AIファースト・カンパニー――アルゴリズムとネットワークが経済を支配する新時代の経営戦略（マルコ・イアンシティ, カリム・Ｒ・ラカーニ）の書評

AIファースト・カンパニー――アルゴリズムとネットワークが経済を支配する新時代の経営戦略
マルコ・イアンシティ, カリム・Ｒ・ラカーニ
英治出版

AIファースト・カンパニーの要約

AIファースト・カンパニーになることで、企業は効率化、生産性向上、顧客ニーズの深い理解など多くのメリットを享受できます。そのために企業は経営戦略を見直し、組織文化を改革する必要があります。デジタル化、アナリティクス、AI、機械学習の発展は、ビジネスの拡張性を大幅に強化し、事業価値を一気に高めてくれます。

リーダーがAIを経営に取り入れるべき理由

AIで違いを生み出すために、SF小説のようなものは必要ない。適切なデータを用いたシンプルなアルゴリズムで重要な結果を出せる。シンプルなチャットボットや基本的な機械学習であっても、重要な業務上のボトルネックを解消したり、重要な予測ができるならば、本当に大きな違いを生み出しうるのだ。（マルコ・イアンシティ, カリム・Ｒ・ラカーニ）

この書籍は、AI時代の競争と経営の基礎を解き明かし、組織変革とリーダーシップの重要性を深く掘り下げています。著者たちは、AIを単なるツールとしてではなく、企業の核心に組み込む必要性と、その過程での戦略的アプローチの重要性を説明しています。

マルコ・イアンシティ教授とカリム・R・ラカーニ教授は、ハーバード・ビジネス・スクールでの豊富な経験を活かし、ベンチャー企業からアマゾンやマイクロソフトに巨大企業に至るまで、多岐にわたる事例分析を通じて、デジタル戦略の成功と失敗の要因を詳細に説明しています。

これらの分析から、企業がデジタル変革を実現するための実践的なフレームワークを提供しています。 AIの時代では、アルゴリズムとデータネットワークが経済活動の主要なドライバーとなり、企業にはこれまでにないチャンスと課題がもたらされます。

AIの適切な活用により、企業は運用の効率化、生産性の飛躍的向上、そして顧客の深層ニーズへの洞察を得ることが可能です。しかし、これらの利点を最大限に活用するには、経営戦略の再考と組織文化の革新が必要不可欠です。

リーダーはAIの力を活用すると決め、データ・ドリブンの経営にシフトすべきです。

リーダーに求められるのは、厳密さとアナリティクスの重要性を認識し、データ・プラットフォーム、デジタル・ネットワーク、AIのテクノロジーと経済性を一通り理解し、変化や変革に貪欲になることだろう。しかし何よりも、デジタルの規模、範囲、学習に関する倫理をしっかりと尊重し、変革を誤れば経済や社会に悪影響が及ぶことへの理解を深める必要がある。

AIの進化は、人間の仕事を代替するだけではなく、企業運営の根本を変える力を持っています。技術の進歩、特に機械学習や深層学習のような分野で、AIは広く注目され、企業の運営や世界に与える影響を変革しているとされます。かつて企業は人の労働力や知識に頼っていましたが、AIの導入で、作業が機械やソフトウェアに移行しています。これは企業の基本概念を変えているのです。

例えば、AIによる生産計画や物流の最適化は、従来の方法よりも速く、正確な意思決定を可能にし、企業の効率と生産性を大きく向上させています。これにより、バリューチェーンの設計もAIを中心に変化していくことが予想されます。

AI主導のデジタルプロセスは、拡大が従来のプロセスよりも格段に容易です。また、多くのデジタル化されたビジネスと簡単に連携できるため、事業の範囲をより広く、多様に拡張することが可能になります。AIのこのような活用は、企業がどのように機能し、成長していくかに大きな変化をもたらしています。

AIの技術、特に自動化や予測分析は、企業が市場の変動に素早く効率的に対応する手助けをしています。大量のデータから傾向やパターンを把握し、戦略立案や決定をサポートすることで、企業は競争力を保ち、新しいビジネス機会を見出すことができます。AIの活用は、企業がどのように運営され、成長していくかを根底から変えています。

著者の２人はAIを取り入れることが企業のさまざまな側面を変革することを強調しています。具体的には、企業の戦略、提供価値、運用モデル、IT基盤、人材と組織の側面が変わると述べています。特に重要なのは、オペレーティングモデルの変革です。

これは、企業がどのように機能し、顧客に価値を提供するかを根本的に見直すことを意味します。AIの導入により、従来のビジネスプロセスや仕組みが変わり、新たなビジネスモデルが生まれる可能性があります。

例えば、AIを活用することで、企業はより効率的に業務を行い、顧客により良いサービスを提供することができます。AIによるデータ分析や予測能力により、企業は市場のトレンドや顧客のニーズをより正確に把握し、それに基づいた戦略を立てることができます。

また、AIを活用するためには、適切なIT基盤が欠かせません。企業は自社のシステムやデータの整備を行い、AIの導入に備えなければなりません。さらに、AIの活用には専門知識やスキルを持った人材が求められます。企業は人材の育成や採用戦略も見直し、AIを活用できる組織を作り上げる必要があるのです

AIが変える企業の未来

AIによって、いかに事業を運営し競争するかという企業の本質が変わりつつある。事業がAIによって推進されていく場合、ソフトウェアの命令とアルゴリズムが企業の価値提供におけるクリティカルパス（臨界経路）を構成する。

過去10年でAIアプリケーションが劇的に増加し、前例のない変化をもたらしています。現在、私たちはネットワークとアルゴリズムが企業組織に深く浸透し、産業の動きや経済の流れを変える新しい時代に入っています。この時代において、デジタル技術の理解は個人のスキルではなく、企業全体にとって必須の要素になっています。

AIは特定の職務やビジネス機能に留まらず、組織の全体的なビジョンとして捉えられています。新しい機会を捉え、課題に対処することが、私たち全員に求められています。事業運営においてAIを活用する際、ソフトウェアの命令とアルゴリズムが中心となります。

これらはAIの動作方法を指示し、企業の目標や戦略に沿って設計される必要があります。適切に設計されたソフトウェアとアルゴリズムを用いることで、AIは業務を効率的に処理し、企業成長を促進します。

デジタル化、アナリティクス、AI、機械学習の進展に伴い、事業のスケーラビリティーが顕著に強化されます。これにより、ユーザー数やユーザーエンゲージメントの増加に伴い、事業の価値が急速に上昇するようになります。

デジタル化は、企業が従来のアナログな手法からデジタル技術を活用することで、業務プロセスの効率化や情報の迅速な共有が可能となります。また、アナリティクスによって蓄積されたデータを分析し、顧客の行動やニーズを把握することで、より効果的な戦略立案やマーケティングが可能になります。

さらに、AIや機械学習の進展によって、人工知能が人間の思考能力や学習能力を模倣し、自律的にタスクを遂行することができるようになります。これにより、企業はより効率的な意思決定や業務の自動化が可能となります。

デジタル・オペレーティング・モデルを採用することで、伝統的な企業との競争において、既存の状況を変革する力を持つことができます。

このモデルは、従来のビジネスモデルにとらわれず、デジタル技術を活用した新たなビジネスモデルを構築することを可能にします。これにより、事業をより迅速かつ効率的に成長させるための新たな道を提供し、デジタル時代における競争優位性を確立することができます。

アマゾンの強みはAIにあり！

好むと好まざるとにかかわらず、デジタル・ネットワークとAIはビジネスや社会を変えつつある。

データ量が増加し、商品の種類や規模が拡大するにつれて、アマゾンのパフォーマンスは目覚ましく向上しています。アマゾンのようなAIエンジンを活用することで、人間のコミュニケーションや調整に伴う複雑さとコストが発生しません。

このシステムは、規模が拡大しても効率性が低下せず、人間や組織の学習エンジンよりも拡張性に優れています。また、アプリケーション間での連携が容易であり、アマゾンが消費者の好みを学ぶことで得た知見は、書籍からビデオ、洋服に至るまで、幅広い商品の提案に応用可能です。

アマゾンの競争力の核心は、デジタル化され続けるオペレーティングモデルにあります。経営哲学として、AIや機械学習の広範な応用、進んだロボット技術、そして知識をソフトウェアに具現化することにより、オペレーショナルエクセレンスを深く理解しデジタル化することに重点を置いています。

従来の倉庫管理では人の手によるプロセスの管理と実行が必要でしたが、アマゾンでは人間は補助的な役割を果たしています。需要予測から倉庫管理、サプライチェーンマネジメント、生産能力計画に至るまで、ソフトウェアとAIが中心的な役割を担っています。

アマゾンは多数の従業員を雇用していますが、彼らは主にデジタルネットワークの補助的な部分で活動しており、コンピュータがまだ対応できない特定の作業（例えば、倉庫の棚から変形した商品を取り出す作業など）を行います。これにより、管理の複雑さを最小限に抑えつつ、デジタルの拡張性を最大限に活用しています。実際、多くの場合、商品のピッキングや最適経路の探索など、人間が行うべき作業をコンピュータが定義しています。

アマゾンは伝統的な業界と何度も衝突し、デジタル化、自動化、そしてAIの導入による代替手段を通じて、業界の構造を変革してきました。アマゾンのサービスは、規模の拡大に伴って改善され続けていますが、従来のビジネスモデルは増大する複雑性とコストの壁に直面しています。アマゾンが成長し続けるにつれ、従来のビジネスは後退し、産業の風景が変わっていきます。

実際、多くの場合、商品のピッキングや最適経路の探索など、人間が行うべき作業をコンピュータが定義しています。

AIファーストの企業の優位性とは？

企業が価値を提供し、規模、範囲、学習を最適化しようとする際には、オペレーティング・モデルがビジネスモデルで設定した方向性と合っていなければならない。

AIファーストの企業は、デジタル技術を核とした新しいオペレーティングモデルを採用することで、伝統的な企業と比較して規模の拡大や新たな製品・事業領域への進出、そして学習と適応の速度を飛躍的に向上させています。このような企業は、人間の介入を最小限に抑えることで、製品やサービスの提供プロセスをデジタル化し、ビジネスモデルのイノベーションを推進しています。

具体的には、ソフトウェアやデータに基づくアルゴリズムを用いて事業活動のボトルネックとなる労働者の作業を代替し、人間が直接関与することなく顧客価値を高めるプロセスを実現しています。また、デジタルオペレーティングモデルは、企業の構造を根本から変え、ビジネスのつながりを容易にし、外部ネットワークやコミュニティとの連携を通じて新たな価値を生み出しています。

デジタル化された成功企業は、マルチサイドプラットフォームを構築し、相互依存性とネットワーク効果で、顧客やパートナーを拡大します。これにより、企業は事業の範囲を広げ、顧客に提供する価値を増大させることが可能になります。

オペレーティング・モデルのデジタル化によって、企業は迅速に学習し、イノベーションを実現できるようになります。蓄積された大量のデータは、アプリケーションのパーソナライズや製品開発など、幅広いタスクにおいて重要な役割を果たします。

さらに、業務のデジタル化によって組織運営の官僚的な手続きを排除し、組織全体をより小さく、よりアジャイル（機敏）なものにすることができます。結果、データに基づいて迅速に意思決定を行う小規模な製品チームの運営が可能になります。

デジタル・オペレーティング・モデルは、従業員に代わってソフトウェアやアルゴリズムが製品やサービスの提供を自動化するデジタル「組織」の設計と監督を可能にします。これは、企業の成長プロセスを大きく変え、伝統的な業務の制約を超えることを可能にします。

AIにおける先進企業は、データとアナリティクスへの投資を通じて、ビジネスの様々な機能において大きな利益を享受しています。これらの企業はデータを活用し、意思決定を自動化することで、市場の動向、顧客のニーズ、企業運営、従業員の能力、製品やサービスの性能を総合的に理解し、複雑な判断を行っています。

AIファーストのアプローチにより、生産の増加に伴う追加の資源投入を最小限に抑え、組織的な複雑さの増加による効率の低下なしに急速な規模拡大を実現しています。さらに、継続的に顧客情報を収集・分析することで、顧客ニーズのより広範な発見と多様な価値提供が可能になります。

このプロセスは、提供する価値の最適化と個別化、新たな顧客ニーズや市場機会の発見、そして総合的な顧客体験の向上へとつながります。このサイクルが継続することで、提供価値の範囲が拡大し、そのペースは必要な資源やコストの増加ペースを上回り、指数関数的に大きくなります。

結果として、この新しいオペレーティングモデルは収穫逓増をもたらし、一定のクリティカル・マス（臨界点）を超えると価値が急速に拡大します。このメカニズムは、収穫逓減のモデルを採用する従来の企業が競争に立ち向かうのが難しくなるほど強力です。

本書は、企業がこの変革を遂げるための道筋を示し、AIを中心に据えた未来を構築するための知識とツールを提供しています。 AIファーストアプローチは、データが中心となる戦略であり、業務課題の解決に必要なデータの収集からスタートします。

このアプローチにより、短期間で業務プロセスの改革や改善が可能となり、効率と効果を向上させ、経営の意思決定や業務効率化に貢献します。現代のITと経営が密接に結びつく状況において、データを優先するAIファーストアプローチは、業務プロセスの効果的な改革と改善を実現する有効な戦略といえます。

ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術

posted with ヨメレバ

徳本昌大ラトルズ 2014-11-25

Amazon

Kindle

図書館