イノベーションがOB&HRMの変化を加速する! 世界標準の経営理論(入山章栄)の書評

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世界標準の経営理論
入山章栄
ダイヤモンド社

本書の要約

AIには「問いを立てること」ができないのですから、私たちは「問いを立てる」能力を高めていくべきです。「問いを立てる」ことこそが、未来の企業が人材に求めるべきことであり、OB&HRMでも、「問題認識」「メタ認知」「直感」「感情」など、「機械ができず、人間だけができること」に焦点を当てていくべきです。

変化するOB&HRM領域

急速にビッグデータ分析や人工知能(AI)技術がビジネスに浸透しつつあることだ。OB&HRMも例外ではない。(入山章栄)

日本の伝統的人事部門は、データを重視せず、人材のデータを収集しても活用しないことが多いと著者の入山章栄氏は指摘します。しかし、AI・ICTなどのテクノロジーの進展により、人事部門向けのデータ活用が急速なペースで浸透しつつあります。

組織行動( Organizational Behavior, OB ) と 人的資源管理(Human Resource Management, HRM )の分野で分野で最先端を行くグーグルは採用活動において、自社データにこだわり、外部の採用サービスを一切使いません。自社の圧倒的なデータドリブンを活用し、最適な人材の採用に成功しています。

グーグルは社内の人材をすべてデータ分析し、同社にとっての「優秀人材」の特性を把握しています。たとえば「アイビーリーグを平凡な成績で卒業した人より、州立大学をトップで卒業した人のほうがグーグルでは高いパフォーマンスを上げられる」などの分析によって、優秀な人材を採用しています。

応募者のエントリーシートをすべてテキストマイニングし、その内容と社員のパ フォーマンスの関係も解析しています。同社では、不合格にした人のエントリーシートもテキストマイニングして、適宜よい人材を見つけ、採用につなげています。ちなみにグーグルでは4回の面接を行うのが、よいと判断しています。

面接の質問内容、女性社員活躍を推進する方法、働き方改革の必要性とその効果測定の方法、採用施策の評価、優秀な社員の定着率上昇策、中間管理職の貢献度の計測方法、高齢化への対応方法など、すべてデータ解析により決定するのが、グーグルのやり方です。

最近では、AIを搭載した人事系の業務ソフトウエアが、続々とITベンダーから提供されつつあり、採用や社員のメンタルヘルスの管理、労務管理などの業務までを担い始めています。

AIによるビッグデータ分析が「経営理論を必要としない」状況を生み出しています。ディープ・ ラーニング技術を使ったAI分析は、既存のビッグデータを使ってAIに学習をさせ、特定の事象(たとえば優秀人材の採用基準)を説明する特徴を「発見させる」手法です。この過程に、経営理論は必要ではなくなり、経営理論にとって脅威になります。

■演繹法→理論から仮説を立て、それを実際のデータで検証していく方法になります。従来の経営学では、広くこの演繹手法が使われてきました。

■帰納法→複数の事例などから共通点を探し、根拠をもとに結論を導き出す方法。最近では、データドリブンの帰納法が広がりつつありますが、AIによるデータ分析の結果を、すべての人が受け入れられるとは限りません。

そのため、OB&HRM領域のビッグデータ・AI分析を経営理論が補完する必要が出てきます。経営理論とビッグデータ解析の両方のアプローチから、人生戦略を構築すべきです。

TFLとセンスメイキング理論をOB&HRMに活用しよう!

今後、AIとビッグデータの浸透が、我々の仕事のあり方を大きく変えることは間違いない。そして、仕事のあり方が変わるなら、それに対応して求められる経営理論も変わるはずだ。

イノベーションの重要性が高まる中で、今後はマクロ心理学とミクロ心理学の融合が始まります。ビッグデータやAI の人事への浸透は、ミクロ心理学と経済学、そして社会学との重層化も促していきます。

当然、AIにはできないことがあります。「問題認識」「メタ認知」「定型的でない意思決定」「感情表現」などは、AIが苦手な分野になりますが、人はここで価値を提供すべきです。

AIには「問いを立てること」ができないのですから、私たちは「問いを立てる」能力を高めていくべきです。「問いを立てる」ことこそが、未来の企業が人材に求めるべきことであり、OB&HRMでも、「問題認識」「メタ認知」「直感」「感情」など、「機械ができず、人間だけができること」に焦点を当てていくべきです。

イノベーションの進展とともに人事の世界は、これからさらに広がりを見せ、複雑に、そして面白くなっていくと入山氏は指摘します。 リーダーシップのあり方もAIとともに変化します。

AIは定型化した未来に対しての意思決定は得意なため、「管理型のリーダー」は、AIに置き換わる可能性があります。

しかしAI は、まったく見通しの立たない不定形な世界でリーダーシップを発揮することはできない。たとえば、新興市場で何も情報がないところから、新しいビジネスを始める時に、AI は何の支えにもなってくれない。逆に言えば、そのような状況でリーダーシップを発揮しうる「人の能力」を深掘りすることが、OB&HRMで重要になるはずだ。

リーダーは今後、チームにビジョンを示すTFL(トランスフォーメーショナル・リーダーシップ)を目指すべきです。

TFL=明確にビジョンを掲げて自社・自組織の仕事の魅力を部下に伝え、部下を啓蒙し、新しいことを奨励し、部下の学習や成長を重視します。

そのために以下の3つの資質を養う必要があります。
①カリスマ(charisma):企業・組織のビジョン・ミッションを明確に掲げ、部下にその組織で働くプライド、忠誠心、敬意を植え付けます。
②知的刺激(intellectual stimulation):部下が物事を新しい視点で考えることを推奨し、部下にその意味や問題解決策を深く考えさせてから行動させることで、部下の知的好奇心を刺激します。
③個人重視(individualized consideration):部下に対してコーチングや教育を行い、学習による成長を重視します。

VUCAの時代を生きるリーダーは、単なる将来予測だけでなく、「将来ありたい姿」を啓蒙し続ける必要があります。パーパスとビジョンを語り、周囲を巻き込みながら、彼らの力を引き出すようにします。

ビジネスの重要な局面で、感情の力を活用すべきです。リーダーは周囲が納得し理解する感情を意図的に巻き起こし全体の方向性を明確にし、組織を動かしていくべきです。リーダーはストーリーテリングをし、周囲の解釈を揃え、ゴールを目指すというセンスメイキング理論を活用すべきです。経営者は自らビジョンを示し、それをともに啓蒙できるリーダーを組織に増やすべきです。

イノベーションが進展する中で、OB&HRMの役割も変わります。変化に適応できる人材をテクノロジーの力とリーダーシップの観点から採用・育成すべきです。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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