10年変革シナリオ 時間軸のトランスフォーメーション戦略
杉田浩章
日経BP
本書の要約
企業は、日々の小さな変化を素早く繰り返すことで、長期間が経過すると現在とは全く異なるものに変貌することができます。現代の経営者には、この小さな変化をパーパスとビジョンを基軸に戦略を組み立て、長期的な視点を持った成長戦略を作ることが求められています。その結果、企業は10年後も成長し続けることができます。
時間軸のトランスフォーメーション戦略とは何か?
10年経ったとき、その時点から現在を見ると、変化は非連続に見える。逆にまったく違う企業であるかのような非連続な変化ができていなければ、その時点で生き延びていないかもしれない。しかし一方で、現在から10年後に向けてのプロセスは、連続的な変化の積み重ねである。小さな変化の連続を速いスピードで日々繰り返すからこそ、長い時間が経過したとき、結果的に今とはまったく違う企業に変貌できているのである。(杉田浩章)
企業が衰退するプロセスには、多くの場合、長期にわたる問題が積み重なることがあります。そのため、問題が顕在化するまでに数年または10年以上かかる場合があります。
企業の衰退の原因には、競合他社との競争力不足、顧客のニーズに対する不十分な対応、技術的な進歩に取り残されること、業界の変化に対する遅れた対応などがあります。これらの問題が長期化すると、企業の収益性や市場シェアが低下し、経営に支障をきたすことがあります。
変化の激しい現代だからこそ、小手先の改革ではなく、長期的な視野を持って抜本的な企業変革に着手する必要があるのです。
著者の杉田浩章氏は、「時間軸のトランスフォーメーション戦略」という長期的な視点を持った成長戦略を提唱し、ユニ・チャームや富士フィルム、ソニー、マイクロソフトなどの企業の経営戦略を過去の失敗からの脱却を踏まえて解説しています。本書は、ボストンコンサルティンググループで蓄積した知見をもとに執筆されているため、ロジカルかつ具体的な内容であり、読者にとってわかりやいものになっています。
「長期の時間軸で自社の変革を実現するトランスフォーメーション」の成功には、戦略の策定だけでなく、パーパスを設定し。それをドライブする人材、組織能力、カルチャーの変革を行う必要があります。
パーパスとは「存在意義」、すなわち自社が持つ独自の強みを通じて価値を提供することを指す。そして自社の存在意義は、2つの質問が重なる領域にある。すなわち「我々・自分は何者か?」「世界のニーズは何か?」だ。
変革が必要なタイミングにこそ、パーパスを定義することが重要になります。
・自分たちはどこを目指すのか?
・社会にどのような価値 貢献ができる存在になるのか?
・そもそも自社の存在意義とは何か?
を問い直さなければなりません。
パーパスを確立したら、持続可能なビジョンやミッションに置き換え、戦略に反映させます。そして、実行と評価のサイクルを繰り返すことで、自社のカルチャーに浸透できます。パーパスやカルチャーが従業員の行動の基盤となり、組織が変革を遂げられるようになります。
以下のようなタイミングにパーパスが求められます。
・戦略の大きな転換や長期経営計画の策定
・ESGやSDGsの本業への本格的な組み込み
・企業統合やジョイントベンチャー設立
・危機
・再生(環境の急変、業績悪化、不祥事など)
・組織再編
・グローバル化
・エンゲージメントの急速な低下
・新たなCEOの就任
パーパスが変革で担う5つのポイント
パーパスは変革で重要な役割を担います。著者は5つのポイントを明らかにしています。
①不確実な環境下における道標
企業が先が見通せない不確実な環境下で目指す方向性を示すために、有効なのがパーパスになります。
②従業員の動機付けや優秀な人災のリテンション
企業のパーパスは個人にとっての働き甲斐の源泉となります。それにより従業員の動機づけや優秀な人材を惹きつけることにつながり、人材の採用・定着にも効果を発揮します。
また、組織と個人の存在意義をつなげてアラインメントを生み出すことで、目的に向けてチャレンジする個人が尊敬される土壌を作れます。結果、企業のあるべき姿にカルチャーを変えることができます。パーパスを実現しようという社員が増えることで、組織力を強化できます。
③戦略の自由度が高まる
パーパスによって戦略の幅を広げ、自由度を高めることができます。各組織、チーム、個人としての意思決定の自律性を高め、業務スピードがアップします。不確実性が増し、環境変化のスピードが上がる現代において、チャンスを逃がさずにつかむためには、現場が臨機応変に判断して動けることが重要で、その際の指針となるのがパーパスであることを忘れないようにしましょう。
④戦略プランニングの考え方が変わる
戦略プランニングにおいて、中期的な財務目標を中心に据えた計画の意味が薄れ、長期的な世界観を定めてそこに向けてチャレンジを続けることが求められるようになっています。具体的には、長期を見据えた課題設定と変革ポイントを定義し、そのために短期・中期・長期の企業変革を連携させていくことが必要になります。クオリティの高い戦略アジェンダと達成シナリオをプランニングすることが、ますます重要になっていきます。
⑤組織カルチャーの変革
企業が成長し続けるためには、時間軸の変換を理解し、「両利きの経営」を行う必要があります。現代においては、自ら未来を創造し、変化に対応できる能力が最も重要です。経営者は、現在の利益を生み出す持続的イノベーションと未来の顧客を獲得する破壊的イノベーションの両方をバランスよく取り入れ、異なる時間軸で異なるコア事業を創造し続けることが使命となります。このためには、コア事業で利益を確保しつつ、できるだけ長期的かつ収益性の高い基盤を築くための構造改革が必要です。
未来のコアになる事業体そのものを獲得するための十分な資源配分ができるように、本業で確実に利益を上げながら、長期的な成長ができる企業に事業構造をトランスフォームさせていくことが求められます。その際、どうしても後回しになりがちな、長期的な視点に立った資源配分を行うことが不可欠になります。
中期的には、投資してきた周辺領域が中期を支える次の「コア事業」となり、さらにその先を見越して、先行して投資を続けてきた領域が10年後の成長を支える「コア事業」となっていきます。
企業は、日々の小さな変化を素早く繰り返すことで、長期間が経過すると現在とは全く異なるものに変貌することができます。現代の経営者には、この小さな変化をパーパスとビジョンを基軸に戦略を組み立て、長期的な視点を持った成長戦略を作ることが求められています。これにより、企業は10年後も成長し続けることができます。
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