田中道昭氏の経営戦略4.0図鑑の書評


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経営戦略4.0図鑑
著者・田中道昭
出版社:SB Creative

本書の要約

世界の最前線を走るトップ企業の経営戦略の中には、NEXT(次の一手)が隠されています。GAFAやBATH、日本のトップ企業15社(キープレーヤー)の戦略を解き明かすこと、未来が浮かび上がってきます。ネットフリックスはサブスクリプション、AI、ビッグデータの3つを活用することで、成長を続けています。

戦略4.0を読み解くための3つの視点

テクノロジーの進化で、私たちの日常生活やビジネスは激変し、未来の予測が難しくなっています。これから世界の動きがどうなるかを見極めたければ、世界の最前線に立つ企業の戦略の中に答えが隠されていると著者の田中道昭氏は指摘します。世界の最先端を走るGAFAなどのトップ企業の戦略の中には、NEXT(次の一手)が隠されています。日本企業が戦略の分野で完全に時代遅れになる中で、未来を考えるためには、巨大テクノロジー企業のNEXTを学ぶ必要があります。

戦略4.0はキープレーヤー。ビジネスモデル、テクノロジーの3つの視点で考えることで、物事の核心に迫れます。
■キープレーヤー 
GAFA、 BATH、 日本企業(ソフトバンクグループ、ソニー、トヨタ、楽天、ファーストリテイリング)、米国企業(マイクロソフト、ネットフリックス)
■最重要ビジネスモデル
プラットフォーム、エコシステム、経済圏、サブスクリプション化
■中核を担うテクノロジー
IoT、AI、クラウド、5G

田中氏はApp Storeのプラットフォームが秀逸だと言います。

アップルのプラットフォームの破壊力は、凄まじいものでした。携帯電話機の市場で新興メーカーだったアップルはiPhoneの大ヒットによって、参入後、わずか8年で、あっという間に世界市場の利益の9害似上を独占する巨人となりました。

これはジム・コリンズのビジョナリーカンパニーで紹介されている「弾み車の法則」通りで、弾み車を回すことで、巨大なプラットフォームが生まれました。多種多様な開発者が続々と参加→ユニークなアプリが次々に開発される→参加ユーザーの増加→アプリのダウンロードが増加することで、アップルの成長は一気に加速したのです。

成功したプラットフォームからエコシステムが生まれ、やがてその企業の経済圏が拡大していきます。アップルもアマゾンも楽天も巨大な経済圏を生み出しました。経済圏が発展するためには、ユーザーがその経済圏に入ることに価値を感じ、自発的、積極的に参加したいかと思うかが鍵になります。

今話題のサブスクリプションも単なる定額制サービスと捉えると顧客との関係は築けません。サブスクリプションで商品やサービスを継続して使ってもらうためには、ユーザーに徹底的に寄り添い、場合によってはサービスや商品自体を変えてしまうという考え方が求められます。ネットフリックスはDVDレンタルから動画配信サービスに移行することで、GAFAを追いかける存在に生まれ変わったのです。

なぜ、ネットフリックスが強いのか?

本書には15の巨人の戦略4.0が紹介されていますが、今日はネットフリックスを取り上げ、その強さを明らかにしたいと思います。ネットフリックスの戦略を読み解くキーワードは、サブスクリプション、AI、ビッグデータの3つになります。

ネットフリックスは営業利益が少ないことで有名です。2019年12月期の決算は、わずか26億ドルの営業利益しかありません。売上高営業利益率と総資産回転率を見ても、ネットフリックスはGAFAに劣っています。なぜ、ネットフリックスの営業利益は、他社に比べて少ないのでしょうか?

ネットフリックスは、コンテンツの制作とその取得に巨額の費用をかけています。ネットフリックスは巨額な収益をあげながら、資金の借り入れまでして、コンテンツ制作や取得に注力しています。ネットフリックスの成功から動画配信事業に参入する企業が増えています。アマゾン、ディズニー、アップルとの競争は熾烈を極め、特にディズニーは多くの作品をネットフリックスから引き上げるなど対抗策を打ち出しています。

ネットフリックスには他社にはないストロングポイントがあります。それがレコメンド機能です。リード・ヘイスティングスはDVDのレンタル事業を開始した頃から、レコメンド機能を提供し、AIに投資を行ってきました。実際、ネットフリックスの作品の8割以上がレコメンド機能を経由していると言われています。

ネットフリックスはビッグデータを活用して、作品作りを行っています。動画配信サービスが激化する中で、ネットフリックスの次の一手を田中氏は以下のように予測します。

動画配信サービスの競争は激化しています。そのため、「ネットフリックスがゲーム業界に新規参入するのではないか?」という見方が広がっています。しかし、ネットフリックスがソニーやマイクロソフト、テンセントなど、強豪がひしめき合っているゲーム業界をそうやすやすと攻略できるとは考えられません。近年、映画のような画像が楽しめる「シネマチックアドベンチャーゲーム」や、映画の中の主人公を操作している感覚が味わえる「シネマチックアクションゲーム」といったジャンルが、世界的に人気を呼んでいます。もし、ネットフリックスがゲーム業界に参入して、オリジナルコンテンツの制作で培ったノウハウを応用した”シネマチック”なゲームを制作できれば、健闘する可能性も十分あります。ゲームのプレーヤーが望むようなラストが演出できる「マルチエンディング」なども面白いかもしれません。

巨大な企業が同じ事業領域で戦うことが増えています。社会のデジタル化が進む中で、ネットフリックスも成長するためには、自社の領域を広げる必要があるのです。ビッグデータ分析とAIを組み合わせることで、ネットフリックスはユーザーの時間を盗むしかありません。そのためには魅力的なコンテンツを絶えず生み出さなければならないのです。

AIを活用したストーリーメイキングによって、動画だけでなくゲームに領域を広げることで、ネットフリックスの滞在時間を増やせます。ネットフリックスもユーザーやコンテンツ制作者と新たな経済圏を創造しています。そして、それはアメリカだけでなく、日本やアジアなど世界中で行われています。

田中氏のGAFAやBATHの戦略分析は優れたもので、今までも多くのヒントをもらえました。今回、本書を読むことで、著者の思考術をより深く学べました。キープレーヤーのビジョン・ミッション、ビジネスモデル、テクノロジーを分析することで、未来を予測できるようになります。戦略論やマーケティング論の入門書としてもおすすめです。日米中のトップ15社の最新事例から、多くのヒントをもらえるはずです。

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