リード・ホフマン&クリス・イェ のブリッツスケーリング 苦難を乗り越え、圧倒的な成果を出す武器を共有しようの書評


ブリッツスケーリング 苦難を乗り越え、圧倒的な成果を出す武器を共有しよう

著者: リード・ホフマン&クリス・イェ 
出版社:日経BP

本書の要約

急激に事業を拡張するブリッツスケーリングを実行できる経営者のみが、驚異的な成長を手に入れられます。ビジネスモデルのイノベーション、戦略のイノベーション、経営のイノベーションを行える経営者が、踊り場を迎えるたびにリスクをとることで競合を倒し、シェアを拡大していきます。

経営者にブリッツスケーリングが必要な理由

時には競争の強度は非人間的なレベルのように思えるかもしれない。しかし同時にネットワーク時代は、企業がこれまでの歴史上もっとも速く巨大な報酬を得られるようにする。ブリッツスケーリングとは、この成功に到達するための戦略と心構えだ。先の見通せない環境に対応するには、効率よりもスピードが優先される。急速に成長しながら企業を運営する戦略とテクニックのセットが、ブリッツスケーリングだ。言い換えれば、企業が競争相手を置き捨ててロケットのように飛翔できるようにする加速剤だ。(リード・ホフマン&クリス・イェ)

著者のリード・ホフマンはシリコンバレーの伝説的な投資家で、今までにペイパルやにエアビーアンドビー投資を行ってきました。リンクトインの共同創業者の彼の新著がこのブリッツスケーリング 苦難を乗り越え、圧倒的な成果を出す武器を共有しようです。本書はスタンフォード大学で、リンクトインの戦略を話した講義が元ネタになっています。

英語のblitzは電撃的なと訳せますが、scaling=拡張と組み合わさることで、急激に事業を拡張するという意味になります。スタートアップ企業は利益よりも、急激な拡張を目指すべきというのが著者の主張です。ブリッツスケーリングを実行すると、経営者はリスクと不安の増大に耐えねばなりません。もし、ブリッツスケーリングを実行しなければ、ライバルがブリッツスケーリングを行えば、自分が敗北する可能性が高まります。

著者は、なにがあろうと効率よりスピードを優先するという戦略を取るべきだと言います。ある分野でライバルより先に地位を築いていれば、フィードバックも先に得られます。この決定的な優位性を失わないためにも、急激に規模を拡大すべきです。

われわれは未来を外から押し付けられるものと考えるのではなく、自らつくり出すものと考えるべきだ。世界のディスラプトについて行けずに消えていくのか、急激なスケールアップによって市場のリーダーに踊り出て未来を形づくる存在になるのかは、ブリッツスケーリングができるかどうかにかかっている。

リード・ホフマンは多くの成功したベンチャー起業家をインタビューし、彼らの成功理由の共通点を見つけました。フェイスブック、ネットフリックス、ツイッターなどの創業者たちは、ハイリスク、非効率、無謀極まりない一か八かの賭けに勝ち、勝利を手に入れたのです。

桁違いのスピードで成長する企業はブリッツスケーリングを選択する!

ブリッツスケーリングとは、企業が信じられない速度でスケールアップするための一般的なフレームワークと特定の手法の両方を指す。読者の会社がライバルよりケタ違いに速いスピードで成長しており、自分でも状況に不安を覚えているなら、それはまさにブリッツスケーリングをしているからだ。

1990年代末の(そしてその後も続く)アマゾンの驚異的な成長はブリッツスケーリングの絶好の例だと著者は言います。1996年、株式上場前のアマゾンの書籍部門には151人の社員がおり、510万ドルの収入を得ていました。3年後の1999年に上場したアマゾン・ドットコムは社員数7600人に成長し、収入は16億4000万ドルとなっていたのです。わずか3年で、スタッフは50倍、収入は322倍となり、2017年にはアマゾンの社員は54万1900人、収入は1770億ドル近くまで上昇しました。

常識的なビジネス戦略では、まず情報を収集し、最も成功の可能性が高そうな手段を選択します。それは常識内のリスクでしかなく、失敗した場合にもその損害に耐えられる程度のリスクでしかありません。しかし、一見、慎重で堅実に見えるこの方法は、残念ながら新しいテクノロジーが登場して市場の構造を根底から変えてしまった場合には通用しないと著者は言います。一気にシェアを拡大するためには、リスクを恐れずに巨大な資金を投入し、大きな賭けに出る必要があるのです。

もし、賭けが望むような結果をもたらさなかったなら、失敗を100パーセント以上取り返すための努力をしなければなりません。アマゾン創業者のジェフ・ベゾスは、アグレッシブな将来投資のために財務成績では赤字を出したこともありますが、着実に巨額のキャッシュを積み上げてきました。アマゾンの2016年の営業キャッシュフローは160億ドルの黒字でした。ここでアマゾンは100億ドルを投資し、40億ドルを負債の返済にあてたのです。アマゾンの利益率は一見すると非常に低いですが、その裏には大胆な将来戦略があり、経営に失敗して利益が出なかったわけではないのです。ベゾスは資金と人材の両方を用意し、リスクをしっかりとカバーしていたのです。

ブリッツスケーリングは起業家の度胸とテクニックだけでできるものではない。ブリッツスケーリングには十分に計算されたリスクをカバーできる財務能力が資金と人材の双方で必須の要素となる。燃焼には燃料と酸素の双方が必要なのに似ている。ロケットを打ち上げるためには両方が必要なのだ。一方で、会社というインフラはロケットの本体のような役割を果たす。しかしスタートアップの組織がロケットと違うところは、空中を飛びながらつくり上げていかねばならない点だろう。起業家は組織のリーダーとして十分な燃料と酸素の補給に気を配ると同時に、ロケット本体を加速に合わせて調整、強化していかねばならない。 リスクを認識した上でブリッツスケーリングを採用すれば、他者とはケタ違いのスピードで成長できる。賭け金が十分に大きく、競争が十分に激した場合、ブリッツスケーリングは合理的であるだけでなく、最適の戦略となる。

資本市場と人材市場にメドがつけば(つまり適切な投資パートナーと社員を得られる見込みがあれば)、ブリッツスケーリングの準備ができたことになります。この時点で、達成目標は「ゼロをじっくり1にする」ことではなく、「ごく短期間で1を10億にする」ことに切り替わります。

企業はその成長のライフサイクルの中で異なったスケーリング戦略をとらねばなりません。典型的なスケーリングのシナリオでは、グーグル、フェイスブックなどの急成長企業はまず伝統的なスタートアップの成長戦略でスタート、プロダクト・マーケットフィットが確認できた時点でブリッツスケーリングにシフトしています。

2004年創業のフェイスブックの当初の収入の年間成長率は、2150パーセント、433パーセント、219パーセントで推移していました。創業時のゼロから2007年の1億5300万ドルへと売り上げは成長していましたが、これ以降、爆発的な成長は影を潜め、パーセンテージで2ケタ台の安定成長に移っていたのです。

フェイスブックは資金調達とモバイル化対応の両面で苦しい時期を迎えていました。マーク・ザッカーバーグはその時点で極めて重要な2つの正しい決断をし、自ら実行に当たりました。機能面ではデスクトップからモバイルへの徹底的なシフトを行い、ビジネス面では巨大広告企業への転身を選択しました。広告ビジネスでは、シェリル・サンドバーグを最高執行責任者にスカウトし、フェイスブックは踊り場を脱し、数百パーセントという成長を取り戻し、2010年までにフェイスブックの年間収入は20億ドルへと増加しました。

テンセントはインスタントメッセージのQQから出発して急成長しましたが、QQの飽和後、すぐにソーシャルネットワーク機能を追加したウィーチャット(微信)を2010年にスタートさせました。

ブリッツスケーリングではひとつのビジネスが成功したことに安住せずに、成長曲線を維持するための第二弾のブリッツスケーリングを行います。すでに地位を確立した既存の大企業もブリッツスケーリングの成功が続くなら、社内起業によって同様のビジネスをスタートさせ、ブリッツスケーリングを狙う必要が出てきます。

ブリッツスケーリングの3つの重要なテクニック

著者はブリッツスケーリングを成功させるための3つの重要な要素をあげています。
テクニツク① ビジネスモデルのイノベーション
テクニックの第1は、急速な成長を遂げる革新的なビジネスモデルを発見し、設計することです。スタートアップの経営者は、指数関数的に成長できる画期的なビジネスモデルを設計することから、はじめる必要があります。

新聞社や出版社は十分な情報をもっており、ビジネスをオンラインに移せるはずでしたが、ヤフーやグーグルが主役を奪います。グーグルは世界中の情報をインデックスできる検索エンジンを構築し、それまでのすべてのメディア企業を合わせた以上の価値をもたらすビジネスモデルを開発しました。残念ながらこれと対照的に、ビジネスモデルを革新せず、技術革新に依存していたスタートアップはほとんどが破綻してしまったのです。テクノロジーも重要ですが、画期的なビジネスモデルを作り上げることがもっとも重要な要素なのです。

テクニック②戦略のイノベーション
ブリッツスケーリングでが、猛烈なスピードも求められます。目標を達成するにはこれから何をするつもりなのか、そして同様に重要だが、何をしてはならないのかを明確にすることです。

ネットワーク効果などビジネスモデル自身に組み込まれた要因によって、ブリッツスケーリングは競争上の優位性をもたらす。同時にファーストスケーラーとして爆発の臨界量を獲得し、エコシステムの大半のシェアを獲得して、長期的なビジネス上の優位性も得られる。

ビジネスをアグレッシブに拡大して都市を次々に制圧していったウーバーの戦略によって、多くの都市のユーザーが「タクシーならウーバーを使う」という習慣を得るための時間は、ライバルよりはるかに短かったという事実を思い出しましょう。ウーバーならほかのどんなサービスより早くタクシーに乗れるとことが、彼らのセールスポイントでした。多くユーザーを呼び寄せられれば、多くのドライバーも惹きつけられます。この市場で動く資金量が増えれば、さらに事業規模が拡大します。するとさらに多くのユーザーがウーバーを使うようになるという前向きの循環が生まれます。

事業の初期で多額の投資をして、ウーバーは保守的なライバルよりも素早く規模を拡大し、ライドシェア市場を一気に押さえました。一見「ムダ」な支出を重ねたことが、ウーバーがその都市で支配的な地位を獲得するために役立ったのです。当然ですが、この戦略は、有利な条件で巨額の資金を調達する能力がなければ不可能でした。ウーバーもいつかは採算性を大幅に高め、黒字化への道筋を示せなければ、投資家の忍耐も続かなくなるはずです。この懸念が、ウーバーが自動運転テクノロジーに多額の投資をしている理由です。最大のコストであるドライバーへの支払いを一気にゼロにできれば、ウーバーは一気に黒字転換するはずです。

テクニック③経営のイノベーション
ブリッツスケーリングに必要な最後の要素は、経営のイノベーションです。ブリッツスケーリング特有の急激な成長は、組織にもそのメンバーにも極度の負荷をかけるため、経営そのものも革新しなければなりません。急速な成長により組織は一変します。経営者はビジョンを示し、良い人材を獲得できなければ、急成長に耐えられません。

ビジネスモデルのイノベーション、戦略のイノベーション、経営のイノベーションを行える経営者が、踊り場を迎えるたびにリスクをとることで、競合を置き去りにし、驚異的な成長を遂げられるようになるのです。

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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