いかなる時代環境でも利益を出す仕組み(大山健太郎)の書評

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いかなる時代環境でも利益を出す仕組み
大山健太郎
日経BP

いかなる時代環境でも利益を出す仕組み(大山健太郎)の要約

アイリスオーヤマは「メーカーベンダー」という業態を活かし、ユーザーのニーズを基点に製品開発を進めています。「プレゼン会議」や「ICジャーナル」を通じて、現場の声を経営に反映し、独りよがりの開発を防ぐ仕組みを整えています。これにより、全社員が顧客ニーズに応える製品を生み出し、社会に価値を提供する企業文化を形成しています。

ユーザー・インがアイリスオーヤマの強み!

「ピンチをチャンスにする経営」ではなく、「ピンチが必ずチャンスになる経営」の結果です。アイリスの経営は、ビジネスチャンス優先です。(大山健太郎)

アイリスオーヤマの経営モデルは、単なる「ピンチをチャンスにする経営」にとどまりません。それは「ピンチが必ずチャンスになる経営」の実践そのものです。この経営哲学は、外的な変化に受動的に対応するのではなく、自ら進んで機会を創り出すという積極的な姿勢を内包しています。

同社が最も重視しているのは、ビジネスチャンスを的確に捉えることです。それは、短期的な利益追求やコスト削減を目的とした守りの戦略ではありません。むしろ、環境の変化を成長の機会に転換する独自の視点に基づいています。この姿勢こそが、アイリスオーヤマを他の企業と一線を画す存在へと導いているのです。

同社の「選択と分散」の戦略は、柔軟性と多様性を兼ね備えた新しい経営アプローチです。 この戦略を支えているのが「稼働率7割」「工場分散」「米欧中の拠点分散」というユニークな運営方針です。一見非効率にも思えるこの施策は、実際には市場の不確実性に対応する余力を持たせる仕組みです。変化を先取りし、新たなビジネスチャンスを逃さないための準備といえます。常に余地を残すことで、企業全体の柔軟性を高めているのです。

需要と供給のバランスで動く市場経済と一線を画すためには、自ら需要を生み出す市場創造型の製品が必要です。それを「ユーザーイン」という言葉に昇華し、経営の軸に据えます。

さらに、アイリスオーヤマは「ユーザーイン」という経営理念を掲げています。この理念は、従来の「マーケットイン」にはない視点を提供しています。「マーケットイン」が中間流通業者のニーズを優先するのに対し、「ユーザーイン」は最終消費者の真のニーズを起点としています。これにより、消費者により近い位置で事業を展開し、真のニーズを正確に把握する体制を築いています。

また、アイリスオーヤマは従来のメーカーとしての枠組みを超え、「メーカーベンダー」としての機能も備えています。これにより、流通構造の複雑性を解消し、消費者との距離を縮めることで、迅速かつ的確にニーズに応えることが可能になっています。 こうした戦略には大きな挑戦も伴います。製造業者が問屋機能を持つことは、経営資源の分散やノウハウの蓄積という困難な課題を伴うからです。

しかし、アイリスオーヤマはこれらの課題に果敢に挑み、独自のビジネスモデルを築き上げています。その結果、単なる環境適応ではなく、環境自体を変革する力を獲得しています。このような戦略的アプローチは、経営学者ドラッカーが提唱した「環境変革」の思想とも一致しています。

組織構造の面でも、同社は革新を続けています。事業部制を採用しながらも、固定的なツリー構造ではなく、柔軟なネットワーク構造として運用しています。この構造のもと、全社員が日々の業務を記録する「ICジャーナル」を共有し、全員が互いの情報を閲覧できる仕組みを整えています。この取り組みによって、各部署が自律的に連携し、企業全体が神経細胞のように動的なネットワークを形成しているのです。

アイリスオーヤマの事例は、企業経営における柔軟性と革新の重要性を如実に示しています。「選択と分散」による経営資源の配置、多様な知恵の活用、そして「ユーザーイン」という理念の徹底は、変化が常態化する現代において、持続可能な成長を実現するための指針となるはずです。

新製品比率を50%以上にするが、アイリスオーヤマのKPI

売上高全体に占める新製品の売上高比率を数値目標に掲げます。新製品は「発売して3年以内の製品」と定義し、「新製品比率の目標は50%以上」です。

アイリスオーヤマは、価格競争が激化する市場に早い段階で見切りをつけ、新たな方向へ進む決断を下しました。この判断により、売上を補うための新製品開発に力を注ぐことが可能となり、さらに米国市場への進出を成功させる道を切り開きました。

米国市場で得た利益は、次なる新製品開発のための投資資金に回され、さらなる成長を促進しています。価格競争に固執せず、柔軟に戦略を転換する姿勢が、同社の成長を支える大きな鍵となっています。

また、アイリスオーヤマは独自の経営方針として、新製品比率を50%に設定し、経常利益の50%を毎年新たな投資に回す仕組みを確立しています。この方針は、同社の成長戦略の中核をなす重要な柱です。経常利益の半分を投資に充てるという大胆な戦略は、株主への配慮を重視せざるを得ない上場企業では実現が難しいものです。

しかし、未上場企業であるアイリスオーヤマは、株主の意向に左右されることなく、長期的な成長を見据えた経営を推進できるという大きな強みを持っています。 さらに同社は、企業の新陳代謝を示す指標をKPI(重要業績評価指標)として活用することで、成長を持続させています。

このアプローチは、企業が陥りやすい「大企業病」を防ぐ上で効果的です。大企業病とは、組織が大きくなることで官僚主義や縦割り主義が強まり、顧客の期待が後回しになることで利益率が低下し、競争力を失う現象を指します。

アイリスオーヤマでは、大企業病のリスクを回避するため、新製品比率と経常利益率をKPIに設定し、イノベーションの促進に注力しています。新製品比率を50%とすることで、市場の変化に迅速に対応し、顧客の多様なニーズに応える製品を提供し続けています。

また、経常利益の50%を投資に充てることで、成長に必要な資源を確保し、未来を見据えた基盤づくりを行っています。

このような柔軟で先進的な経営姿勢が、アイリスオーヤマの競争力をさらに高める原動力となっています。同社の取り組みは、短期的な利益にとらわれず、持続的な成長を目指す成功例として注目されています。その手法と理念は、他の企業にとっても学ぶべき貴重なモデルといえるでしょう。

新製品の開発提案からパッケージデザインに至るまで、アイリスではすべてが、プレゼン会議の議長である社長の決裁で進みます。開発に関することだけでなく、売り場デザインや販促キャンペーン、重要な得意先への納入価格の決定などもプレゼン会議で社長決裁です。

アイリスオーヤマの独自の経営文化が注目を集めています。同社は、従来の製造業における常識を打ち破る柔軟な経営戦略を展開し、着実に成果を上げてきました。その成功の背景には、徹底した情報共有と迅速な意思決定を可能にする独自の仕組みが存在します。

特に、毎週開催される「プレゼン会議」と日々の業務から得た気づきを記録する「ICジャーナル」の二つのシステムが重要な役割を果たしています。

プレゼン会議は、社内の情報共有と意思決定の中核を担っています。月曜朝から夕方までの会議では、役職や立場を問わず平社員から社長までが一堂に会し、現場からの提案や課題について議論を行います。その特徴は、参加者全員で意見を交わしながら、社長がその場で即断即決を行う点にあります。一日に60案件の議題が話され、10分程度で結論を出すと言います。

アイリスには約20の事業部があります。社長は全事業部の全案件を1日で決裁します。各事業部の持ち時間は数十分。次から次へと繰り広げられるプレゼンに対して、社長は「分かった。OK!」「分からん、もう1回!」という判断を即座に下します。この決断の速さが、年間1000アイテムの新製品を生み出すアイリスの事業スピードに直結しています。

さらに、遠隔地の拠点にいる社員もテレビ会議を通じて参加することで、全社規模での議論が可能となっています。この仕組みにより、現場の声が経営に迅速に反映さますし、問題の所在が明らかになり、課題解決がその場でできます。また、社長の考えが社員にその場で伝わりますから、従来の稟議制度や承認プロセスに比べてはるかに効率的です。

ICジャーナルは、アイリスオーヤマの社員一人ひとりが情報発信者として、自身の気づきや考えを全社に共有するためのシステムです。このジャーナルは単なる日報ではなく、社員が業務を通じて得た情報を自らの視点で解釈し、その価値や意味を深く考察した内容を記録する仕組みです。単なる事実の羅列ではなく、記事を書く記者のように深く掘り下げた内容が求められる点が大きな特徴です。

ICジャーナルでは、情報共有が目的であるため、事実を並べるだけでは不十分です。社員は日々の業務で得た情報を基に、自分自身の考えや意思を発信することが求められます。また、ICジャーナルはグローバルの拠点とも結ばれているため、世界の情報をリアルタイムで入手できます。

例えるなら、グーロバルに散らばる記者が新聞の記事を書くようなイメージです。その情報から何を考えたのか、どのような意味があるのかを、経営者や全社員に向けて報道するようなスタイルで書くことが期待されています。このため、「日報」ではなく「ジャーナル(定期刊行物)」と呼ばれています。

こうして集められた情報はデータベースに蓄積され、社員が必要な時に自由に検索・参照できる仕組みになっています。これにより、社員全員が互いの考えや知見を共有し、会社全体としての知識や洞察を広げていくことが可能となるのです。

これら二つの仕組みによって、アイリスオーヤマでは現場からの生の声が経営陣を含む全社員に共有され、それを基にした迅速な意思決定が行われています。トップダウンとボトムアップの両方の視点を融合させた情報の流れが組織の活力を生み、競争力を高める原動力となっているのです。

アイリスオーヤマは「メーカーベンダー」という業態を活かし、ユーザーのニーズを基点に製品開発を進めています。「プレゼン会議」や「ICジャーナル」を通じて、現場の声を経営に反映し、独りよがりの開発を防ぐ仕組みを整えています。

これにより、全社員が顧客ニーズに応える製品を生み出し、社会に価値を提供する企業文化を形成しています。同時に、情報共有と迅速な意思決定を徹底し、独自の競争力を築いています。この柔軟な経営姿勢は、他企業にとって理想的なモデルとなっています。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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