Master of Change 変わりつづける人――最新研究が実証する最強の生存戦略(ブラッド・スタルバーグ)の書評

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Master of Change 変わりつづける人――最新研究が実証する最強の生存戦略
ブラッド・スタルバーグ
ダイヤモンド社

Master of Change 変わりつづける人(ブラッド・スタルバーグ)の要約

変化を受け入れ、それを乗り越える中で私たちは、ただ生き延びるだけでなく、自分らしく輝く人生を切り拓くことができるのです。変化が激しい現代社会では、ぶれない柔軟性を持ち、多様なアイデンティティを受け入れ、積極的に行動することで、自分らしく生きる力が身につきます。

変化に適応するためのぶれない柔軟性とは?

世の中を見渡すと、10年に一度は劇的な変化が起きるものだ。たとえば戦争、新しいテクノロジーの登場(インターネットや、最近では人工知能など)、社会不安や政情不安、不況、環境危機など、あらゆるものが急激に変化している。(ブラッド・スタルバーグ)

変化は、私たちの人生において避けることのできないものです。それは時に穏やかに、時に嵐のように訪れます。パンデミックや経済危機といった社会的変化から、個人的な病気やキャリアの転換、家族構成の変化まで、私たちは絶え間なく変容の波にさらされています。

調査によると私たちは人生の中で平均36回の変化を体験すると言います。それにもかかわらず、私たちはしばしば変化を恐れ、回避しようとするか、過去の安定にしがみつこうとする傾向があります。

健康、ウェルビーイング、ピークパフォーマンスの維持に関する研究者、作家のブラッド・スタルバーグは、この変化への向き合い方を根底から再定義します。彼は、変化を敵視するのではなく、それと対話し、新たな秩序を築き上げる力を育む道を提示しています。

この本は、科学的知見、古代の叡智、そして実践的な習慣を交えながら、読者に「ぶれない柔軟性」という考え方を伝えています。

変化を今までとはまったく異なる視点で捉えて対応する方法──わたしはこれを〝ぶれない柔軟性〟と名づけた──を習得すれば、苦痛、いらだち、不安を最小限に抑えられるし、多幸感や持続的な充実感を味わいやすくなるだろう。

ぶれない柔軟性を習得することで、変化の中でも安定した心を保ち、より持続的で深い充実感を得ることができるといいます。さらに、個人のパフォーマンスを長期間にわたり高い水準で維持するための基盤ともなるのです。

変化に対して柔軟に対応するスキルを身につけることは、単にストレスや不安を軽減するだけではありません。情熱を注ぐ活動や仕事において、より良い成果を上げ続ける力となり、それが自己の成長と満足感をもたらします。

そしてもう一つ、スタルバーグが強調するのは、このプロセスを通じて「やさしくて賢い人間」になれるという点です。これは、今日の世界が切実に求める特質であり、変化と向き合う中で自然と培われていくものです。

私たちが変化に抗おうとすると、結果として自分自身を追い詰めてしまうことが少なくありません。健康な心と体を持っていても、過度な抵抗はやがて疲労感や無気力感を招き、燃え尽きてしまう危険性があります。変化そのものが問題なのではなく、変化をどのように捉え、対応するかが重要なのです。

心理学や神経科学、哲学といった多様な分野の研究は、変化そのものが中立的なものであることを示しています。それが良いか悪いかを決定づけるのは、私たち自身の解釈と行動なのです。変化に対する視点を変えるだけで、同じ出来事がまったく異なる結果をもたらすことがあります。

特に現代の社会では、人生を直線的で安定したものと考える傾向が強いといわれます。しかし、古代の叡智──仏教、ストア哲学、老荘思想など──は、人生の本質が循環的であることを見抜いていました。変化は避けられないものであり、むしろそれが宇宙の基本的な真実であると彼らは捉えていたのです。

この考え方に基づけば、変化を抑え込もうとすることや、現状を永久に維持しようとすることは、根本的に誤ったアプローチであるといえます。それどころか、こうした行動は最終的に苦痛を招く原因になり得るのです。

人生の浮き沈みは止めることができません。それゆえ、私たちはその波を乗りこなすスキルを身につける必要があります。変化を恐れるのではなく、それとともに進む柔軟性を持つことが重要です。そして、ぶれない柔軟性を育む過程で得られるのは、変化の中でも一貫性を保つ強さと、自分らしさを失わずに成長していくためのしなやかさです。

人生で大きな試練に直面したとき、極端な楽天主義や絶望感に陥るのは避けるべきです。どちらも現実に適応する上で役立ちません。本当に困難を乗り越えるためには、冷静に現実を受け入れ、賢明な希望と行動に集中することが大切です。

賢明な希望とは、「これが現実だ」と受け止め、自分にコントロールできる部分に意識を向ける姿勢です。そして賢明な行動とは、完璧を目指すのではなく、できることを少しずつ実践し、前進することです。現実を受け入れつつ、小さな一歩を踏み出すことで、困難な状況も次第に打開できるようになります。

大切なのは、希望を持ちながら具体的な行動を続けることで、試練の中でも成長し、より強くしなやかな自分を築いていくことです。現実を直視しつつ行動することで、やがて乗り越えられる道が見えてくるのです。

時を止めることも、すべてをコントロールすることもできない現実の中で、私たちが選べる道はただ一つです。それは、変化を受け入れ、そこに安定の種を見出すこと。このプロセスを通じて、私たちはより豊かで、満たされた人生を手に入れることができるのです。

ぶれない柔軟性を身につけるとは、混乱や変化が起きた際に「元の状態に戻る」という幻想を捨て、新たに再構築された秩序を受け入れることです。この柔軟性を持つ人は、変化を単なる不幸な出来事ではなく、人生に必然的に起こるサイクルの一部として捉えます。その中で核となるアイデンティティを保ちながら、順応し、進化し、成長するのです。

忘れないでほしい、人生は変化だということを。変化を恐れることは、いろいろな意味で人生を恐れることだ。そして慢性的な恐怖は、自分自身にとっても、文化にとっても害になる。

人生とは変化そのものです。この事実を忘れてはいけません。変化は避けられないものであり、私たちが生きる上で常に伴う存在です。しかし、変化を恐れることは、人生そのものを恐れることと同じです。

そして、変化への慢性的な恐怖は、私たち個人にとっても、社会全体にとっても大きな害をもたらします。恐れは人々の思考を狭め、柔軟さや創造性を奪い、さらには他者への不信や対立を引き起こします。

それでも、変化を恐れず、不確実性やはかなさに向き合うスキルを身につける人が増えれば、状況は確実に改善されます。変化を自然なものとして受け入れ、それに冷静に対応できる人が多くなることで、社会には大きな変化がもたらされるでしょう。

詐欺師や扇動政治家、権威主義的な指導者が人々の恐怖を利用して力を得る状況も減り、社会全体がより健全で安定した方向に進むことが期待できます。恐れに支配されるのではなく、変化に対する理解と適応力が広がれば、私たちの社会はもっと希望に満ちたものになるのです。

私たちが持つべき視点のひとつは、変化と「死」という避けられない終わりを結びつけて考えることです。私たち全員が死という運命を抱えて生きています。この現実を直視し、受け入れることは、変化への恐れを克服する第一歩です。死が避けられない事実であるように、変化もまた不可避の現象です。だからこそ、変化を恐れるのではなく、それを人生の自然な一部として受け止めることが重要なのです。

変化を受け入れる力を持つことは、恐れに支配されない自由な生き方を可能にします。そして、そのような姿勢が個人の間で広まれば、社会にも大きな影響を与えます。思いやりや信頼が育まれ、人々が互いに助け合い、希望を持って生きる環境が作られます。

変化に適応するためのアロスタシスとは?

ホメオスタシスが「秩序→無秩序→秩序」というパターンを特徴とするのに対して、アロスタシスは「秩序→無秩序→再秩序」を特徴とする。

変化は混沌をもたらすだけの存在ではなく、私たちが成長し進化するための必要不可欠なプロセスなのだと、スタルバーグは力強く主張します。 この考え方を支える中心的な概念として、スタルバーグはアロスタシスという言葉を取り上げています。

アロスタシスは、私たちが従来からなじみのあるホメオスタシス(恒常性)とは異なる視点を提供するものです。ホメオスタシスが単純に秩序を保とうとするプロセスを指すのに対し、アロスタシスは秩序から無秩序、そして再び新たな秩序へと移行する、より動的で柔軟なプロセスを意味します。このプロセスは、変化を避けられない現実として受け止め、それを乗り越える道筋を示しています。

特に印象深いのは、スタルバーグが変化への対応を4つのタイプに分類し、それぞれの特徴と限界を明確にした点です。「変化を避ける」という行動は、目の前の現実から逃げる試みであり、短期的には安心感をもたらすかもしれませんが、長期的には成長の機会を失うことに繋がります。

「抵抗する」態度は、変化に立ち向かおうとする強さを示す一方で、無駄なエネルギーを消耗しやすく、結果的に疲弊を招きます。

「主体性を手放す」選択は、自らの力で環境を変えようとする意欲を欠いた状態であり、無力感や停滞感をもたらします。

そして、「元の状態に戻ろうとする」試みは、一見安定を目指しているように見えますが、変化の本質を無視することで、現状維持に執着し、さらなる混乱を招く可能性を孕んでいます。

スタルバーグはこれらのアプローチを否定するのではなく、それぞれの限界を指摘しながら、真に有益な方法として「変化を対話相手とする」アプローチを提案します。彼によれば、変化と対話するとは、変化を敵対視するのではなく、それを機会と捉え、進化のためのパートナーとして受け入れることを意味します。このアプローチを採用することで、変化の中に隠された新しい可能性を見いだし、より豊かな人生を築くことが可能になります。

スタルバーグが示すホメオスタシスとアロスタシスの対比も興味深いものです。ホメオスタシスは「秩序→無秩序→秩序」というサイクルで動き、無秩序を一時的な異常として扱い、できる限り迅速に元の状態へ戻ろうとします。

一方で、アロスタシスは「秩序→無秩序→再秩序」という、より進化的なサイクルを辿ります。この再秩序の段階では、新しい安定性が構築され、それまでには存在しなかった新たな成長や可能性が生まれるのです。

「秩序→無秩序→再秩序」のサイクルが、成功している人たちの共通のパターンになっています。

幸せで健康で高いパフォーマンスを維持している個人や組織は、このパターンを経験する。自分自身を何度も再構築することで、強くて耐久性のあるアイデンティティを維持しているのだ。 彼らは勇気を出して現在の状況をあきらめて、無秩序な状態に陥り、そしてその先にあるさらなる安定性とアイデンティティにたどり着く。こうした人たちはみな、アイデンティティを安定したものであると同時に変化していくものだと考えている。

成功する人や組織は、自分自身を再構築する勇気を持っています。彼らは、今の安定した状態に執着せず、それを手放すことを恐れません。一時的に混乱し、不安定で予測できない状況に身を置くことをあえて受け入れることで、より大きな秩序や新しい安定性を手に入れるのです。

この混乱の段階は試練のように感じられることもありますが、その先に待つ新しい秩序は、以前よりも深い安定感と可能性をもたらします。

こうした人々の特徴は、アイデンティティに対する柔軟な考え方です。彼らは、自分のアイデンティティを固定されたものではなく、常に変化し、進化していくものとして捉えています。変化を通じてアイデンティティが鍛えられ、新しい側面が加わり、より強化されていくと考えるのです。

様々なアイデンティティを持つことで、失敗が気にならなくなり、人生もうまくいくようになります。私も社外取締役、アドバイザー、著者、ブロガー、投資家という多様なアイデンティティを持つことで、変化を楽しめるようになりました。自分を固定的なものではなく、流動的なものと捉えるのです。

この柔軟性と適応力が、困難を乗り越え、さらに強くしなやかに成長する力を生み出します。 変化を単なる困難や障害と見るのではなく、成長と進化のためのステップとして捉えることに、この考え方の魅力があります。秩序を手放す恐怖や、無秩序の中に飛び込む不安を受け入れることで、新しい秩序を築くことが可能になるのです。

私たちには、混沌の中でも希望を見つけ、新しい可能性を見出す力が備わっています。その力を信じることで、変化を成長のきっかけに変えることができます。 このプロセスは、ただ試練に耐える受け身の姿勢ではありません。むしろ積極的に変化を受け入れ、自分の力で新しい秩序を築き上げる能動的な姿勢です。

この取り組みによって、困難の中でも希望を持ち、自分の可能性をさらに広げていくことができるのです。 その結果として待っているのは、よりしなやかで強く、自己と調和した人生です。スタルバーグが提案するこの考え方は、変化に対する私たちの見方を大きく変えるものです。混乱の中でも希望を抱き、変化を成長の糧にしていくことが、この視点の核心です。

変化への適応は個人だけでなく、企業も強くします。多くの新聞メディアがデジタル化に慎重だった中、ニューヨーク・タイムズはテクノロジーの進化を受け入れ、適応することで新たな読者層を獲得しました。さらに、広告収入に依存しない体質を確立し、変化を成長の原動力とした成功例を示しました。

スタルバーグが重視する「非二元的思考」も注目すべきポイントです。多くの人は、物事を「良い・悪い」のように単純な二分法で判断しがちですが、スタルバーグはその限界を指摘します。曖昧さや複雑さを受け入れる柔軟な思考こそが、変化に適応し、それを乗り越えるための鍵なのです。

この考え方は、変化の多面的な本質を理解し、そこから新しい道を切り開く助けとなります。 変化を受け入れ、その中で自分を成長させる力を養うことが、長期的な成功と幸福を実現する鍵です。変化の波を恐れるのではなく、それを自らの成長の一部として捉え、行動に移す。この姿勢が、私たちをより豊かで充実した人生へと導いてくれるのです。

ぶれない柔軟性を身につけるための10の方策

所有志向は静的で、変化を拒む。存在志向は変動的で、変化を受け入れる。絶え間なく変化する現実を考慮すれば、後者が有利だとすぐにわかるだろう。

私たちの人生における思考のスタンスを、所有志向と存在志向という二つの枠組みで捉えることができます。この区別は、変化への向き合い方や、人生において何を重視するかを理解する上で非常に重要です。

所有志向とは、自分が持つ物や地位、安定した状況などを守り、それを失うことを恐れる考え方を指します。一方で、存在志向は、物や状況に固執せず、変化する現実を受け入れながら柔軟に生きる姿勢を意味します。

所有志向の根底には、「変わらないこと」への強い願望があります。このスタンスでは、手に入れたものを維持し、それを脅かす要素を避けることに意識が向けられます。一見すると安全で安定したアプローチのように思えますが、現実は絶え間なく変化しています。そのため、所有志向は、変化への抵抗や現状への執着によって、しばしば恐れやストレスを生む結果を招きます。

一方で、存在志向は変動的で、変化を受け入れる柔軟な姿勢を持っています。この考え方では、物や地位にしがみつくのではなく、今この瞬間を生きることや、自分自身の成長に重きを置きます。変化する現実を受け入れること、自分との対話を重ねることで、新たな可能性や成長の機会を見出すことができるのです。

存在志向の人々は、変化を拒んだり抵抗するのではなく、それを自分が成長し、新たなことを学ぶためのプロセスとして捉えます。変化を前向きに受け入れ、柔軟に対応することで、物や状況に縛られることがなくなり、より自由に生きられるようになるのです。

この二つのスタンスを比べたとき、絶え間なく変化する現実を考慮すれば、存在志向の方が明らかに有利です。変化を自然なものとして受け入れ、それに応じて柔軟に対応するため、持続的な幸福感や充実感を得やすくなります。

さらに、存在志向の考え方は、単に個人の幸福に留まらず、周囲との関係や社会全体にも良い影響を与えます。変化を受け入れる姿勢は、他者への思いやりや共感を育み、人々が互いに支え合い、成長し合う環境を作ります。それは、自分だけが幸せになるのではなく、全体としての幸福感を高める力を持っています。 私たちが生きる世界は、予測できない変化に満ちています。

だからこそ、所有志向から存在志向へのシフトが求められるのです。物や地位にしがみつくのではなく、自分自身の内側にある成長の可能性を見つめ、変化を受け入れることが、真の幸福と安定をもたらします。この転換は、人生の質を大きく向上させるとともに、変化を恐れず、むしろそれを成長のための力に変える生き方を可能にするのです。

わたしたちは変化を経ると強くなって成長することや、行動によって変化を切り抜けられることがわかっている。そしてそのような能力を開発したり、実践したりできる。

わたしたちは変化を経ることで成長し、より強くなる可能性を秘めています。そして、それを可能にする能力は誰もが開発し、実践できるものです。

この前提を基に、ブラッド・スタルバーグは理論だけでなく、変化を乗り越え、そこから力を引き出すための具体的な方法を示しています。彼の提案する以下の10の方策は、日常生活に取り入れられる実践的な内容であり、それぞれが変化に対応する力を強化するための手助けとなります。

1,非二元論思考を身につける
2,存在思考いく
3,現実に合わせて期待を頻繁にアップデートする
4,悲痛な状況下で楽観主義を実践し、賢明な願望と賢明な行動を心がける
5,自己認識を積極的に多様化させて、統合する
6,独立的なレンズと相互依存的なレンズで世界を見る
7,4段階プロセス(間を置く、状況を整理する、計画を立てる、再び前進)を使って変化に対応する
8,混乱期には平穏を維持するためにルーティンやろう
9,行動活性化を利用する
10,  無理やり意味や成長を求める必要はない。やってくるまで待とう。

これらの方策は変化がもたらす試練の中で、自己を見失わず、むしろ新たな自分を形作るための重要な基盤となるものです。

変化が激しい現代社会では、ぶれない柔軟性を持ち、多様なアイデンティティを受け入れ、積極的に行動することで、自分らしく生きる力が身につきます。

最強Appleフレームワーク


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