不況を乗り切るマーケティング図鑑――成功企業16社でわかるサバイバル・マニュアル
著者：酒井光雄
出版社：プレジデント社
本書の要約
Pelotonはフィットネス用のエアロバイクの販売と、サブスクリプションモデルでオンラインレッスンを提供しています。場所や時間にとらわれずに運動できることが、彼らの強みになっています。Pelotonは自前主義にこだわり、顧客を喜ばすことで、ウイズ・コロナ時代の勝ち組になったのです。
Pelotonはなぜ強いのか？
Pelotonは、ジョン・フォーリーによって家庭用のフィットネス機器の販売とサブスクリプション(定額課金モデル)によるアスレチックトレーニングを提供する企業として、2012年にアメリカ(本社ニューヨーク)に誕生しました。同社のサービスはマーク・ザッカーバーグやデイビッド・ベッカムなども利用しているようです。 同社のビジネスはエアロバイク(自転車型のフィットネス器具)を売って終わるのではなく、製品を販売した後、ネットによる接続サービスを、サブスクリプションで提供するビジネスモデル（SaaS Plus a Boxソフトウエア・アズ・ア・サービス・プラス・ボックス)です。（酒井光雄）
コロナウイルス大きなインパクトを与えた業種の一つがフィットネス事業であることは間違いありません。感染が拡大する中、世界中のジムが閉鎖され、あのゴールドジムすら破綻してしまいました。そんな状況下でもPelotonは成長を続け、同社の株価は着実に上昇しています。Pelotonは2012年に創業した新しい会社ですが、時価総額は250億ドルを超えています。
Pelotonはフィットネス用のエアロバイクの販売と、サブスクリプションモデルでオンラインレッスンを提供しています。場所や時間にとらわれずに運動できることが、彼らの強みになっています。外出禁止の中で多くのアメリカ人から支持され、4月以降も業績を伸ばしています。
今回のコロナ禍で、Pelotonのエアロバイクは2245ドル（約23万円)から、1895ドル(約19万円)に値下げされました。2018年に発売されたウォーキングやランニングができるトレッドマシーンの価格は当初4295ドル(約45万円)でしたが、こちらも新たに2495ドル(約26万円)のモデルが登場するなど、顧客を意識した経営が行われています。圧倒的な顧客体験が同社へのエンゲージメントを高め、サブスクモデルの成功企業になっています。多くの会員はエアロバイクをローンで購入し、アプリの会員利用料を月額39ドル支払っています。
アプリを使った動画配信プログラムは、エアロバイク・ランニング・ヨガ・アウトドア・筋肉トレーニングの5種類があり、自分に最適なレベルが設定でき、インストラクターが指導してくれます。同時に多くの会員が参加できるので、参加者は互いにその成果を競いあい、運動を続けられるようにしています。
2019年10月現在、29人のトレーナーが各種のトレーニング講座を受け持ち、インスタグラムでフォロワー数が数万人を超えるトレーナーも在籍しています。 エアロバイクだけで1日に20ほどのクラスがあり、自分のライフスタイルに合ったクラスが選択できます。時間の都合がつかない時は、1万以上のトレーニング動画からオン・デマンドで選択してトレーニングを行うことも可能です。
自前主義がPelotonの強み
Pelotonは使用するタブレットを自社で手掛け、顧客側のソフトウェアやクラウド側のソフトウェアも全て内製しています。またリアルのアスレチックジムは自前で運営し、ストリーム配信に加えオンデマンドのクラス、そしてエアロバイクの配送業務まで自社で行っています。
Pelotonは「SaaS Plus a Box」という、製品+サブスクリプションモデルに加え、そこで必要になる「タブレット」「ソフトウェア」「ジムウェアなどのアパレル」「水分補給用のボトルなどの小物」「直営店舗」そして「製品配送」まで自社で運用し、供給しています。最近では、音楽配信会社のNeurotic Mediaを買収し、BGMまで自社で提供しています。エクササイズ中にアップテンポの音楽でテンションを上げることにも注力し、顧客体験を高めています。
Pelotonは初期費用が高額にもかかわらず、会員の解約率は月に0.3%と非常に低いことが特徴になっています。サブスクリプションモデルでは、チャーン率が低いことが成功の秘訣です。Peloton所属のインストラクター達はファッショナブル、かつスポーティで理想の体型を保持しています。インストラクターがインフルエンサーとなり、メンバーのモチベーションを高め、チャーンを防いでいます。
アメリカのテレビ局のCNBCは、2020年1月1日から3 月31日までの四半期の利益は、昨年の同時期に比べ66%アップしたと報道しました。2020年4月には2万3000人が一度に参加する同社史上最大のオンライン・レッスンが開催されました。
オンデマンドフィットネスでサブスクリプションモデルを行っているPelotonは、コロナ禍でつながりが希薄になった人たちをつなげることにも成功します。ユーザー同士が共につながり、健康な体を目指すコミュニティを作ることで、顧客体験を高めています。Pelotonは自前主義にこだわり、顧客を喜ばすことで、ウイズ・コロナ時代の勝ち組になったのです。
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