CEOエクセレンス 一流経営者の要件(キャロリン・デュワー, スコット・ケラー)の書評

person holding silver compass
CEOエクセレンス 一流経営者の要件
キャロリン・デュワー, スコット・ケラー他
早川書房

本書の要約

顧客体験を高め、社会的な意義がある会社をつくるために、ベストなCEOは大胆なマインドセットによって、勝負に勝つことの先まで見据えた、ゲームを再定義するビジョンを描いています。そのために彼らは早く、頻繁に大胆に動いているのです。彼らはM&A、事業投資、生産性改善、差別化、リソース配分などの施策をスピーディに行っていたのです。

組織を成長させるCEOエクセレンスとはなにか?

偉大なCEOたちが、小さくまとまらずに大胆なゲームをすることを可能たらしめているのは、他のCEOとは異なるマインドセットと行動様式にあります。特に私が言いたいのは、大した変化を生み出さないことには余計な時間を費やさずに自身の効果効率を最大限にすることに時間を使う、CEOにしかできないことに集中するということです。(キャロリン・デュワー, スコット・ケラー)

組織を成長させたければ、経営者は卓越したリーダーシップ=「CEOエクセレンス」を身につけるべきです。著者らはマッキンゼーでのこれまでの経験と分析に基づき、リーダーとして最高最大のパフォーマンスを発揮するための一流のマインドセット、行動様式とその要素を明らかにし、言語化してくれました。

著者らはさまざまな業界、地域、性別、人種、株式所有構造からなる200名の世界のベストCEOリストをつくりました。このメンバーが経営する企業群の時価総額は5兆ドルで、驚くべきことに日本のGDPとほぼ同じになったのです。
・サンディ・カトラー(イートン)
サティア・ナデラ(マイクロソフト)
・魚谷雅彦(資生堂)
・マリリン・ヒューソン(ロッキード・マーティン)
・ゲイル・ケリー(ウエストパック)
・アジェイ・バンガ(マスターカード)
・カスパー・ローステッド(アディダス)
リード・ヘイスティングス(ネットフリックス)
ユベル・ジョリー(ベストバイ)
・シャンタヌ・ヤラン(ADBE)など

優秀なビジネスリーダーたちには、以下の6つの責務(マインドセットと行動習慣)があることが明らかになったのです。

①方向を定める。
大胆に野心的な目標を掲げ、チームを牽引します。このブログでもMTP(野心的な大胆な目標)を何度も紹介していますが、大胆な目標を掲げることはとても重要です。リーダーはスピード感を持って行動し、大胆にリソースを再配分すべきです。優秀なCEOはリソースを正しく再配分しなければ、戦いに負けてしまうと考えています。

エコノミックプロフィットの創出において上位2割と下位2割を除いた中間層に含まれる企業のうち、およそ4割は10年間で一度も大胆な行動に出なかったことが明らかになっています。他の4割は、一度だけ大胆な取り組みを行いました。また、大胆な取り組みを2つ行えば中間層から上位層へ上昇する確率は倍になり、3つ以上なら確率は6倍になるというデータがあります。成長したければ、経営者はM&Aや事業投資など積極的で大胆な行動を起こすべきです。

②組織を整合させる。
優れたCEOは業績を重視するのと同じように人を重視します。企業の最重要事項を特定し、目的に応じて体制やリソース配分を変えていきます。CEOはスピードを重視し、目標を達成するための最適人材を選び、適材適所に配置します。

③リーダーを動かす。
チームを紐解き、最強なトップチームを構築します。チームワークを高め、スターチームを生み出します。

④取締役会を引き入れる
取締役会とは対峙するのではなく、彼らとの信頼関係を構築します。取締役会のメンバーをリスペクトし、目標を達成するために、取締役会の機能を最大限に活用します。

⑤ステークホルダーと連携する。
社会的責任を明確にするためにパーパスを明らかにします。ステークホルダーと連携するために、彼らとの関係や背景を一から考え、「なぜ」と問いかけるようにします。視座を高めることで社会的責任と会社の目的をシンクロできるようになります。

⑥自身のパフォーマンスを最大化する。
「なりたい自分」をリスト化し実現する方法を考え、アクションを起こします。他者への貢献を行い、謙虚であり続けます。さまざまな情報をもとに、自分にしかできないことを行うためにリーダーシップを発揮します。パフォーマンスを最大化することで、組織は類稀な結果を出せるのです。

「この仕事の大半は、あらゆる未解決の問題に対処することです」というカスパー・ローステッドの言葉を読むとCEOが6つの能力を身につけることが重要であることがよくわかります。世間的にはCEOにカリスマ性が求めていますが、これだけでは多様で複雑な課題を解決できなくなっています。

ベストなCEOは、あらゆる面で完璧であるわけではありません。いくつかの面では非常に優れていて、他の面ではたとえ模範的とまではいかなくても着実に仕事をこなしているのです。

優れたCEOは大胆な目標を掲げ、スピーディに動く!

ベストなCEOたちは、用心深さがつくりだしてしまうこのよくある悪循環を理解しているがゆえに、それとは異なる大胆なマインドセットで会社の方向を定めている。そうして、運は大胆な者に味方するという信念に基づいて、不確実さも受け入れる。

ベストなCEOは方向を定める以下の3要素を重視して、大胆さを持って仕事をしています。
・ビジョン
・戦略
・リソース配分

成功しているCEOはより高い目標を掲げ、チームを率いていたのです。CEOたちはただ野心的な目標を掲げたのみならず、成功の定義さえも変えていました。

マスターカードの前CEOのアジェイ・バンガは、『商取引の中心、マスターカード』というキャッチフレーズを目にした際、「商取引の大半は現金じゃないか?」と考えました。

バンガは消費者による取引に限ると、現金は85パーセント以上だというデータをもとに『現金を絶滅させる』というビジョンを掲げ、電子取引ではない85パーセントの中でのシェア獲得を目指しました。このビジョンを中核事業の成長、顧客基盤の拡大、新規事業の立ち上げのための戦略へと発展させたのです。

資生堂の魚谷雅彦氏は「日本の美の象徴となる商品をつくる」というビジョンにより、日本のヘリテージをもとにした商品でグローバル展開で成功します。

ゲームを再定義するビジョンを作成するために、経営者は以下の4つのことを心がけるべきです。
①共通部分を見つけて膨らませる。
「世間が必要としているもの、あなたが得意とするもの、あなたが情熱を注いでいるもの、あなたがお金を稼げる方法、という4つの円の共通部分を見つけること」だとベストバイのユベル・ジョリーは指摘します。彼は「テクノロジーを通じて生活を豊かにする」というビジョンを立て、社員とメーカー・販売パートナーともに店舗の価値を高め、顧客体験をアップさせたのです。

②金銭面よりも大事なものがあることを忘れない。(利益や収益より顧客体験を高める)

私たちの目標は最大の企業になることでも、最も裕福な企業になることでもなく、ランナーがより速く走れ、テニスやサッカーの選手がより優れたプレーができるというような、アスリートがより良い成果を出すために役立つ製品づくりに取り組むということでした。それが実現して、さらには一般ユーザーにもより良い商品やサービスを提供できれば、財務上の数字はついてくるはずです。私たちの唯一の使命は、人々がそれぞれの自己ベストを達成できるようお手伝いすることであり、それは世界をよりすばらしい場所にすることでもあります。(ヘルベルト・ハイナー)

アディダスの前CEOのヘルベルト・ハイナーは、どん底の時代でも金銭面を振りかざした指揮は執りませんでした。アスリートが最大限の能力を発揮できるよう彼らを支えることに全力を尽くしたのです。

③将来に目を向けるために過去を振り返ることを恐れない
ベストなCEOは会社の歴史を紐解いてもともとの成功の理由を調べ、次にその要点を膨らませて新たなチャンスを切り開く場合が多いのです。

実際には、リソース配分は種まき、育成、剪定、刈り取りという四つの基本的な行動からなるものだ。

・種まき・・・新たな事業分野に参入すること。買収の場合もあれば、自社で一から投資する場合もあります。
・育成・・・投資を通じて既存事業を築きあげることで、もともとの事業を強化するための買収も含まれます。
・剪定・・・年間のリソース配分の一部を他事業へ移すか事業の一部を売却するかして、既存の事業からリソースを取り上げることです。
・刈り取・・・自社の事業ポートフォリオにもはや適していない事業をまるごと売却するか、分社化することを意味します。

マイクロソフトのサティア・ナデラは、「人々がさらなるテクノロジーを創造できるようなテクノロジーを創造する」という同社創業の原点を再認識した上で、会社を再び成長軌道にのせました。彼は「この地球上のすべての人とすべての組織に力を与えて、より多くを達成できるようにする」とミッションを再定義し、社員に行動を促しました。そのためにリンクトインやギットハブのM&Aを行ったり、クラウドサービスやAIへの事業投資を積極的に行ったのです。

ナデラは大胆な施策をスピーディーに行い、パートナーシップという文化をマイクロソフトに築くことで、同社を時価総額1、2位を争う会社に返り咲かせたのです。(サティア・ナディラのパートナーシップの戦略はこちらから

ロイヤルDSMの前CEOのフェイケ・シーベスマは不安は互いに隠さずオープンに議論しつつ、チャンスは絶対に逃さず追求するという企業文化を構築することで、収益力を高めました。

 ④ビジョンを実現する取り組みに多くの社内リーダーを巻き込む
部下であるリーダーたちの熱意を高め、社員をパションある組織に変えていきます。シンガポールのDBSは2009年に最低の銀行と言う評価を受けていましたが、その年にCEOに就任したピユシュ・グプタは「アジアで最も選ばれる銀行になる」というビジョンを示し、社員を鼓舞しました。社員の誰もが無理だと考える中、このビジョンのためのアクションを続け、社員のマインドを変えていきます。

2013年にはアジア最高の銀行に選ばれることで、今度は部下たちがDBSを世界ナンバー1にするというビジョンを掲げたのです。その結果、2018年にはグローバルファイナンス誌、ユーロマネー誌、ザ・バンカー誌で世界最高の銀行に選ばれました。

DBSは金融サービスのあり方を見直すためにテクノロジー企業の精神を取り入れ、現在では「銀行を楽しくするテクノロジー企業になる」という新たなビジョンを示し、DBSの業務領域を広げ、進化を続けているのです。

M&Aや事業投資などの大胆な行動が重要な理由

ベストなCEOにとって重要なのは、成功の意味を見直し、判断に影響を与え、目指す方向へ進むために人々の熱意を高められるような、わかりやすくはっきりと描かれた「会社の北極星」を持つことなのだ。

顧客体験を高め、社会的な意義ある会社をつくるために、ベストなCEOは大胆なマインドセットによって、勝負に勝つことの先まで見据えた、ゲームを再定義するビジョンを描いています。そのために彼らは早く、頻繁に大胆に動いているのです。彼らはM&A、事業投資、生産性改善、差別化、リソース配分などの施策をスピーディに行っていたのです。

不確実性の高い状況で大胆な施策を行うことは、大きなリスクになります。既存事業を優先し、安全な場所に留まるほうが楽ですが、これでは長期的な成長は期待できません。未来が予見できない時代を生きるCEOにとっては、アクションを起こさないことのほうがリスクが高いのです。ベストなCEOたちは不確実な状況でも行動に出る勇気を示し、社員を牽引しています。

ダナハーの前CEO、GEの会長兼CEOのラリー・カルプはM&Aを行う際に以下の3つのことを検討したといいます。
1,対象市場とその企業を自分たちが気に入っているか?
2,自分たちがその企業に付加価値を与えられるのか?
3,M&A取引が数字面で折り合いがつくのか?

優れたCEOはさまざまな情報を取り入れ、未来を見据えています。グーグルのCEOのサンダー・ピチャイは、会社の使命と、現在捉えている基本的なトレンドについてまず検討すると言います。それらに基づいて、本当に実行したいテーマを5〜10個書き出し、社内のさまざまな階層の選抜メンバーと話し合いを重ね、テーマに磨きをかけていくと言います。

彼らはテクノロジーの動向、顧客の嗜好の変化、ベンチャースタートアップなどの競合、脅威となりうる兆候に対して敏感です。トレンドが世間一般の通念になる前に勝負に出ますし、テクノロジーへの投資やベンチャー投資にも積極的になれるのです。

優れたCEOは時期尚早、失敗するなど他者から批判を受けても、自らの決断を信じ、果敢に行動を続けます。あまりに大きなリスクがある場合には投資をせず、最悪なシナリオが現実になっても耐えられる場合にのみアクションを起こすのです。不完全な情報の中でリスクとリターンを見極め、決断することで、彼らはチャンスを掴んでいるのです。

上位1割に属する高パフォーマンスのCEOは平均的な業績の企業のCEOに比べて、はるかに多くの資本を、はるかに頻繁に再配分する可能性が高いことがわかっています。優秀なCEOは大胆なビジョンや戦略に基づき、リソース配分もスピーディかつ頻繁に行っているという特徴があるのです。

レゴのヨアン・ヴィー・クヌッドストープは、次のようにリソースの再配分の重要性を指摘します。

経営リソースを従来とはまったく違う形で再配分しなければ、勝てるチャンスは絶対にやってきません。それゆえ、私たちは製品ポートフォリオの半数から7割を毎年一新するようにしたのです。(ヨアン・ヴィー・クヌッドストープ)

GEのCEOのメアリー・バーラは就任するとすぐにリソースの再配分をゼロベースで行いました。過去のルールを捨て、GMが勝ってしかも投資に見合う利益を生み出せる絶好のチャンスがあるかどうかを軸に考え、グローバルの市場ごとに注意深く分析し、リソースの再配分を行い、収益の改善に成功します。

グループ内への投資、事業の売却、M&Aなどのリソースの再配分は、社内外の抵抗勢力が存在するため、CEO自らが介入しければなりません。その際、社外の人間になったつもりで、客観的かつ全体最適から考える必要があります。当然リソースの再配分は資本政策だけではなく、人材においてもアクションを起こす必要があります。優れたCEOは業績を重視するのと同じように人材も重視しているのです。


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