Digital-Oriented革命 DXが進化した究極の姿を描く(安部慶喜, 柳剛洋他)の書評

Digital-Oriented革命 DXが進化した究極の姿を描く
安部慶喜 B&DX株式会社 代表取締役社長
柳剛洋 B&DX株式会社 取締役
日経BP

本書の要約

デジタルを中心に据えるDigital-Orientedの世界では、業務プロセスが根底から変わるだけでなく、業務プロセスと密接に絡み合うシステムや組織のあり方も一変します。デジタルワーカーが業務遂行の大半を担うことで、人が創造力を最大限に発揮できるようにすることで、企業は新たな価値を創造できるようになります。

Digital-Orientedの世界を実現するために必要なこと

人ではなく「デジタルが中心になって」業務が推進されていく。DXを推進しきった先にはそんな未来があると強く予感している。そのような思想に立てば、業務も組織もシステムも、そして人が果たすべき役割も一変する。それが「Digital-Oriented」というコンセプトだ。(安部慶喜)

デジタルトランスフォーメーション(DX)がバズワードになっており、多くの企業がDXに取り組み始めています。しかし、どこも期待したほどの成果を出せていないのが現状です。

原因は、企業の制度・ルールなどにメスを入れられず、過去の延長線上でDXを推進しようとしていることにあります。組織のしがらみを断ち切れなかったために、単なる業務システムの改善で終わってしまっているのです。このハードルを乗り越え、真のトランスフォーメーションを実現し、企業の生産性を高めるためには、大胆な発想の転換が必要になります

業務を遂行し統制を利かせるのはあくまでも人であり、デジタル技術はその補助を担う「人中心」だと多くの経営者は考えていますが、このマインドセットを「デジタル中心」の考え方に転換すべきだというのが著者の主張です。

これまで人が覚えていた組織の責任や権限、制度、ルール、業務プロセス、システム操作の全てをデジタルワーカーにインプットします。それにより、あらゆる情報はデジタルワーカーにひも付き、「デジタルが中心となって」業務を回すという考え方や構造がDigital-Orientedです

デジタルを中心に据えるDigital-Orientedの世界では、業務プロセスが根底から変わるだけでなく、業務プロセスと密接に絡み合うシステムや組織のあり方も一変します。デジタルワーカーが業務遂行の大半を担うことで、人が創造力を最大限に発揮できるようにすることで、企業は新たな価値を創造できるようになります。

デジタルワーカーは、組み込まれた責任と権限、ルールや制度に従い、「〇〇部長の承認が必要です」と指示したり、業務プロセスにのっとり「基本情報を教えてください」と手順を示してくれます。人から承認や情報を引き出しながら、デジタルワーカーが業務を推進していきます。

デジタルワーカーは人とシステムの間に介在し、次に行うべきことを教える「ガイダンス」とプロセスやルールを順守させる「ガバナンス」という2つの役割を主体的に果たしてくれます。  

Digital-Orientedの世界では、こうした併存する複数のシステムを操作するのはデジタルワーカーになるため、システムごとにアクセスする必要はなくなり、人は併存する複数システムを意識しなくてもよくなる。 デジタルワーカーを業務の中心とし、業務の主体に必要な責任・権限、制度・ルールの知識、業務プロセスの理解、システム操作を、「人から分離して」デジタルワーカーに委ねていく。これがDigital-Orientedの基本コンセプトである。

これまで人にインプットしていた要素をデジタルツールに移管して、デジタルを中心に業務を回すことができます。デジタルワーカーが多くの雑務を担当することで、人は本来の業務に集中できます。人がクリエイティブな業務に時間を使えるようにすることで、新たな価値をそうぞうできるようになり、やがてはイノベーションを起こせるようになります。

Digital-Orientedがもたらす3つの変化

「組織の責任・権限」「制度・ルール」「業務プロセス」「システム」という4つの要素を人から切り離し、デジタルの世界に埋め込んだDigital-Orientedは、企業に3つの変化をもたらします。

①業務品質とガバナンスの向上
・Human-Orientedの世界→「間違う」「忘れる」「不正を行う」といった人に由来するリスクが常につきまといます。

・Digital-Orientedの世界→業務の中心にいるのはデジタルワーカーのため、「間違う」「忘れる」というミスはゼロに近づきます。人が介在する余地が極限まで少なくなるため、不正行為も困難になります。

ビジネスの現場では、親密度や取引経緯などの個別事情を背景に制度・ルールを逸脱して便宜を図る行為も往々にして見られるが、そうした恣意的な判断による「例外処理」も、デジタルワーカー中心の業務運営の下では不可能になります。業務品質・ガバナンスの水準はHuman-Orientedに比べ、格段に上がります。

②人の役割が根底から変わる
・Human-Oriented→システムやデジタルワーカーはあくまでも補助にすぎず、人が業務の主体になります。人は組織の責任と権限の範囲を理解し、業務遂行の前提となる制度・ルールを覚え、業務プロセスをマニュアルで確認し、システムの操作方法を身に付けなければなりませんでした。企業は膨大な資源を投じて、社内研修やOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を通じて人に教え込む必要がありました。

・Digital-Oriented→人が業務に習熟している必要はなくなります。デジタルワーカーが対話形式でガイダンスしてくれるため、人はその指示に従って情報を入力したり、判断したりしていけば、あとはデジタルワーカーが適切に業務を進めてくれます。

Digital-Orientedにより、企業は、人の貴重な能力と時間を業務の習熟と遂行に消費することから解放され、人は本来の能力の発揮、デジタルワーカーにはできない仕事に集中することができる。

OJTで経験を積んでいない若手でも、転職や異動してきたばかりの人でも、デジタルワーカーのガイダンスに従っていれば業務を進めらます。

③企業構造が飛躍的に柔軟になる
Digital-Orientedでは、責任・権限ー制度・ルールー業務プロセスーシステムというビジネスを支える4つの要素、必要な情報は全て、デジタルワーカーにひもづき、デジタルワーカーを中心に業務が回る構造に変わります。

デジタルワーカーが「ハブ」に位置し、複数のシステムの操作、複数の人とのコミュニケーションを担当します。組織の責任・権限、制度・ルール、業務プロセス、システムのどこかを変えようとするとき、それを担うのはデジタルワーカーだけでよくなります。

「人を中心」に業務を進める前提から「デジタルワーカーを中心」とする業務運営への転換が実現することで、企業の柔軟性=変革力は飛躍的に高まる。

デジタルワーカーに埋め込まれたルールやシステムの操作の仕方だけを変更すればよいため、従業員はこの変更に関わる必要がなくなります。Human-Orientedでの世界のように、人や組織を相手に、現場の抵抗を受けながら難しい調整をする必要はなくなります。

Digital-Orientedの視点に立つと、人依存ゆえの業務品質やガバナンスの問題は解消され、人は本来の役割に集中できるようになり、企業の柔軟性は飛躍的に高まります。Digital-Orientedを実践し、人からデジタルワーカーに業務を移転していくことで、硬直した組織に変革をもたらします。

人に期待される仕事は戦略的業務や企画業務に特化し、高度な専門知識が求められたり、斬新なアイデアが求められたりするなど、人にしかできない内容に絞り込まれます。Digital-Orientedによって、企業が人に求める能力やスキルが変わるのです。

市場価値の高さを推し量るのは、次の3つの項目になります。
①知識・経験・・・専門知識・ノウハウ、デジタル知識、会社の構造理解、事業・市場の理解など
②スキル・・・リーダーシップ、対人関係構築力、アイデアカ・創造性、課題認識・解決力
③マインド・・・挑戦・自己変革、諦めない心、自己実現、柔軟性

このような優秀な人材が入社しなければ、企業は新しい事業にも取り組めません。企業価値が減退すると、優秀な人材にさらに選ばれなくなっていく、負のスパイラルに陥ります。

優秀な人材を企業に惹きつけるためには、会社の存在意義であるパーパスやビジョンを明確に示し、それを共有することです。

パーパスやビジョンを言語化し、リーダー従業員との対話を重ね、本気でその実現を目指すべきです。組織と人の関係性がパーパス志向に変われば、人の採用基準や評価システム、人の働き方に関するルールも変わります。DXが進展すれば、知識・経験、スキルを持った優秀な社員の奪い合いが起こるのです。

デジタルによって人の考え方や仕事のやり方が大きく変わります。新たな価値を創造するマインドを持った企業や人がイノベーションを起こせるようになり、競争優位性を高めていきます。


この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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