GROW THE PIE: パーパスと利益の二項対立を超えて、持続可能な経済を実現する
アレックス・エドマンズ
本書の要約
パーパスが明確な企業は、従業員が高度にモチベーションを持ち、顧客が強くブランドに囲い込まれ、さらには競合他社が簡単に模倣できない独自の価値を提供できる可能性があります。企業経営者、資産家、投資家、顧客、従業員、市民といった多様な人々が、パーパスと利益の両立を目指すことで、企業は圧倒的優位性を確保でき、莫大な売上と利益を上げられるようになるのです。
利益かパーパスか?両方が可能だと言う新しい視点
パイを拡大する企業の第一の目的は社会的価値の創出であり、利益は副産物と見なされる。意外にもこのアプローチは、利益を最終目標にした場合よりも多くの利益をもたらすことが一般的だ。その理由は、長期的に大きな見返りが得られる投資を数多く実行できるからだ。(アレックス・エドマンズ)
多くのビジネスリーダーと投資家は長い間、企業が追求すべき最終的な目標が何かという問いに頭を悩ませてきました。一般的には、企業は株主に対して利益を最大化する責任があるとされていますが、社会に対しても責任があるという意見が高まっています。 この問題に対する新しい解答が、金融学教授でTEDスピーカーのアレックス・エドマンズにより提案されています。
本書は、2020年のFinancial Timesの年間ベストブックにも選ばれており、パーパスと投資家の利益が両立することを理解できる内容になっています。
著者は利益と目的は相反するものではなく、長期的には目的を持つ企業がより成功すると論じています。しかし、そのためには企業が困難な選択やトレードオフに対処する必要があります。
エドマンズは投資家に対しても新しい視点を提供しています。パーパスを持つ企業をどう見極め、その企業とどう関与していくかが具体的に説明されています。このような企業との適切な関与によって、投資家は株主価値を最大化するだけでなく、社会全体にも良い影響を与えることが可能です。
“パイを分割するのではなく、パイを拡大する”という概念は、ビジネスにおいて革新的な考え方です。従来のビジネスモデルが利益を最終目標とするのに対し、この新しいアプローチでは社会的価値の創出が第一の目的であり、企業の社会的価値を高めることに焦点を当てることで、株主、従業員、顧客、供給者、環境、地域社会、納税者など、すべてのステークホルダーが何らかの形で利益を得られます。
そして驚くべきことに、このアプローチはしばしば、利益だけを追求するよりも多くの利益をもたらします。
パイコノミクスは、社会に価値を生み出すことを通してのみ利益を創出するビジネスアプローチである。
「パイコノミクス」が中核ビジネスに組み込まれている場合、その企業は利益を追求する過程で社会貢献も重視すると言えます。
パイコノミクスから得られる企業のメリットとは?
社会貢献を第一の使命とすることで、企業は以下のような多面的な利点を享受できるでしょう。
①社会的インパクト
・持続可能性: 環境に優しい製品やサービスを提供することで、持続可能な未来に貢献できるようになります。
・コミュニティへの投資: 地域社会に対する教育、健康、または経済的投資によって、コミュニティを強化できます。
・社会的公正: サプライチェーン内での公正な労働条件、生産方法、貿易実践によって、社会全体の公正性を高められます。
②経済的インパクト
・ブランド価値の向上: 社会的責任を果たすことで、企業のブランド価値と信頼性が向上。
・顧客ロイヤルティ: 社会的使命を共有する顧客は、そのような企業を長期的に支持する傾向があります
・長期的なビジネスモデル: 社会的な使命を持つことで、企業は持続可能な成長と長期的な成功を確立できます。
③内部のインパクト
従業員のモチベーション: 社会貢献を使命とする企業では、従業員がより熱心に働く傾向があると言います。
リーダーシップの資質: パーパスを明確にすることで、経営陣はより効果的な戦略とビジョンを策定できます。
④投資家へのインパクト
社会的使命に焦点を当てた企業は、その使命が達成されるにつれて長期的なリターンが期待できます。短期的な利益よりも持続可能な成長を目指す企業に投資することで、投資家も長期的なリターンを享受できるのです。
社会貢献によってブランド価値や企業イメージが向上すると、それが直接的または間接的に企業価値の向上につながり、結果、株価にも良い影響を与え、投資家にとっては有利になるのです。
「レスポンシブル・ビジネス」は、社会に価値を提供することによって利益を創出するビジネスモデルを指します。その結果、企業自体の利益はもちろん、ステークホルダーと投資家にも恩恵が及びます。
社会貢献は、企業が単に「良いことをする」ためのオプションではありません。それは企業の長期的成功にとって基盤となる要素です。企業と社会が一体となって価値を創出することが、持続可能な成功につながります。
企業の最終目的は、社会に価値を生み出すことであり、その副産物として利益が増えると考えられています。つまり、利益は企業の目的ではなく、むしろ目的を達成するための結果として現れるものなのです。
近年、企業の存在理由や役割についての議論が盛んに行われています。かつては、企業の主たる目的は利益を追求することであり、株主の利益最大化が経営の中心でした。
しかし、現代の社会では、企業が単に利益を追求するだけでなく、顧客や社会全体に対して価値を提供することが求められています。 顧客の創造という言葉がありますが、これは企業が顧客のニーズや要望に応えるだけでなく、新たな価値を創造し、社会に貢献することを意味しています。企業の本来の目的は、顧客に価値を提供することなのです。
パイコノミクスの重要な魅力のーつは、パイを大きくすることによって、メンバー全員の分け前が増える可能性があるという点だ。ただし、重要なのは「可能性がある」という言葉である。価値創出は大抵トレードオフを伴うため、パイが大きくなっても、あるメンバーの分け前が小さくなることはあり得る。
このアプローチには一つ大きな落とし穴があります。それは「可能性がある」という点です。確かに、パイが大きくなれば、すべてのステークホルダーの「分け前」も理論的には大きくなり得ます。
しかし、事実として、新しいビジネスモデルやテクノロジーが登場すると、一部のステークホルダーが不利益を被る可能性があります。例えば、自動化が進むと、一部の作業が効率化される一方で、人手が必要な作業は減り、その結果、一部の従業員が解雇される可能性が出てきます。
ただし、効率的な資源配分があれば、不利益を被ったステークホルダーへの補償が行えます。パイが全体的に大きくなれば、小さくなった分け前を持つ人たちに対して何らかの形で補償ができるはずです。例えば、テクノロジーの導入、オートメーションによって仕事を失った従業員に対して、再教育プログラムや退職金を提供することで、メンバー全員がメリットを得られます。
最も成功している企業とその経営陣は、単に利益追求だけに目を向けるのではなく、社会的なニーズを満たすための「パーパス」に焦点を当てています。このようなアプローチは、人々の生活や環境の改善にも繋がり、ビジネスが持つ真の価値を高めます。 このパーパスは、ただの壮大な言葉やミッションステートメント以上のものです。
企業はこのパーパスを日々のビジネスプロセスや意思決定に組み込むことで、それを実際の行動に変えていきます。このプロセスにおいて、投資家や従業員、顧客、そしてその他のステークホルダーと協力することが非常に重要です。 具体的には、パーパスが明確な企業は、商品開発、マーケティング戦略、従業員の福利厚生、環境への影響といった多くの側面において、その目的を反映させようとします。
その結果、企業はただ利益を追求するだけでなく、持続可能で社会的な価値をも生み出すことができるのです。 簡単に言えば、成功する企業は「利益を追求する」だけでなく、「良い目的でビジネスを行い、その過程で利益を得る」という考え方を持っています。これが、今日のビジネスにおける「パーパス」の重要性です。
結局のところパイコノミクスによって、企業と投資家、そして社会全体がウィン・ウィンの関係を築くことが可能です。企業の全メンバーが共通のパーパスのもとに団結し、長期的な視点で行動すれば、共有価値が生まれ、全ての関係者が恩恵を受けるのです。 このウィン・ウィン思考こそが、新しいビジネスパラダイムの中心です。
企業と社会が一体となることで、真の持続可能性と共有価値が生まれるのです。従って、ビジネスは、投資家かステークホルダーのどちらか一方にしか価値を提供できないという過去の二者択一の問題から解放されるのです。今日のビジネスにおいては、全ての関係者に貢献することが可能であり、それが真の成功への道になるのです。
パイコノミクスを実践するアップル!
投資家と社会が同時に恩恵を得ることは可能なのだ。つまりステークホルダーのための価値を生み出すことは、単なる立派な理想ではなく、優れたビジネスとして成り立つのである。
パイコノミクスは持続可能な方法で成長でき、多くのステークホルダーにより多くの価値を提供できる可能性があります。特に、環境、社会、ガバナンス(ESG)の側面が強調されている今日のビジネス環境において、パイコノミクスは非常に重要な概念と言えるでしょう。
もちろん、このような理想的なビジネスモデルを実現するためには、企業のリーダーシップが非常に重要です。ビジョンを明確にし、それを実現するための戦略と行動計画をしっかりと立て、ステークホルダーと効果的にコミュニケーションをとる能力が求められます。
パイコノミクスが提案するような持続可能なビジネスモデルは、単に企業が利益を追求する方法を変えるだけでなく、企業が社会に与える影響そのものを再定義する力があります。そのため、このビジネスアプローチは、今後ますます多くの企業や組織に採用される可能性が高いと言えるでしょう。
アップルの時価総額が世界で最も高い理由の一つは、アップルが最高品質の製品を提供し、顧客に貢献しているからです。 例えば、iPhoneのフェイスIDやカメラには、さまざまな最新のテクノロジーが搭載されています。
アップルがプライムセンス、リンクス・コンピューティング・イメージング、フェイスシフト、エモーシェント、リアルフェイスの買収に4億ドル以上を投資することで。顧客は最新のテクノロジーを活用した優れた機能を利用することができるようになりました。
また、アップルのアフターセールスサービスも評判が高く、顧客はアップルストアのジーニアスバーを無料で予約して問題を解決することができます。これにより、顧客は安心して製品を利用することができ、アップルの信頼性が高まっています。
さらに、アップルは従業員の育成にも力を入れています。彼らは職場レビューサイトのグラスドアで、アップルについて多くの魅力を報告しています。アップルの従業員は世界にポジティブなインパクトを与え、優れた同僚たちから学びや刺激を受けることができます。アップルは従業員の健康維持のために巨大なジムへの投資も行っています。
以上のような要素が組み合わさって、アップルは世界有数の企業となり、時価総額3兆ドル目前になっています。顧客への貢献、最高品質の製品、優れたアフターセールスサービス、従業員の育成など、アップルの成功の秘訣はサプライチェーンとの関係構築やそこへの投資にもあります。
アップルのビジネスモデルと成功の要因は多くの側面を持ち、その多面性が同社を単なる製品メーカーから、持続可能な価値を創造するエコシステムにまで高めています。 まず、アップルがサプライヤーに対して巨額の投資を行っていることは、製品品質とイノベーションの持続に不可欠です。このような長期的な関係性は、単にコストを削減するだけでは達成できない種類の品質と革新をもたらします。
また、アップルの環境に対する取り組みは、企業が持続可能な方法で価値を創造する例です。これは顧客だけでなく、より広いステークホルダーに対してもポジティブな影響を与えます。アップルは再生可能エネルギーの使用や廃棄物の削減など、環境に配慮した取り組みを積極的に行っています。
さらに、アップルの社会貢献活動もまたその成功に寄与しています。例えば、HIV感染者への支援のPRODUCT REDやグローバル・ボランティア・プログラムなど、アップルは地域社会とのエンゲージメントを重視しています。これは、企業が単に製品を販売するだけでなく、より広いコミュニティに対しても価値を提供することの重要性を示しています。
さらに、税金の支払いという点でも、アップルは社会に貢献しています。アップルは法律に基づき、適切な税金を支払い、社会的な責任を果たしています。これは、企業が社会的な責任を果たしながらも、商業的な成功を維持できるという好例です。 これらの要素が組み合わさり、アップルは単なる製品メーカー以上の存在となり、持続可能な価値を創造するエコシステムを築いています。
アップルのビジネスモデルと成功の要因は、サプライヤーとの関係性、環境責任、地域社会とのエンゲージメント、財務責任などの多面的なアプローチによって成り立っているのです。
パーパスがなぜ重要なのか?
パーパスは企業の存在理由──誰の役に立つのか、なぜ存在するのか、世界でどのような役割を果たすのか──を表す。「その企業がそこに存在することで、どのように世界がより良い場所になるのか」という問いに対する答えである。企業が社会貢献を通してパイを拡大するための特定の道筋を表現するのが、パーパスなのだ。
確かに、パーパス(存在目的)は企業が持つべき非常に重要な要素であり、この概念は近年ビジネス界でより広く認知されてきています。企業のパーパスが明確であれば、それはステークホルダー(従業員、顧客、投資家、地域社会など)に対する長期的な価値の創造につながります。
パーパスがはっきりしている企業は、その目標に対して一体感を持ち、文化や戦略が統一される傾向があります。 ・従業員のモチベーション
明確なパーパスがあると、従業員は仕事により深く関与し、一体感を感じます。これは生産性や創造性、職場の満足度にも寄与すると言われています。
・顧客とのつながり
企業が社会的な価値や目的を明確にしている場合、顧客はその企業の製品やサービスにより強く愛着を持ちやすくなります。 投資家: パーパスが明確で、それを元に良い業績を上げる企業は、投資家にとっても魅力的です。社会的なインパクトを重視する投資の形態であるESG(環境、社会、ガバナンス)投資も増えています。
・社会への貢献
パーパスを持つ企業は、単に製品やサービスを販売する以上の価値を社会に提供します。これが、企業が「社会に価値を生み出す」という目標と繋がる点です。 持続可能性と競争力: 明確なパーパスを持つことは、企業が持続可能な方法で成長し、競争力を維持する上でも非常に重要です。
パーパスは企業の人間的な面を発揮させるため、どのような契約よりも行動を促す力が強い。ステークホルダーは、契約で得られる報酬額を道具的に計算して行動するのではなく、企業のパーパスに貢献したいという内発的な情熱で行動する。
株主価値ではなく社会的価値を原動力にするパーパスが企業文化やステークホルダーとの関係に深い影響を与えます。
・内発的な動機づけ
明確なパーパスを持つ企業は、従業員やその他のステークホルダーに対して内発的な動機づけを提供します。内発的な動機づけは、報酬や罰に依存する外発的な動機づけよりも、一般にはるかに強力です。
・帰属意識とコミットメント
共通の目的や価値観は、帰属意識を高め、結果として組織全体のコミットメントレベルが高まります。これは生産性の向上、離職率の低下、顧客満足度の向上など、多くのポジティブな結果を生む可能性があります。
・ロングタームビュー
パーパスを中心に据えた企業は、短期的な利益よりも長期的なビジョンに重点を置く傾向があります。これは投資家にとっても魅力的であり、より持続可能なビジネスモデルにつながります。
・顧客の忠誠: 顧客は、単に製品やサービスに対してではなく、企業のパーパスや価値に対しても忠誠を感じる可能性があります。これは、特に競争が激しい市場で企業にとって重要な競争優位となり得ます。
・リスク管理
企業が社会的な価値と経済的な価値の両方を考慮すると、倫理的な失敗や社会的なバックラッシュのリスクも低減します。 契約や取引だけに焦点を当てたビジネスモデルは、長期的には多くの機会コストがあるかもしれません。
従業員が単なる「労働力」、顧客が単なる「収益源」、投資家が単なる「資金提供者」として見られるならば、その関係性は表面的で取るに足らないものになってしまいます。対照的に、パーパスに基づいたアプローチは、すべてのステークホルダーが企業の長期的な成功に貢献するための基盤を作ります。
これは、企業が持続可能で社会に貢献する方法であるだけでなく、最終的にはそれが企業自身の成功にもつながるという考え方です。パーパスと利益は相互に依存する関係にあり、一方が他方を高める可能性があるのです。
パーパスは、その企業が「誰」のために、「なぜ」存在するのかを定義する重要な要素です。
「誰」・・・重要度の原則の土台
「なぜ」・・・比較優位の原則を土台
パーパスは、企業幹部によって計画的に誘導されるだけでなく、従業員自身が緊急性を持って形成することも重要です。また、外部のステークホルダー、特に顧客からのインプットもパーパスにとって価値があります。 パーパスは、単なるミッションステートメントではありません。企業は、パーパスを具体的に体現することが求められます。
パーパスを単に定義するだけでなく、外部に発信し、内部に定着させることも重要です。 パーパスの定義や明確化は、企業の方向性を示すために非常に重要です。パーパスが明確に定義されることで、企業は自身の存在意義を明確にし、社会的な価値を提供することができます。
また、パーパスを持つ企業は、従業員や顧客との結びつきを深めることができ、組織全体の目標に向かって一丸となって取り組むことができます。 さらに、パーパスを持つことは、企業の競争力を高める効果もあります。顧客は、企業のパーパスに共感し、その価値観に共鳴する企業との関係を築きたいと考えることがあります。
また、従業員も、企業のパーパスに共感し、自身の仕事にやりがいや意味を見出すことができます。 パーパスを持つことは、企業にとって大きなメリットがあることが分かります。企業は、自身のパーパスを明確にし、それを実践することで、社会的な影響力や競争力を高めることができるのです。
スタートアップ企業が成功すると、大企業はそれを模倣するための部署を立ち上げる。しかし成功を支えるパーパスが欠けているために、競争に絡むことなく終わってしまうことも多い。パーパスに基づいて企業を立ち上げると、常識はずれだが最終的に利益につながる意思決定が促され、競合企業には模倣できない長期的な競争優位がもたらされる。
スタートアップと大企業のダイナミクスにおいて、パーパスは間違いなく重要な要素になっています。スタートアップが成功する主な理由の一つは、独自のビジョンやパーパスに基づいて柔軟かつ迅速に行動できる点にあります。これは特に、既存の市場に対する独自のアプローチや、新しい市場を創出する場合に顕著です。
パーパスが明確な企業は、従業員が高度にモチベーションを持ち、顧客が強くブランドに囲い込まれ、さらには競合他社が簡単に模倣できない独自の価値を提供できる可能性があります。大企業がスタートアップの成功を模倣しようとする場合、その企業の成功の核となるパーパスを理解し、内部化することが不可欠です。そうしなければ、単なる模倣は表面的なもので終わり、長期的な成功は望めないのです。
パーパスがない事業は成功できないと考え、自社らしいパーパスを定義することが重要です。企業経営者、資産家、投資家、顧客、従業員、地域社会の住民といった多様な人々が、パーパスと利益の両立を目指すことで、企業は圧倒的優位性を確保でき、莫大な売上と利益を上げられるようになるのです。
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