ヤバい仕組み化(松田幸之助, 吉川充秀)の書評

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ヤバい仕組み化
松田幸之助, 吉川充秀
あさ出版

ヤバい仕組み化(松田幸之助, 吉川充秀)の要約

会社の業績は、経営陣の戦略策定の精度(戦略確率)と、社員による実行の確実性(実行確率)の掛け算で決まります。業績を向上させるためには、まず経営陣の戦略確率を高めることが重要です。これを達成するためには、経営陣への報告の量と質を改善する必要があります。このプロセスで、本書のヤバい仕組みが役立ちます。

経営に仕組み化が必要な理由

さまざまな実験をして、うまくいったら、続ける。うまくいかなかったら、やり方を変える。それでもうまくいかなかったら、やめる。それを速いサイクルで回し続け、儲かる仕組み、すなわち成果の出る仕組みだけが残りました。(松田幸之助)

株式会社プリマベーラの経営者の吉川充秀氏とコンサルティング事業部のトップのCCO松田幸之助氏によって書かれた一冊が本書「ヤバい仕組み化」です。プリマベーラは、14期連続増収増益を達成している企業であり、その成功の背後には「ヤバい仕組み」が存在していますが、2人はそのノウハウを公開することで、経営者と従業員がやるべきことを明らかにしています。

ヤバい仕組みとは、驚くほど簡単なのに成果が出る仕組みのことで、改善提案が毎月3000個集まる仕組みや、社長がいなくても自走する組織の仕組み、離職率1%の人が辞めない仕組みなど、さまざまな同社の仕組みが紹介されています。

プリマベーラでは、人に依存する経営から抜け出すために、積極的に「仕組みづくり」に注力してきました。これにより、属人性をできるだけ排除し、誰でもできる「再現性のある仕事のやり方」を確立することに成功しました。その結果、店舗ごとの業績が各人の力に頼ることなくなり、会社全体をボトムアップで成長させることができました。

同社では、新しい取り組みを「実験」と捉えています。実験を行うと、10回中9回は失敗することもあります。しかし、成功した1回の取り組みを仕組み化し、横展開することで、会社は確実に変わることができます。これは、社長1人の優秀さだけでは、会社の成長は望めないということを示しています。 成果を出すためには、「やらざるを得ない仕組み」(義務)も必要です。

社長の方針を実行する組織を築くことが、成果を出す仕組みで回る会社への第1歩です。プリマベーラは、実験を通じて成果を出す仕組みを確立することで、会社の成長を実現してきました。 プリマベーラはこのノウハウを他社にも公開し、企業の成長をサポートしています。同社の経営塾では、20年以上にわたって積み重ねてきた仕組み化経営のノウハウを学ぶことができます。

プリマベーラのやばい仕組み化とは?

以下の仕組みによって、プリマベーラは成長しています。
▪️経営計画書の活用
経営計画書とは、社員のベクトルを合わせる道具であり、成果の出る会社をつくるための道具になります。

私たちの目的は、経営理念を実現することです。お客様が喜ぶこと、働く従業員の生活の安定と、生きがいを創出すること。これが、私たちの究極の経営目的です。

プリマベーラの経営計画書は、社員が一丸となって取り組むためのキャッチコピーと、各方針の目的と目標を明確にすることで、実際の業務に役立つツールとして設計されています。

▪️経営計画資料の重点化
成果達成の鍵は数字管理にありますが、プリマベーラでは経営計画資料を使って重点主義を採用し、無差別な数字の追跡を避けています。

▪️経営計画発表会
銀行からの融資を得ることを目的としており、プリマベーラではこれを成功させるための詳細なマニュアルを用意しています。

▪️経費削減
売上の増加だけでなく、プリマベーラでは経費管理にも重点を置き、月次の経費最適化会議を通じてコスト管理を行っています。

▪️物的環境整備
オフィスや店舗の美化だけではなく、成果に焦点を当てた物的環境整備を行っています。

▪️情報管理
Evernoteを使った情報管理を通じて、経営情報を効果的に扱い、成果につなげています。

▪️会議の効率化
定性情報と定量情報を用いた会議を通じて、意思決定を行い、現実の変革を推進しています。

▪️日報革命(日報システムを構築)
日報こそ情報の宝庫という考えのもと、従業員からの情報収集を通じて、意思決定を現場の実情に基づいて行う体制を整えています。このシステムにより、改善提案が毎月3,000件以上、お客様からのフィードバックが5,000件以上、さらには競合他社に関する情報も毎月1,000件以上集まっています。

成果につながりそうな情報には社内通貨というインセンティブが支給され、良質な情報が集まるようになっています。スタンプでのコミュニケーションによって、社員の承認欲求も満たされます。また、データドリブンによって離職も予測可能で、社員の定着率を高める効果もあるといいます。

情報の環境整備こそ、決定サイクルを円滑に回し、業績にダイレクトに反映させるポイント中のポイントなのです。プリマベーラが14期連続増収増益、フランチャイズランキングで軒並み1位を獲得できた背景には、どの会社よりも情報の環境整備にこだわってきたという背景があるわけです。皆さんの会社もぜひ、情報の環境整備を、報告、決定、実施、チェックという視点から見直し、一つひとつが円滑に回るように改善してみてください。

これらの情報は経営の意思決定や戦略立案において非常に重要で、会社の成長と発展に大きく貢献しています。

▪️Googleワークスペースの活用
10年以上にわたりGoogleワークスペースを用いて、マニュアルやチェックリストの作成、GoogleカレンダーやGメールなどのツールを活用しています。これらは組織内の多様な体制構築に不可欠な要素となっています。

▪️成功事例の横展開
社内での成功事例を全社に広めることで、会社の売上や利益に大きな影響を与えています。成功事例の発掘と展開方法が明確にされており、情報流通において重要な役割を果たしています。 

▪️お客様の声の科学的分析
お客様の声を収集し、分析することで、どのフィードバックを実行するかを決定しています。全ての声に対応するのではなく、効果的なアクションを選択しています。

▪️アルバイトの戦力化と正社員登用
パート・アルバイトの比率が高いため、彼らの「戦力化」と正社員への登用に重点を置いています。これは新卒採用が難しくなる中で、ますます重要になっています。

▪️価値観の統一とベクトル用語集
約1,000語の重要用語を集めた「ベクトル用語集」を用いて、全従業員の価値観の統一を図っています。これにより、優れた仕組みの運用が容易になっています。

▪️GPDCAYサイクル
通常のPDCAサイクルに加えて、ゴール(G)と横展開(Y)の要素を取り入れたGPDCAYサイクルを採用し、成果の最大化を図っています。成功事例の横展開で売上と利益がアップします。

▪️「実行革命」というタスク管理ツール
実行確率と実行速度を可視化する「実行革命」というタスク管理ツールによって、組織全体の業績が改善します。社員一人ひとりが自分の業績や行動を可視化し、評価されることで、自己成長意識が高まります。また、社員同士のコミュニケーションも促進され、お互いに助け合いながら成果を上げることができます。これにより、組織全体のパフォーマンスが向上し、業績の改善につながります。

▪️楽しく学べるeラーニングシステム
アルバイトも正社員も区別なく、入社後約5時間のオリエンテーション動画を視聴することで、会社の重要な考え方をすぐに理解できます。この仕組みにより、会社の価値観に合った人材の採用が可能になっています。

▪️マーケティング脳、成果脳集団にする仕組み
14期連続の増収増益達成に貢献したのは、「成果を生むマーケティング」の実践です。従業員がそれぞれ効果的なマーケッターとして成長するために、多様な共通のツールとフレームワークを提供しています。

▪️社長の仕事術
生産性へのこだわりを持つ吉川充秀氏によって開発された「成果につながる社長の仕事術」は、幹部の仕事の基盤となっており、誰もが学べるように体系化されています。

▪️従業員の成長を重視した人事評価システム
仕組みと評価制度と連動することで、自然と成長を促す環境を作り出しており、この人事制度は仕組み化経営の中で最も重要な部分の一つとなっています。

これらの仕組み化は、プリマベーラが現代のビジネス環境で効率的かつ効果的に運営するための基盤を築いていることを示しています。

成功する経営の方程式(会社の業績=戦略確率×実行確率)

私たちが考える、経営のOSは 「環境整備」「経営計画書」 「お客様第一主義」 の3つです。この3つはいずれも、「考え方の基盤」「会社の土台」を固めるための「経営のOS」です。環境整備、経営計画書、お客様第一主義を徹底することで、会社は成長します。

同社が考える経営の「オペレーティングシステム(OS)」は、「環境整備」、「経営計画書」、そして「お客様第一主義」の3つの要素から成り立っています。これらは、会社の思考の基盤や土台を形成し、成長に必要な経営のOSとして機能します。 単に優秀な社長がいるだけでは会社は成長しません。社長の方針を実行する組織の構築が、効果的な仕組みを持つ会社への第一歩です。

『「環境整備、経営計画書、お客様第一主義」+「仕組み」=成果』が、成果につながる同社の方程式になります。

社員教育を強化し、環境整備、経営計画書、お客様第一主義(経営のOS)を徹底することで、考え方の基盤が形成され、会社の方針を実行する文化が整います。 これにより、全従業員の方向性、足並み、価値観が統一されます。 その結果、仕組み(アプリケーション)が効率良く動作するようになり、成果につながります。

環境整備は、方針実行のOSを作ります。経営計画書を用いて組織の価値観を統一するOSを作り、お客様第一主義を浸透させて、組織全体がお客様を満足させるOSを作ります。これらのOSがあって初めて、アプリケーションが正常に機能し、成果を生むことができるのです。

プリマベーラでは、社員の自発性とモチベーションを維持するために、義務と自由のバランスを巧みに取り入れた経営手法を採用しています。これは、通信回線に例えて「3G経営」と「LTE経営」と呼ばれています。

3G経営・・・「我慢」「犠牲」「義務」を意味し、社員が会社のルールに従って業務を遂行する方式です。これは義務感に基づいて行われるタスクやマニュアルの実行を指します。

LTE経営・・・「自由(Liberty)」「自分で考える(Think)」「楽しい(Enjoy)」を意味し、社員が自由にアイデアを出し、新しいことに挑戦する方式です。このアプローチでは、自由度と創造性が重視されます。

ただし、どちらのスタイルも極端に偏ると効果が減少するため、プリマベーラではこの2つをバランスよく組み合わせています。義務を最初に果たし、それが完了したら自由に好きな仕事に取り組む、という流れを奨励しています。これが同社の「3G+LTE経営」になり、これを社員が実践することで、お客様が求めることを最優先にした後、社員が自分の興味を追求できるようにしています。

さらに、プリマベーラでは、仕組みの実行度合いを人事評価制度と連動させています。これにより、「やらざるを得ない仕組み」を確実に実施させることが可能になっています。評価の基準は明確で、顧客対応、期限の遵守、環境整備、態度、出勤状況などが含まれています。

この結果、社員の実行確率が高まり、会社全体の業績に直接的な影響を及ぼしています。会社の成果は、上層部の戦略と社員の実行の両方に依存しており、両者が高いレベルで機能することで業績が向上します。プリマベーラのこのアプローチは、社員のモチベーションと成果創出の両方を同時に促進しています。

会社の業績=戦略確率×実行確率

会社の業績は、トップの戦略確率と社員の実行確率の掛け算で決まります。会社の業績を上げるためには、まずはトップの戦略確率を高める必要があります。戦略確率を高めるためには、報告の量と質を上げることが重要です。トップの戦略を正確に把握し、適切な報告を行うことで、戦略の実行につなげることができます。

また、決定の量と質を上げることも重要です。迅速な意思決定と的確な判断力を持つことで、戦略の実行をスムーズに進めることができます。

一方、社員の実行確率を高めるためには、人事評価制度との連動が有効です。社員の関心事は給料や賞与、つまり年収です。そのため、年収の増減と実行確率を明確に紐付けることで、社員のモチベーションを高めることができます。プリマベーラでは、実施度合いを人事評価制度と連動させています。実施が進んでいれば評価が上がり、逆に実施が不十分な場合は評価が下がる仕組みです。

さらに、社員の実行確率を高めるためには、日々の環境整備も重要です。仕事の期限を守ることや、お客様への報告回数を増やすことなど、日常の業務においても実行力を高める取り組みが必要です。また、高速で意思決定することで、同社は14期連続で増収増益を実現しています。

本書『ヤバい仕組み化』は、経営者やビジネスパーソンだけでなく、個人の成果を上げたい人にも価値のある一冊である。ヤバい仕組みを導入することで、効率化や成果の向上が期待できるだけでなく、組織やチームの活性化にもつながるかもしれない。


 

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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