テクノソーシャリズムの世紀 格差、AI、気候変動がもたらす新世界の秩序(ブレット・キング/リチャード・ペテイ)の書評

テクノソーシャリズムの世紀 格差、AI、気候変動がもたらす新世界の秩序
ブレット・キング/リチャード・ペテイ
東洋経済新報社

本書の要約

政治とテクノロジーの双方は、コミュニティ全体の集合的、基本的ニーズを満たすために協働すべきです。経済全体に悪影響を与えない枠組みの中で、テクノロジーを活用し、長期的な経済成長をとらえ直し、全ての市民に最大限の経済参加を保証するテクノソーシャリズムの世の中を実現することで、未来を明るくできるのです。

テクノソーシャリズムとは何か?

テクノソーシャリズムは全く新しいものではないが、それは人々によって人々のために推進される価値体系であり、テクノロジーの驚異的な進歩によって力を付与され、現状への挑戦を続けることで強化されるものだ。政治とテクノロジーの双方は、コミュニティ全体の集合的、基本的ニーズを満たすために協働する必要があり、それが不確実性と変動性に対するより大きな社会の結束と改良された取り組みを強調する。(ブレット・キング/リチャード・ペテイ)

未来学者のブレット・キングと起業家のリチャード・ペテイ「テクノソーシャリズム」と言う世界観を私たちに提示します。私たち現代人は、さまざまな領域で課題を抱えています。資本主義や政治が混乱がきたすなか、多くの人たちは、未来を明るいとは感じていません。

テクノロジーの恩恵によって、私たちの生活は豊かになりました。今回のコロナウイルスとの戦いも創薬テクノロジーのおかげで、ワクチン開発が早まり、感染者数も激減しています。しかし、今回のコロナパンデミックによって、貧しい人や中間層は、収入が減り、生活が苦しくなっています。

1%の「富裕層」エリートたちと残りの99%の人々との乖離は、米国や英国のような豊かな民主主義国家で最大のものとなり、分断が進んでいます。

2019年に発表されたエデルマン・トラストバロメーターレポート13 では、世界の47%の人々が、テクノロジーのイノベーションの起こり方が速すぎることが、「自分のような人たち」が不利な影響を受ける変化につながると考えています。

59%の人々が、自分の雇用可能性を改善するのに必要な訓練やスキルがないと考えておいて、55%が自動化やその他のイノベーションがすでに仕事を奪い始めていると考えてます。AIのようなテクノロジーが進化することで、貧困層や中間層の人々は自分の仕事が奪われると考えているのです。

不公平性を高める諸要因は、テクノロジーに起因する失業への懸念の高まりと、気候変動がもたらす影響の積み重ねによって強められ、それらへのグローバルな抵抗運動は融合して集団行動となり、混沌から抜け出すことを目指すだろう。

テクノロジーによって富を得た一部の起業家や投資家に富が集中し、中間層が減少し、人々の不満が高まっています。世界的な格差の拡大により、最近では資本主義の行き詰まりが指摘されるようになっています。

不公平性を高め、人々が未来に不安を感じる主な要因は、テクノロジーに起因する失業への懸念の高まりと、気候変動がもたらす多大なトラブルになります。

しかし、未来の可能性は多様です。テクノロジーを忌避するのではなく、それを活用することで、気候変動の緩和や飢餓問題の解決、富の適切な分配も可能になるのです。

テクノロジーを積極的に活用し、富の分配を行う世界「テクノソーシャリズム」の実現を目指すべきだと言うのが著者たちの主張になります。

テクノソーシャリズムの世界においては、経済全体に悪影響を与えない枠組みの中で、長期的な経済成長をとらえ直し、全ての市民に最大限の経済参加を保証します。

ディストピアを選ぶか?テクノソーシャリズムを選ぶか?

著者たちは以下の4つの未来を予測します。
①新封建主義
抑制不能な資本主義で、公平性拡大のニーズを否定し、広範な経済成長は実現せず、雇用と消費は減退します。富裕なエリート層と貧困層との長期的な分断は融点に達し、革命運動と抗議運動が繰り返し起こって中間層は消失していきます。超富裕層は閉鎖された居留地に住み、長寿テクノロジー、AI、物質的豊かさを手に入れますが、外側では、大量の失業、飢餓、疾病が標準的な状況となります。

②ラッダイト世界  
人工知能のようなテクノロジーの進歩は拒絶されることで、課題解決のスピードが遅くなります。気候変動対応が緩慢で不適切なことから世界経済が停滞する一方、危機が繰り返し襲うことで人口増加は停滞します。温暖化のため、海面が上昇し、主要な沿岸都市は居住不能となります。農業にも悪影響を与え、食料 不足と飢餓が爆発的に発生します。

③失敗世界
気候変動のために何億人もの世界的人口移動が発生し、国境は崩壊し、資源を巡って戦争が頻発します。
 
④テクノソーシャリズム  
社会は高度に自動化され、ほとんどの人間労働は代替されます。テクノロジーの進歩によって、住宅、医療、教育および基礎的サービスはユビキタスかつ低コストで利用可能になります。資本主義は再構築され、長期的なサステナビリティ、公平性、人類全体としての進歩して行きます。気候変動緩和への取り組みによって何世紀にもわたる世界的な経済的協調が実現します。
 
未来をディストピア社会にするのか?あるいは理想のテクノソーシャリズムを実現するのか?の瀬戸際に私たちはいます。気候温暖化を止めるためには、もはや先延ばしをすることは許されません。

私たち全員の問題は、国レベルでの気候変動政策のようなものでは解決しない。気候変動は地球上のあらゆる人に何らかの形で影響するものだ。私たちに必要となるのは、協調のとれた世界的な行動であり、それによって人類を気候変動の最悪の局面から守ることだ。

人工知能とテクノロジーの信じられないほどの進化が続くことで、人類の未来が左右されます。テクノソーシャリズムを選択することで、人類は引き続き繁栄します。

私たちは地球と協調し、そしてお互いに協調して生活することを選択すべきです。AIを受け入れ、富の分配をすることで、中間層の貧困化を防げます。また、人間の寿命を飛躍的に延バスことも可能になります。一部の富裕層を優遇するのではなく、AIやテクノロジーを活用しながら問題点を解決し、失業する労働者に教育の機会を与えたり、ベーシックインカムによって富の分配を行うことが未来を明るくすると著者たちは指摘します。

理想論に聞こえるかもしれませんが、欧米や中国、日本などの国家間が協働し、テクノロジーを活用し、地球温暖化を防がなければ、世界中の人々が不幸になる未来が訪れてしまうのです。


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