倒産危機を回避したテスラの利益イノベーションとは?


収益多様化の戦略―既存事業を変えるマネタイズの新しいロジック

川上昌直
東洋経済新報社

本書の要約

長年赤字に苦しんできたテスラは利益イノベーションを起こすことで、自動車会社で世界一の時価総額を誇るようになりました。テスラは、顧客を明確に夕一ゲティングし、その顧客が最大限に価値を感じる電気自動車を提供し、価値創造を行うだけでなく、余った温暖化ガス排出枠を他社に販売することで、利益をあげられるようになったのです。

利益イノベーションで生まれ変わったテスラ

テスラ=ライバルから収益を得て、ものづくりを成立させる。川上昌直

テスラは価値獲得を駆使して利益を生み出しています。自動車業界は新参者が乗り込んでも、利益を出すことができるほど甘くはありません。生産台数が相当ない限り、赤字をもたらします。しかし、テスラは長年苦しんできた赤字を最小限に抑え、ついには黒字化に成功します。

テスラは利益イノベーションを起こすことで、自動車会社で世界一の時価総額を誇るようになりました。テスラは、顧客を明確に夕一ゲティングし、その顧客が最大限に価値を感じる電気自動車を提供し、価値創造を行ってきました。

2012年以降に販売した高級セダンのモデルSや高級SUVのモデルXは、独自の自動運転技術や加速性能を武器に、他の高級車とは一線を画す価値創造を行なってきました。顧客の支払意欲(WTP)が高まり、テスラのブランド価値を押し上げていったのです。

モデルSやモデルXという高級車から上がってきた利益を使い、モデル3を開発し、2017年より販売を開始しました。モデル3は発売当初5万ドルを切る価格で発表され、全米で大ヒットします。テスラは普及価格帯の自動車でも勝負するために、モデル3の生産拠点を一部中国に移転します。

世界中に提供できる体制をつくり、同時に大きなコスト削減を実現して、さらに価格を下げたのです。しかし、通常であれば価値創造が継続できるほど、財務状況は安定的なものではありませんでした。当初は納品すらままならず、イーロン・マスクは何度も倒産寸前まで追い込まれいました。

根気強さはとても重要だ。諦めることを強いられない限り、あなたは諦めるべきではない。(イーロン・マスク)

低価格のモデル3が本格的に世界に流通し始めた2018年も、営業利益レベルで3.9億ドルの赤字、続く2019年も同じく0.7億ドルの営業赤字でした。

実際、テスラはモデル3の生産を拡大した時期に、あと1カ月で倒産するところだったとイーロン・マスクはツイートしています。何度も追い込まれてきたテスラは、諦めないことで危機を乗り越えてきたのです。2020年にテスラはようやく20億ドルの営業利益、そして、初の8.6億ドルの税引後利益を達成し、最終黒字を実現しました。

テスラの利益イノベーションとは?

テスラの価値獲得は、実は自動車の販売だけで成り立っているわけではない。独特な価値獲得によって実現されてきたものだ。

車をつくって販売する価値創造だけでは、テスラは大赤字だったのです。テスラは、赤字を補填するための価値獲得のやり方を身につけていました。それが他自動車会社への温暖化ガス排出枠の販売です。

ガソリン車をつくる企業は環境を破壊するため、一定程度生産に制限がかけられ、この制限を超えて生産販売すれば、多大なペナルティが課せられます。創業以来、100%EV車を販売するテスラは、排ガス規制には引っかからないため、車を1台つくるたびに排ガス規制の余剰を生みます。これを競合他社に販売することで、テスラは利益を生み出せるようになったのです。

テスラの最終損益は、2018年で▲10.6億ドル、2019年に▲7.8億ドル、2020年に8.6億ドルになりました。テスラが販売した排出枠(自動車規制クレジット)は、2018年で4.2億ドル、2019年に5.9億ドル、2020年に15.8億ドルです。もし排出枠がなければ、テスラは大赤字に陥り、倒産していたかもしれません。

実際、2018年は▲14.8億ドル、2019年は▲13.7億ドルとり、最終黒字となった2020年も▲7.2億ドルの赤字になっていたはずです。

テスラは、独特の価値獲得を活用して、自動車製造という価値創造を成立させた。その際に、温暖化ガス排出枠取引を利用した価値獲得のあり方が、テスラの財務的な損失を最小限にとどめ、自動車メーカーとして成り立たせ、さらに利益を出すことに貢献した。とはいえ、他の自動車メーカー並みに生産体制をつくり込み、品質と利益を両立するには時間がかかるだろう。

テスラは利益イノベーションによって、自動車メーカーとして独り立ちできるようになったのです。今や排出枠なしで、自動車づくりの価値創造で利益を生む体質へとテスラは変貌し始めています。

テスラは、さらに新たな利益イノベーションを計画しています。2020年以降に発売されているテスラ車には、これまで以上に性能を高めたFSD(完全自動運転)という人工知能が搭載されており、ソフトウェアによる大幅な運転性能のアップデートが可能となったのです。

このFSD搭載車は自動運転技術の精度が高く、歩行者の認識や信号の読み取りなどについて、より細かなアップデートを施すことができるようになります。これにより、売り切りで販売完了していた自動運転のアップデートを、サブスクリプションで展開する可能性が高まっています。

自動車による価値創造だけでなく、ソフトウェアによる新たな利益源が現実味を帯びて、テスラはさらなる利益を獲得すると投資家が評価し、この発表後、テスラの時価総額はトヨタを抜き去り、自動車業界一になったのです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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