男性中心企業の終焉 (浜田敬子)の書評

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男性中心企業の終焉
浜田敬子
文藝春秋

本書の要約

ジェンダーギャップの解消は、女性の社会進出や経済成長につながるだけでなく、男性のワークライフバランスの改善や、誰もが充実した人生を送ることにもつながります。日本が社会課題を解決し、ダイバーシティ&インクルージョンを推進するためには、ジェンダーギャップの解消が不可欠です。

ダイバーシティやジェンダー平等がイノベーションに重要な理由

失ったとしたら、むしろ日本ではダイバーシティやジェンダー平等を積極的に推進しなかったことによる、経済成長の機会ではないか。いや、それは失ったというより、その価値に気づかず自ら放棄したのだと思う。今や多様な人材が活躍する企業こそイノベーションが生まれ、成長に繫がっていることは多くの研究や実績などでも明らかになっている。 (浜田敬子)

現在では、多くの研究や実績が示すように、多様な人材が活躍する企業こそがイノベーションを生み出し、成長に繋がることが明らかになっています。他の先進国では、成熟した経済状況においても女性などのこれまで活用されていなかった人材を活かすことが、成長の原動力になっています。

日本が経済停滞状況に陥っているのは、成熟という要素もあるかもしれませんが、主要な要因はダイバーシティやジェンダー平等を十分に活用しなかったことにあると著者は指摘します。

他の国々が優秀な女性の人材を成長の推進力として捉えた一方で、日本はその可能性を見逃し、チャンスを失っていたのです。

ようやく、日本でも女性活躍推進法が平成28年に施行され、女性のキャリアアップを実現する動きが始まっています。日本が経済成長を再び実現するためには、多様性を推進し、ジェンダー平等を実現することが重要です。これにより、眠っていた人材の活用や創造力の発揮を促し、持続可能な成長の原動力となるはずです。

ローソンなどの一部の企業では、トップが自らリーダーシップを発揮し、この動きを加速しています。取締役も含め管理職の女性比率を高めることで、イノベーションを起こそうとしています。

コロナ・パンデミック以降のリモートワークの普及により、女性は子育てや介護をしながらでも、キャリアを継続することが可能になりました。リモートワークは、従来の「顔を合わせて働く」「長時間労働が良いこと」という前提条件を大きく変えました。時間や場所の制約がなくなったことで、女性もフルタイムで働き、成果を出せるようになりました。

また、Z世代を中心とした若い世代では、性別役割分業意識が薄れており、男性も家事や育児に積極的に関わろうとする傾向にあります。このような変化は、日本におけるジェンダーギャップの解消に大きく貢献しています。

スマホの登場でお客様の層が広がり、多様になった。(サービスや商品を)作る側に多様性がなければ、多様な人に使ってもらえない。これからはスタートアップも多様なニーズを受け止めて、テクノロジーで解決していくことが求められます。社内が日本人男性だけだと多様なニーズが受け止められないのです。(山田進太郎)

メルカリの創業者・山田進太郎D&I財団の代表理事 山田進太郎氏は男性ばかりでの組織ではイノベーションを起こせないと述べています。社会のあるべき姿から逆算した時にダイバーシティやジェンダー平等の視点が欠かせません。

スタートアップ企業は、依然として男性や日本人が中心です。この偏った人材構成は、多様な顧客のニーズを反映したサービスや製品の開発を妨げています。 これからのスタートアップ企業は、女性や外国人、高齢者など、多様な人材を積極的に採用する必要があります。

また、ダイバーシティ&インクルージョンの推進にも力を入れ、すべての社員が活躍できる環境を整える必要があります。 多様な人材が集まれば、多様なアイデアが生まれます。多様なアイデアが集まれば、より良いサービスや製品が生まれます。スタートアップ企業が成功するためには、ダイバーシティ&インクルージョンが欠かせません。

ジェンダーギャップの解消は、女性の社会進出や経済成長につながるだけでなく、男性のワークライフバランスの改善や、一人ひとりが充実した人生を送ることにもつながります。日本が社会課題を解決し、持続可能な社会を実現するためには、ジェンダーギャップの解消は不可欠です。

女性の力と変革的リーダーの存在がイノベーションには不可欠な理由

投資家サイドからの圧力も年々目立っている。機関投資家の中には、女性取締役の割合を投資の判断基準とするところも出てきており、日本企業の株主総会で女性取締役の少なさを問題視して議決権を行使する動きも出ている。

機関投資家は、企業の経営に大きな影響力を持つ存在です。機関投資家の中には、女性取締役の割合を投資の判断基準とするところも出てきています。これは、女性取締役の登用が企業のガバナンスや経営の透明性、持続可能性を高める効果があると期待されているためです。

日本企業の株主総会では、女性取締役の少なさを問題視して議決権を行使する動きも出ています。これは、機関投資家だけでなく、個人投資家からも女性取締役の登用を求める声が高まっていることを示しています。 

資産運用会社であるアライアンス・バーンスタイン社は、2021年より、取締役会に女性が1人もいない場合は経営トップの選任に反対することを決定しました。また、同じく世界有数の資産運用会社であるステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ社は、東証株価指数(TOPIX)500の構成企業で女性取締役がゼロの場合、社長ら上位3人の取締役選任に反対することを決定しています。

さらに、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント社は、2020年より女性取締役基準を導入し、2020年だけで約500社に反対票を投じました。 これらの機関投資家は、女性取締役の登用が企業のガバナンスや経営の透明性、持続可能性を高める効果があると期待しているため、このような行動に出ています。

また、女性取締役の登用は、企業の業績向上にもつながると期待されています。 近年、日本でも女性取締役の登用が進んでいますが、その割合は依然として低い水準にとどまっています。機関投資家のこのような動きは、日本企業にとって、女性取締役の登用をさらに加速させるきっかけになると期待されます。

日本のジェンダー格差が一向に改善しない要因は3つある、と2022年6月まで内閣府男女共同参画局長だった林伴子氏は指摘します。

①「男性が仕事、女性が家事育児」という性別による役割分業意識や性別に対する無意識の偏見など意識の問題
②選択的夫婦別姓が認められていないことや女性の就労調整を促すような配偶者控除など制度の問題
③長時間労働が常態化しているような労働慣行の問題。

「主な稼ぎ手は男性」モデルは専業主婦やパート主婦家庭に対する優遇政策となるだけでなく、性別役割分業の解消も阻んでいますし、何より女性たちの働く意欲、稼ぐ意欲を減退させています。また、選択的夫婦別姓制度がいまだに自民党内の一部の保守議員の根強い反対によって実現しないなど伝統的家族像を守ろうとする政治家の姿勢が女性のマインドを悪化させています。

女性が働きたい職場を作ることは、企業にとってもメリットがあるということを忘れてはいけません。 労働慣行の問題としては、長時間労働が常態化していることが挙げられます。長時間労働は、女性の健康を害するだけでなく、子育てや家事をする時間も奪ってしまうため、女性のキャリアアップを妨げる可能性があります。

これらの問題を解決するためには、リモートワークへの推進、時短への理解などの意識改革、女性のキャリアアップのための制度改革、労働慣行の改善などさまざまな施策が必要になります。女性が働きたいという職場を作らねば、やがて労働量不足に陥り、企業の成長は阻害されてしまいます。

テクノロジーの進歩が著しい現代では、10年前の成功モデルが通用しない時代になりました。このような時代では、過去のリーダーの成功体験がかえって変化を阻害する可能性があります。5年先の未来がどうなるかわからない時代には、特定のリーダーの価値観を押し付けることはリスクになることもあります。そのため、メンバーの内発的な動機を引き出す方が、変化に柔軟に対応できるのです。

これまで理想のリーダー像に必要だった要素は、「自立」「積極的」「実行力」でした。しかし、スイスのビジネススクールIMDのギンカ・トーゲル教授は、「変革型リーダーシップ」においてもっとも重要なことは「メンバーを尊重することだ」と述べています。また、教授は「男性よりも女性の方が、変革型リーダーシップの資質がある」と分析しています。

変革型リーダーシップとは、メンバーの能力を最大限に引き出し、組織を変革していくリーダーシップです。変革型リーダーシップを発揮するためには、メンバーの意見に耳を傾け、メンバーの能力を信頼することが大切です。また、メンバーの成長を支援し、メンバーがやりがいを持って仕事に取り組める環境を整えることも大切です。

女性は一般的に、男性よりも協調性や共感力、柔軟性が高い傾向にあります。また、女性は男性よりも細部にまで気を配り、相手の立場になって考えることができる傾向にあります。女性は、これらの能力を活かして、組織を変革していくリーダーとして活躍できる可能性があります。変革型リーダーシップを発揮できるリーダーは、組織の成長と発展に欠かせません。

日本は依然として、他の先進国に比べてジェンダーギャップが大きい国です。今後は、リモートワークの活用をさらに推進し、男性の育児休業取得を促進するなど、ジェンダーギャップの解消に向けて、さらにスピードを上げて変革を起こしていく必要があります。

ビジネスは常に変化しているため、企業は変化に対応できる必要があります。同質化は企業の変化への適応力を低下させ、企業の成長を妨げる可能性があります。多様な価値観や経験を持つ人々が集まると、企業は新しいアイデアやソリューションを生み出し、変化に対応することができます。そのためには、組織の多様性を尊重し、変革を促進できるリーダーが必要です。社会課題の解決には女性の力が欠かせなくなっています。


 

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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