況を理解することで、より効果的な政策の提案や実践が可能になると考えられます。このような視点から、人口問題や貧困問題といった社会的な課題に取り組むことは、新しい解決策やアプローチを生み出す可能性があります。

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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