日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか
岩尾俊平
光文社
日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか(岩尾俊平)の要約
「人間は価値創造の主役であり、経営の目的は対立を解消し続けることにある」という信念に基づき、経営教育を家庭、学校、職場において広く行うことで、実際に価値創造力が向上します。「金より人」を重視する経営へシフトすることが、「日本式経営の逆襲」となり、日本企業を再び成長させるはずです。
日本企業が復活するために必要なこと
経営の知と心が一部の人に独占されてしまうからこそ、経営人材ではない多くの人の賃金は上がらず、経営発想が生まれないためにGDPも低成長にとどまり、イノベーション実現のために協力し合えず、価値創造から金銭を得る方法が分からずに犯罪に手を染める人が増え、他者の力を引き出す経営ではなく他者を監視する名ばかり管理がはびこる。(岩尾俊平)
日本企業がかつて大切にしていた「お金より人が大事」という理念は、単なる理想主義ではなく、実際の利益に結びつく重要な考え方でした。この考えは、多くの企業を成功に導く力となり、ビジネスの繁栄に欠かせない要素であったのです。
しかし、時が経つにつれて、この基本的な原則が忘れ去られ、多くの日本企業が金銭優先の道を選びました。特にアメリカ式の経営モデルを表面的に模倣することで、低生産性と低賃金の問題に陥り、企業にとっての「負のスパイラル」が形成されてしまいました。 このような状況を打開するためには、日本の企業が自身の根底にある価値観に立ち返ることが必要です。
従業員を単なる労働力と見なすのではなく、価値創造の重要なパートナーとして尊重し、彼らの能力を最大限に引き出すことが重要です。これには、従業員の教育とスキルアップ、職場環境の改善、そして従業員の幸福と企業の目標を一致させる取り組みが含まれます。
昭和時代の「インフレ下の経営」では、相対的に金銭の価値が下がり、人や物の価値が上がる状況がありました。対照的に、平成時代はデフレの下での経営が主流となり、相対的に金銭の価値が上がり、人や物の価値が軽視されがちだったと著者は指摘します。
アメリカをはじめとする海外では、たとえば「心理的安全性」や「ティール組織」等の議論にみるように、ヒトを大事にする経営への志向が強まっているにもかかわらず、である。その意味で、日本において流行するアメリカ式経営は「似非」世界標準、「似非」アメリカ式経営に過ぎない。
アメリカの大手企業、例えばGAFAMは、従業員を重視する経営を行い、その結果、革新と成長を遂げています。これらの企業は、従業員の能力を最大限に引き出し、イノベーションを促進する文化を築いています。一方で、日本の企業の多くは、DXや生産性の向上といった側面だけを取り入れ、人間中心の経営の本質を見落としている傾向があります。
日本の企業が真に進化し、持続可能な成長を達成するためには、生産性の向上や技術の革新だけではなく、従業員を重視した経営の重要性を再認識する必要があります。従業員の満足度とモチベーションを高めることは、長期的な視点で企業の成長と革新を支える基盤となります。
そのためには、心理的安全性の確保、組織内コミュニケーションの強化、従業員一人ひとりの才能と能力を尊重する文化の醸成が重要です。こうした取り組みは、単なる「アメリカ式経営」の模倣ではなく、真に従業員を中心に据えた経営へのシフトを意味します。
カネよりヒトの時代にシフトすべき理由
日本は自分の強みを捨ててアメリカ型の経営に近づき、アメリカは冷静に自らの弱みを分析して日本の経営技術をも着々と取り入れる。日本企業は、根拠なき悲観論から、まるで自己破壊ともいえるような行動を起こしているのである。
かつて日本企業が国際的に成功を収めた背景には、カイゼン(改善)、ケイレツ(企業グループ)、トヨタ生産方式などの革新的な経営手法がありました。これらの手法は、効率性、品質の向上、そして柔軟な生産システムにおいて大きな進歩をもたらしました。特に注目すべきは、これらの手法が単なる技術やプロセスではなく、哲学や経営の根本的な考え方を体現していた点です。
例えば、「カイゼン」は継続的な改善を目指すアプローチであり、従業員一人ひとりが日々の業務において小さな改善を行うことで、全体として大きな成果を達成するという考え方です。トヨタ生産方式は、無駄を排除し、ジャストインタイム生産を実現することで、生産効率を劇的に高めました。
これらの日本発のイノベーションは、アメリカをはじめとする世界各国の経営者や学者によって高く評価され、さらに発展していきました。アメリカの経営者や学者は、これらの経営技術を理論的な枠組みにまとめ上げ、新たなビジネスの概念やバズワードとして世界に広めたのです。
経営技術をコンセプト化することで、グローバル化も可能になり、アメリカ企業が競争優位性を発揮できるようになったのです。日本はこのアメリカの手法を真似るべきです。
もともとは日本企業が実践していた経営手法がコンセプト化され、日本に逆輸入されるに至ったのです。
・両利きの経営(カイゼン)
・オープンイノベーション、リレーショナルビュー、組織のソーシャルキャピタル(ケイレツ)
・リーンスタートアップ(トヨタ生産方式)
ジェフ・ベゾスはアマゾンを成長させる過程で、カイゼンの精神を積極的に取り入れていたのです。トヨタのリードタイムの短縮という発想が、スタートアップのリーン思考につながったのです。
日本の企業文化は、かつてはノンヒエラルキーで他者への自発的な貢献を重視するティール組織の特徴を自然に持っていました。しかし、近年のアメリカ型の成果主義が日本企業に浸透するにつれ、この人間中心の経営哲学が薄れていきました。現在、ティール組織の考え方が日本で注目されているのは、日本の良き時代の組織文化が失われつつある証しとも言えます。
日本式経営の本質的な強みを再評価し、それを現代の経営環境に適応させることが、労使の対立解消の鍵となる可能性があります。日本企業が、かつて全世界から注目された要因の一つは、「人を大切にする」経営哲学にあったことを忘れないようにすべきです。
また、「価値創造の民主化」という概念は、日本式経営の中核を成しています。このアプローチでは、①全ての人間が価値創造の主役であるという信念と、②経営知識と経営意識の組織内共有が重要です。これら2つの要素は相乗効果を生み出し、価値創造における各人の貢献を促進します。
「人間は価値創造の主役であり、経営の目的は対立を解消し続けることにある」という信念に基づき、経営教育を家庭、学校、職場において広く行うことで、実際に価値創造力が向上します。そして、この成果がさらに信念を強化し、信念と実績が互いに強化し合う循環が生まれます。この循環は、従業員の生産性向上だけでなく、企業の全体的な成長、株価の上昇、そして従業員の給与増加に繋がると予想されます。
もちろん、この変革は容易ではありませんが、共同体全体の豊かさを増大させ、外部の競争にも勝利するための道筋となる可能性があります。
このようなアプローチは、「金より人」を重視する経営への転換を促し、特にインフレが進む現在のような経済環境下ではさらに効果的です。これが「日本式経営の逆襲」としての真の意義であり、単なる懐古主義ではない新たな経営の道となるというのが著者の主張になります。
日本企業がかつての強みを取り戻し、新たな成長を遂げるためには、根拠のない日本総悲観論を乗り越え、人を中心とした経営哲学を再び取り入れることが重要です。日本企業は、かつて「人を大切にする経営」によって世界的な成功を収めていたのです。
人中心のアプローチは、従業員のエンゲージメントと創造性を高め、組織全体の生産性向上に繋がります。重要なことは、日本企業が持つ伝統的な強みである「人を重視する経営」を現代のビジネス環境に適応させることです。人を中心に置いた経営は、従業員のモチベーションを高め、イノベーションを促進します。また、多様なアイデアや意見が尊重される文化は、持続可能な成長と競争力の向上に寄与するはずです。
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