AI駆動マーケティング 業務効率化を超える生成AI実践術
馬渕邦美, 柴山大
インプレス
AI駆動マーケティング 業務効率化を超える生成AI実践術(馬渕邦美, 柴山大)の書評
生成AIの進化により、マーケティング分野では効率化を超えた実践的な活用が進んでいます。『AI駆動マーケティング』では、生成AIと従来型AIの融合やAIエージェントの活用を通じて、戦略的かつ創造的なマーケティングが可能になることを示しています。著者の実務経験に基づく具体的なノウハウや事例が豊富で、AI時代におけるマーケターの本質的役割やスキル再定義にも触れています。AIを味方に、価値ある変革を実現するための一冊です。
AI AGENTがマーケティングを変える!
生成AIは、従来型AIを置き換えるものではありません。むしろ両者を組み合わせることで、それぞれの強みを生かした相乗効果が期待できます。例えば、従来型AIでデータ分析や予測を行い、その結果をもとに生成AIでコンテンツを作成するといった連携が可能です。このように両者の特性を理解し、適材適所で使い分けることが、効果的な活用の秘訣となるでしょう。(馬渕邦美, 柴山大)
生成AIの進化と普及が加速する中、マーケティング分野におけるその活用可能性はますます現実味を帯びてきました。多くのビジネスパーソンが業務効率の向上やコスト削減といった即効性のある効果に期待を寄せる一方で、生成AIの真価は、従来型AIとの組み合わせによってこそ発揮されると言っても過言ではありません。
データ分析や予測といった分野では、引き続き従来型AIが強みを持っています。その成果をもとに生成AIが具体的なコンテンツを創出することで、マーケティング施策の質を飛躍的に高めることが可能になります。つまり、両者の特性を理解し、適切な場面で使い分けることこそが、成果最大化の鍵を握っているのです。
私自身も、ChatGPTに加えてGeminiや、最近ではPerplexityのAIブラウザー「Comet」を活用し、生産性の向上に役立てています。 こうした流れの中で、次に注目すべき存在として浮上しているのが「AIエージェント」です。
AIエージェントとは、単なる生成AIとは異なり、ユーザーの指示に応じてAIが自律的にタスクを計画・実行し、実行結果を振り返って自己改善し、さらに再実行まで自動的に行う、高度なAIシステムを指します。
従来の大規模言語モデル(LLM)は基本的に単一の指示に応じて応答するものでしたが、AIエージェントはその枠を超え、指示を複数のタスクに分解し、段階的にこなすことで、より複雑で持続的な目的の達成を可能にします。このような能力は、マーケティング戦略におけるPDCAの自動化や、継続的なパーソナライズ施策の実行など、従来では人手と時間が必要だった領域にも応用が見込まれています。
こうした最新の潮流を踏まえたうえで注目を集めているのが、馬渕邦美氏と柴山大氏による共著AI駆動マーケティング 業務効率化を超える生成AI実践術です。
本書の説得力は、著者それぞれの豊富な実務経験に裏打ちされています。馬渕氏は、国内外の大手広告会社を経て、PwC Japanやデロイトトーマツで数々のDXプロジェクトをリードしてきた実績を持ち、現在はXinobi AIの共同CEOとして企業のAI活用や組織変革の支援に取り組んでいます。
一方、柴山氏は博報堂DYグループのAI開発を主導してきました。Hakuhoudo DY常務執行役員、negocia株式会社代表取締役CEOとして、企業向けマーケティングDX支援事業を展開しています。
両氏ともに、テクノロジーとビジネスの接点を深く理解しており、その知見は本書のあらゆる章に息づいています。机上の理論ではなく、現場のリアリティに根ざしたアプローチが詰まっているからこそ、読む人の心と行動を動かす一冊になっているのだと感じます。
本書の魅力は、抽象論ではなく、生成AIやAIエージェントを「どう使うか」にフォーカスしている点にあります。生成AIの基本的な理解から始まり、実際のマーケティング業務への応用、さらには組織全体としての導入戦略に至るまで、多岐にわたるテーマが網羅されています。
具体的な活用事例やプロンプト設計の方法、社内展開のためのステップなど、「今すぐ活用可能なノウハウ」が惜しみなく盛り込まれています。 さらに、近年注目を集めているAIエージェントにも言及することで、生成AI活用の“次の段階”を見据えた視座を提供している点も見逃せません。
実際、OpenAIはAIエージェント構想として「Operetar(オペレーター)」の開発を進めており、自然言語での指示をもとにマルチステップな作業を自動遂行するインターフェースを目指しています。
「Dify」は、ノーコード〜ローコードでカスタムAIエージェントを開発・展開できるオープンソースプラットフォームです。専門知識がなくてもビジュアル操作で構築可能で、RAG機能や独自データ連携にも対応しています。OpenAIやGoogleなどのLLMと連携し、チャットボットから自律型エージェントまで柔軟に開発できます。
さらに、2025年に登場した「Manus」は、中国のスタートアップ企業「Monica」が開発した、完全自律型のAIエージェントです。従来のチャットボットとは異なり、ユーザーの指示を受けて自ら思考し、計画を立て、実行することができます。旅行プランの作成、SNS分析、金融取引、リサーチ、商品購入など、さまざまなタスクを自律的にこなすことが可能です。
こうした進化の波に乗るためには、単にツールを導入するだけでは不十分です。生成AIとAIエージェントを、マーケティングのどこに、どのように組み込むか。その判断力こそが、企業の競争力を左右します。
マーケティングAI導入の4つの効果
マーケティングで生成AIが最大の可能性を秘めている分野は、カスタマイズ、創造性、接続性、認知コストの4つ。
生成AIがマーケティングにおいて極めて大きな可能性を秘めているという見解は、実務家のみならず学術的な立場からも支持されつつあります。ハーバード・ビジネス・スクールのOguz A. Acar氏は、その実用性を「カスタマイズ(Customization)」「創造性(Creativity)」「接続性(Connectivity)」「認知コスト(Cost of Cognition)」の4つの観点から整理し、マーケターが生成AIをどのように取り入れるべきかについて具体的な指針を示しています。
まず第一に、カスタマイズの観点では、生成AIがもたらす体験は従来の一斉配信型マーケティングとは本質的に異なります。生活者個人の趣味嗜好やライフステージに寄り添ったきめ細やかなコミュニケーションが可能になり、その実例としては、Carvana社による130万件を超えるパーソナライズ動画の生成や、SpotifyやMetaによるAI駆動型サービスの実装が挙げられます。
次に創造性について、Acar氏は、生成AIが単に人間の代替手段ではなく、創造的プロセスを拡張・加速するパートナーとして機能し得ることを強調します。実際、ChatGPTを活用することで新規アイデアの質と独創性が人間のそれを上回ったという複数の研究結果が存在し、ユニリーバやコカ・コーラといったグローバル企業は、広告やブランド表現の制作にAIを本格的に導入しています。
また接続性の観点では、生成AIはブランドと顧客との関係性を深化させるだけでなく、顧客同士の交流の触媒ともなり得ます。たとえば、Virgin Voyagesのキャンペーンでは、AIによって生成された招待状を生活者が自由にカスタマイズ・共有できる仕組みが高いエンゲージメントを生み出しました。これは、顧客がブランド体験の“共創者”となることを意味し、従来の受動的な広告とは異なる新たなコミュニケーションの地平を開いています。
さらに注目すべきは、生成AIが「認知的な負担の軽減」において果たす役割です。ボストン・コンサルティング・グループの調査によれば、AI支援によってビジネスタスクの実行速度が25%以上向上し、成果物の質が大幅に改善されたという結果が報告されています。
これは、マーケターが創造的で戦略的な業務により多くの時間を投下できるようになることを意味し、人材活用の質的転換を促すものです。 このように、生成AIは単なるテクノロジーではなく、マーケティングの構造そのものを再設計する要素として機能しつつあります。生活者に最適化された体験を提供し、創造性を加速し、顧客との関係性を再構築し、認知的リソースの配分を変える——こうした複合的な変革は、単発の技術導入では実現し得ないものです。
したがって、マーケターにはAI技術そのものの進化を継続的に把握し、自社のマーケティング戦略における位置づけを再考し続ける姿勢が求められています。生成AIは、単なる手段ではなく、競争優位を築くための新たな戦略基盤であるという認識が、今後ますます重要になっていくでしょう。
生成Alによる検索体験が、ユーザーの検索行動に質的変化を起こす。
Google Marketing Live 2025での発表は、生成AIの導入がユーザーの検索行動に質的な変化をもたらしていることを鮮明に示しました。これまでのように単語やキーワードを羅列する検索ではなく、ユーザーはより複雑で文脈を伴う問いかけを検索エンジンに行うようになっています。
この変化は、検索結果のあり方にも影響を及ぼしています。従来のようなリンクの羅列ではなく、「要約+推薦」という形式へとインターフェースが進化しつつあり、ユーザーが自身の関心に即した情報により正確に到達できるようになっているのです。
とりわけ注目すべきは、「AI Overview」と呼ばれる要約を経由してWebサイトを訪れるユーザーの傾向です。こうしたユーザーは、従来の検索経由ユーザーに比べて滞在時間が長い傾向にあると報告されています。
これは、生成AIが単なる情報提示にとどまらず、情報をフィルタリングする機能としても働いていることを示唆しています。結果として、ユーザーの情報探索行動には“質的な選別”が生じていると考えられます。
このような動向を踏まえると、「AIの登場によってWebへの遷移は減るのか増えるのか」といった単純な二元論ではもはや語れません。重要なのは、検索行動が階層化されてきているという点です。 具体的には、表層的な質問や簡単な情報ニーズに対しては検索結果ページ内で完結し、より深い理解や詳細な知識を求めるユーザーは、AIによる要約を経由して意図的にWebサイトへアクセスするという構造が形成されつつあります。
テクノロジーの変化が激しい中で、マーケターが注視すべきは「遷移量」ではなく「遷移の質」です。自社のWebサイトやコンテンツの設計においても、再考が求められるタイミングに来ていると言えるでしょう。 生成AIによって簡潔に伝えられる情報と、自社独自の分析や専門性の高い文脈を要する情報とを明確に区別し、後者においてはAIでは代替できない価値を打ち出すことが重要です。
こうした価値創出こそが、今後の検索経由トラフィックにおける競争優位性を左右する要素となります。 さらに、検索エンジン側が情報の「主体」としての役割を強めるなかで、情報の正確性や専門性が高いWebサイトが、より高く評価される傾向にあります。
Webサイト運営者は、ユーザーおよび検索エンジンの期待に応えるためにも、生成AIに代替されないオリジナルな価値を創出し続けることが求められます。
AI時代のマーケターの本質的な仕事とは?
考えたり、 細部にこだわったりといった創造的な部分は、人が行うべきだと考えるからです。この創造的な領域こそが人としてのアイデンティティであり、人の生産活動のオリジナリティ・進歩・進化につながると筆者は信じています。
GoogleのAI ModeやChatGPT Searchなど、検索AIの進化により、マーケターが市場動向や顧客の声を素早く、そして的確に捉えられるようになりました。これまで時間と労力をかけて行っていたトレンド調査や競合分析が、AIの力を借りることで、より立体的で深いインサイトとして手元に届く時代が到来しています。
OpenAIのChatGPTも、2024年10月から検索機能を統合し、「ウェブを検索する」機能を提供しています。この機能では、インターネット上の情報を参照しながら、ソースを明示した回答を提示します。2025年1月からは、より深く調査できる「Deepresearch」機能も加わり、簡易な検索と本格的なリサーチを状況に応じて使い分けることが可能になりました。
また、AI検索特化型スタートアップのPerplexityAIも注目されています。このサービスは、信頼性の高い情報源をAIが統合・要約し、なぜその情報が正しいのかまで説明してくれるのが特長です。従来の検索エンジンがユーザーに委ねていたファクトチェックの手間を軽減し、検索対象をインターネット全体や学術論文、SNSなどに絞り込める機能も備えています。
ただ、どれだけAIが進化しても、創造する力だけは人間の領域です。情報をまとめるのはAIでいい。けれど、そこに何を意味づけし、どんな切り口で届けるのか。それは私たち人間にしかできません。
創造とは、ただ新しいことを思いつくことではありません。問いを立て、違和感を受け入れ、そしてこれまで見落とされていた視点から顧客体験を高めていくこと。そこには人間にしか生み出せない感性と直感が必要であり、マーケターに求められる本質的な価値が宿っています。
いま私たちは、生成AIという極めて有能な相棒を手にしています。AIが戦略の骨子を立て、検索エージェントが最適な情報を即座に提供し、タスクは自動で処理される。かつて時間と労力をかけていた業務が、今や数分で完了するようになりました。こうした変化は、単なる業務効率化にとどまりません。
むしろ、人が本来向き合うべき領域——すなわち顧客の感情や、ブランドの世界観、そして心を動かす仕掛けに集中できる環境を整えてくれています。 AIがもたらすのは「最適解」であり、「平均点の回答」です。しかし、人の心を動かすのは、常に意外性や余白であり、数値化できない何かです。
だからこそ、AIにタスクを任せて生まれた時間とエネルギーは、人間にしかできない発想や表現に注ぎ込むべきだと考えます。顧客体験を一段階引き上げるような工夫、記憶に残るストーリー設計、共感を呼び起こすメッセージ——これらはすべて、人間の想像力にしか託せない領域です。
同時に、AI活用においては感情への配慮が欠かせません。著作権の問題、情報の信頼性、生成AIに対する不安など、技術そのものとは異なる感情的課題に真摯に向き合うことが、ブランドの信頼維持には不可欠です。
短期的な効率化を優先しすぎれば、かえって長期的なブランド価値を損なうリスクがあることも忘れてはなりません。 ですから、私たちが問うべきは「AIを使うかどうか」ではありません。「AIをどう使い、どこで人間の価値を最大化するか」です。
これからの時代、効率化できる部分は積極的にAIに任せて構いません。その分、私たちが取り組むべきは、まだ言語化されていないニーズを掘り起こし、顧客体験を一歩先へと導く創造的な仕事です。選ばれるブランドをつくるのは、データでも仕組みでもなく、人間の感性です。だからこそ、マーケターには、効率と創造のバランスを見極める力がこれまで以上に求められているのです。
私自身、INFRECTというマーケティングAIエージェントの取締役として活動するなかで、この数ヶ月で明らかな変化を実感しています。いまや、キーワードを入力するだけで、戦略立案から戦術設計、ランディングページの生成までが短時間で完了し、自分の時間をこれまで以上に価値ある活動に充てられるようになりました。
これは単なる業務効率化ではなく、マーケティングにおける時間の再配分——すなわち、人間にしかできない創造や共感の領域により多くのリソースを割ける構造への進化だと感じています。 今後のマーケティング組織には、AIを効果的に活用しながらも、人間ならではの創造性や倫理的判断、そして共感力を発揮できる体制づくりが不可欠になります。
技術の導入そのものがゴールではなく、組織文化の再構築、人材育成、プロセス設計を含めた包括的な変革が必要です。とくに注目すべきは、マーケターに求められるスキルの再定義です。
AIツールを理解し、自在に使いこなすハードスキルは今や前提条件となりつつありますが、それと同時に、ブランドの物語を紡ぐ力、顧客との関係性を育む共感力、そして違いを生み出す創造性など、人間にしか発揮できないソフトスキルの重要性が、これまで以上に高まっていくはずです。
情報が溢れ、スピードが価値を決めるこの時代に、本書『AI駆動マーケティング』は明確な方向性を示してくれます。AIをどうビジネスに活かせばいいのか、どこまで任せるべきなのか。マーケターにとっての実践的なヒントが詰まっており、まさに、読みながら行動したくなる一冊です。
生成AIの活用を検討している企業の経営層や部門責任者にとっても、導入時の視点やリスクとの付き合い方などの知見が得られる構成になっています。これからのキャリアを考えるビジネスパーソンにとっても、AIと共にどう価値を生み出すかを考えるきっかけになるでしょう。
コメント