物語戦略
岩井琢磨,牧口松二,内田和成(監修)
日経BP
本書の要約
企業が持つ強みを象徴する物語(シンボリック・ストーリー)を活用することで、企業は顧客、従業員、パートナーからの共感を得ることができます。 シンボリック・ストーリーは、企業の存在感を際立たせるために重要な役割を果たしています。競争を抜け出す会社は、この物語を持ち、うまく活用しています。
シンボリック・ストーリーが組織を強くする理由
創業者の情熱に裏付けられた「Why(なぜ)」が、その企業の製品と結び着くときに大きな効力を発揮するということです。(岩井琢磨,牧口松二)
ブランディングにおいて物語やストリーテリングは非常に重要になってきています。顧客は企業やプロダクトの物語を知ることで共感を覚え、ファンになることがあります。そのため、競争優位性を発揮するためには、「シンボリック・ストーリー(企業が持つ強みを象徴する物語)」を生み出すことが欠かせなくなっています。
シンボリック・ストーリーにはいくつかのタイプがあります。まず、創業者や伝説的技術者、著名な顧客など「人的資源」に関する物語があります。企業の歴史や創業時のパーパスを伝えることで、顧客から信頼されるようになります。
また、商品や技術、サービスなど「物的資源」に関する物語もあります。これらの物語は、顧客に製品やサービスの特徴や利点を伝える役割を果たします。
さらに、業務プロセスやオペレーションなど「組織資源」に関する物語もあります。これらの物語は、企業の効率性や品質管理などを強調するために重要です。
このようなシンボリック・ストーリーを活用することで、企業は自社の強みを象徴する物語を顧客に伝えることができます。顧客はその物語に共感し、企業に対する信頼感を深めることができます。そして、その結果として、競争優位性を発揮し、顧客の選択に決定的なインパクトを与えられるようになります。
人的資源の物語は、Why(なぜ)からスタートします。「Why」とは、「創業者がなぜそれをしたのか?」という想い、信念、大義を意味します。
Why:なぜこの事業をしているかの理由。大義や信念、理想。
How:そのために行っている独自の方法。
What:結果として生まれる製品やサービス。
創業者の強い「信念」に共感したとき、顧客は強く納得します。それが永続的なファンをつくる鍵となるのです。創業者の理念は、この「Why(なぜ)」が凝縮された物語である場合が多いのです。 創業者の強い信念は、顧客に強い印象を与えることがあります。顧客は、創業者がなぜその商品やサービスを提供しているのか、なぜその理念を持っているのかに共感し、納得します。
人的資源タイプのシンボリック・ストーリーは、認知不協和を解消する役割を果たしていると考えられます。世界を変えようとした創業者やノーベル賞の科学者からの信頼(浜松ホトニクス)、オバマ大統領のパターのリクエスト(山田パター工房)など、共感できる理念や選択した顧客の物語を見つけることで、認知的不協和は緩和され、購買者は安心感を得ることができます。
顧客が購買後の認知不協和を起こしやすい商品においては、「説明できる」「理由になる」「言い訳になる」という効果をもたらす材料の提供は、戦略的にもきわめて重要なポイントです。顧客は、購買後に自身の選択に対して疑問や不安を感じることがあります。
その際、創業者の信念や物語が提供されることで、顧客は自身の選択を説明し、理由付けすることができます。これにより、顧客の認知不協和が解消され、安心感を得ることができるのです。
ホームセンター・ハンズマンの「片方だけの軍手」という商品は、物的資源のシンボリック・ストーリーを持っており、その評判は「あの店に行けば必ずある」というものです。この商品のシンボリック・ストーリーは、効率化の逆を行くビジネスモデルを駆動させています。その結果、商圏が広がり、リピーターやファンが増え、売上や利益が増加するのです。
顧客体験で有名な「ノードストームのタイヤ物語」は、組織資源のタイプの物語です。この物語では、ノードストームの従業員が実際には店舗で販売していない顧客の車のタイヤの返品・返金を行うことで、顧客の満足度を高めることに成功しています。
また、トヨタの「なぜを5回繰り返す」という物語も、組織資源のタイプの物語です。この物語では、トヨタの従業員が問題解決の際になぜを5回繰り返すことで、より深い理解を得ることを重視しています。
企業の永続性にとって、社会を変えていくような革新的な製品や驚くような技術などの物的資源タイプのシンボリック・ストーリーは、その「モノ」がシンボルになることによって、他の製品にもポジティブな見方が波及していく「ハロー効果」をもたらします。このようなシンボリック・ストーリーを上手に活用することで、企業に対する認識を他社とはまったく異なるものに変えてしまう大きな効果があります。
一方、継続的にカイゼンを促進していく組織風土やオペレーションなどの組織資源タイプのシンボリック・ストーリーは、社内において「ミッション効果」を発揮します。組織のクセとしてミッションが定着し、行動原理になった時、このミッションは顧客からの信頼だけでなく、そこで働こうと応募する人たちにも確実に伝播されて普及していきます。そして、このミッション効果が現場のオペレーションを永続的に深化させていくことにつながっていきます。
ベンチャーのシンボリック・ストーリー活用法とは?
物語戦略を一言でいえば、「シンボリック・ストーリーを経営資源としてとらえ、ビジネスモデルに組み込んで競争優位を獲得する戦い方」です。これから、さらなる個人のメディア化、コミュニケーション手段の多様化が進むでしょう。だからこそ、基点となる「企業が持つ強み」を明確にし、それを物語として発信し共有していくことが重要になっていきます。またそれを活用した戦い方も、進化していくでしょう。
物語戦略は、企業が顧客価値、競争優位性、ビジネスモデルの3つの要素をすべて充足する必要があります。顧客価値とは、顧客が商品やサービスを通じて得ることができる満足感や利益のことです。
競争優位性とは、他社との差別化や競合優位を持つことで、市場での優位性を確立することです。ビジネスモデルは、企業がどのように収益を上げるかを示す枠組みです。 物語戦略を考える際には、まず企業のパーパスや存在意義を明確にすることが重要です。自社がなぜ存在するのか、どのような価値を提供したいのかを明確にすることで、ストーリーの方向性が見えてきます。
次に、製品やサービスの独自性を考えましょう。他社との差別化ポイントや特徴を把握し、それをストーリーに盛り込むことで、顧客に興味を引きつけることができます。
さらに、ビジネスモデルの視点から物語を考えることも重要です。どのように収益を上げるのか、どのように事業を成長させるのかをストーリーに反映させることで、ビジネスモデルの理解を深めることができます。
自社らしいストーリーを紡ぐためには、これらの要素をバランス良く組み合わせることが求められます。顧客にとって魅力的なストーリーを作り上げることで、顧客の心を掴み、競争優位性を確立することができます。持続的な顧客との関係を築くためには、物語マーケティングの手法を活用し、顧客価値、競争優位性、ビジネスモデルの3つの要素を全て充足した物語を伝えていくことが必要です。
シンボリック・ストーリーを活用することで、ベンチャーや中小企業も競争優位性を発揮できます。
■人的資源の物語
特に新興企業やスタートアップにとって、創業者のビジョンや専門家チームの存在は不可欠です。人的資源に関する物語は、未知のブランドに対する信頼を高めるための強力な手段となります。たとえば、創業者が社会問題を解決するためにビジネスを始めたというストーリーは、企業が目指す方向性や価値観を顧客に明確に伝え、共感を呼び起こします。
■物的資源の物語
製品やサービスが類似するものが多い現代において、物的資源のストーリーは製品の独自性を強調する貴重な手段です。例えば、サステナビリティが注目される昨今、再生可能エネルギーを用いて製造された製品や、環境に優しい素材から作られたアイテムの背景にある物語は、顧客にその製品を選ぶ理由を与えます。
■組織資源の物語
信頼性と効率性の両立 組織資源に関するストーリーは、企業文化や業務プロセス、品質管理に対する独自のアプローチを強調する絶好の機会です。例えば、顧客のフィードバックを直接製品改善に活かすという“開かれた”企業文化や、厳密な品質チェックを通過した製品だけが市場に出る、といった話は、企業が持つ信頼性と効率性を同時に訴求することができます。
■感情とのコネクション
シンボリック・ストーリーが最も強力なのは、それが顧客と感情的なレベルでつながることができる点です。顧客は単に製品を購入するだけでなく、その製品を提供する企業と何らかの「関係」を持ちたいと考えています。このような感情的なコネクションが、最終的には競争優位性をもたらし、顧客の選択に決定的な影響を与えます。
ベンチャー企業は特に、競争力を持ちながらも、新たな市場や顧客を開拓する必要があります。そのためには、目標やビジョンを明確にし、それを魅力的なストーリーとして伝えることが重要です。 ベンチャー経営者は、自社の目標やビジョンを象徴的なストーリーにして語ることで、顧客だけでなく、従業員やパートナーとの関係を良好にすることができます。これにより、企業は飛躍的に成長できるようになります。
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