デジタル変革を成功に導く 5つの脳力 5つの筋力――デジタルマイオピアに陥らない経営(ロバート・E・シーゲル)の書評

blue and green peacock feather

デジタル変革を成功に導く 5つの脳力 5つの筋力――デジタルマイオピアに陥らない経営
ロバート・E・シーゲル
ダイヤモンド社

本書の要約

企業が競争優位を獲得するには、脳力(デジタル)と筋力(フィジカル)の両方の長所を相互補完させた戦略を構築する必要があると指摘します。デジタルの能力とフィジカルの能力を適切に統合し、戦略を洞察しつつ行動に移すシステムリーダーが企業の変革を先導し、飛躍的な成長を実現します。

企業の競争優位の鍵は脳力と筋力にあり!

企業はデジタルと物理的なソリューションをバランスよく取り込み、進化するビジネス環境のなかで長期的かつ社会とも協調した成功を享受すべきであると私は考えます。 個人やビジネスリーダーにとっての課題は、過去とは異なる方法で将来的に会社を導く方法を考えることです。(ロバート・E・シーゲル)

スタンフォード大学経営大学院の経営学講師で、シリコンバレーを拠点とするベンチャー投資家でもあるロバート・E・シーゲルは、デジタルを「脳力」、フィジカルを「筋力」にたとえます。企業が競争優位を獲得するには、脳力と筋力の両方の長所を相互補完させた戦略を構築する必要があると指摘します。

シーゲルの言葉によれば、デジタルとフィジカルはそれぞれ異なる特性を持っており、企業はこの両方の長所を組み合わせることで競争優位を築くことができるということです。企業の未来の成功の鍵として「デジタルとフィジカルの融合」だというのがシーゲルの提言です。

・デジタル(脳力)
これは情報処理やデータ分析などの知識や技術を指します。現代のビジネスでは、デジタル技術の活用がますます重要となっています。例えば、ビッグデータの解析やAIの活用によって、顧客のニーズを把握し、効果的なマーケティング戦略を立てることができます。デジタルの力は、迅速かつ正確な意思決定を支援し、企業の競争力を高める役割を果たします。

・フィジカル(筋力)
これは製品開発や物流、顧客サービスなどの地に足の着いた業務を指します。製品の品質や供給チェーンの効率性は、企業の競争力に直結します。例えば、製品の品質管理や物流の最適化によって、顧客満足度を高めることができます。フィジカルの力は、企業の実践力を高め、市場での競争に勝つための基盤となります。

デジタルとフィジカルの2つの能力をうまく連携させる優秀なリーダーを「システムリーダー」と著者は呼びます。システムリーダーは、「IQ」と「EQ」、組織の「内部」と「外部」、そして「短期」と「長期」、更に「マクロ」と「ミクロ」のような異なる視点を同時に持ち合わせることが必要です。

これは、デジタルの能力とフィジカルの能力を適切に統合し、戦略を洞察しつつ行動に移していくためです。そして、システムリーダーはただのビジネスパーソンとしてだけでなく、地域社会や国、さらには世界全体のための真のリーダーとしての役割も果たすべきとシーゲルは強調しています。

これを読むと、まるで万能なスーパーマンのようなリーダーを求めているかのように感じられるかもしれません。しかし、シーゲルが強調しているのは「全ての専門分野に精通しているわけではないが、それぞれの分野の専門家と建設的な対話ができる基礎知識を持っている」ことです。つまり、正確な質問を投げかけることができれば、その答えを自分自身で出す必要はない、ということです。

ホームデポが成功した理由

デジタル技術の進化とともに、多くのディスラプターが登場して市場を席巻しています。これらのディスラプターは、革新的な技術やサービスで顧客の心をつかみ、短期間で爆発的な成長を遂げることが多いです。シーゲルによれば、これらのデジタル中心の企業は、持続的な成長や長期的な利益確保に必要な基盤、つまり「筋力」に欠けていると指摘されています。

一方で、多くの大企業は長い歴史の中で培ってきたコンピテンシー(筋力)を持っています。これは、安定した利益を生み出すための重要な資産となり得ます。しかし、時代の変化に対応するためには、デジタル変革を進め、企業の「脳力」も同時に強化する必要があります。

シーゲルの指摘は、大企業が新しい時代においてもその地位を維持、さらには発展させるためには、持っている「筋力」を最大限に活用しつつ、デジタル変革によって新たな価値を生み出す必要があるというものです。これは、大企業に独自の成功の道筋があることを示唆しています。そして、このバランスを取ることが、持続的な成長と競争力の維持の鍵となるでしょう。

ホーム・デポは、物理的な店舗の強みをデジタル技術と組み合わせることで、新しいショッピング体験を生み出しました。オンラインでの購入と店舗での体験をスムーズに連携させることで、顧客にとってはどちらのメリットも享受できるようになりました。そして、デジタル化された倉庫管理システムや新しい配送センターを導入することで、裏側のロジスティクスも大幅に効率化されました。このような取り組みが、顧客にとっての利便性の向上につながっています。

ホーム・デポは、照明器具やキッチン用流し台など、他社が提供していない特徴的な商品を取り扱っています。これにより、顧客はホーム・デポでしか手に入らない商品を求めて訪れることがあります。ユニークな商品を提供することで、ホーム・デポは競争力を高め、事業拡大に成功しました。

この事例を通して、企業の成功の鍵は、デジタル技術の活用だけでなく、その技術をどのように自社のフィジカルな強みと結びつけるかが重要であることが示されています。今後、さらなる成長を目指す企業にとって、このバランスの取り方は必須のテーマとなるでしょう。

5つの能力と筋力

🔳5つの脳力(Brains)
1、左脳(分析力)

データ収集はかつてないほど容易になったが、それを有効活用するのはこれまで以上に難しくなっている。洪水のように流入する情報をマネジメントする戦略が、あらゆる企業に求められる。誤ったデータ分析の指標に気を取られると、データの追跡はしやすくても、ビジネスを成功させる原動力にはなりえない。また、顧客からのデータを悪用する誘惑に逆らえず、その結果、顧客ロイヤルティと信頼を失う場合もある。

データを分析し、活用するケイパビリティを左脳と著者は呼びます。ビッグデータは、現代のビジネスにおいてますます重要な役割を果たしています。あらゆる製品やサービスで利用されつつあるビッグデータを使って、すべての企業が顧客によりよいサービスを提供し、製品やサービスを改善し、コストを管理する戦略が必要となります。

2、右脳(創造性)
企業が成長する過程で、事業拡大と業務効率化を追求して競争優位を築くシステムやプロセスを構築するのは自然な流れです。大企業は業務を効率的に行うために、組織のリソースをフル活用し、他社との競争に打ち勝つための体制を築いてきます。しかし、組織が大きくなり、縦割りになることで、逆にイノベーションが起こりづらくなります。

一部の成長している企業は、右脳を駆使して、この課題を乗り越えています。右脳は、創造性や直感的な判断を担当する脳の部分で、新しい商品やビジネスモデルの創出に大きく関わっています。これらの企業は、絶えず新しい創造的なアプローチを探求することで、顧客の要望に応えたり、新しいトレンドをいち早く取り入れたりしています。

3、扁桃体(共感力)
共感は、感情生成を司る扁桃体に例えられます。共感は、他者の感情や心の状態を自分自身のものとして感じる能力を指します。この共感力は、経営陣にとって非常に重要な要素です。なぜなら、経営陣は顧客や従業員、外部パートナーとの関係を築き、意思疎通を図る役割を果たすからです。

4、前頭前野(リスク管理)
現代の多くの企業、特に大企業にとっては、リスク回避は重大な不利益となることがあります。昇進や昇給といったインセンティブは、不確実性の高いことに果敢に取り組む人ではなく、現状を維持する人が手にする傾向があります。 これは前頭前野の機能とも関連しています。

前頭前野は、リスクを評価し、将来の見通しを考慮して判断を下す役割を果たしています。しかし、この部位の機能が低下すると、リスク回避の傾向が強まります。つまり、前頭前野の働きが鈍ることで、新しい挑戦や変化に対して消極的になるのです。

企業においては、競争の激しい現代社会で生き残るためには、新しいアイデアや革新的な取り組みが必要です。しかし、前頭前野の機能が低下していると、従来のやり方を維持し、変化を避けることが求められる状況下で有利になります。 したがって、企業が前進するためには、前頭前野の機能を高めることが重要です。リスクを冒し、不確実性に果敢に挑む人々を評価し、インセンティブを与えることで、新たなアイデアや革新を生み出す環境を作り出す必要があります。

5、内耳(内製とアウトソーシングのバランス)
モバイルコンピューティングやクラウド、データアナリティクス、AIの普及によって、全ての企業が技術的な解決策を完全に内製するのは難しくなりました。多くのテクノロジー資産を持つことで顧客との密接な関係を強化できる反面、テクノロジー資産を限定することで、本当に大切なものを効率的に取得することが可能です。この両者の間のバランスを保つのは、平衡を保つ内耳のような役割です。

🔳5つの筋力(Brawn)
1、脊髄(ロジスティックス)
優れた脊髄(ロジスティックス)を柔軟で顧客体験の高いビジネスに転化しています。

2、手(ものづくり)
モノづくりの先端企業は手頃な価格で生産を可能にする革新的なシステムで優位性を発揮しています。

3、筋肉(企業規模の活用)
グローバルな規模とローカル市場の特性に関する知見を同時に最大活用する必要があります。

4、手と目の協調(エコシステムの管理)
ビジネスエコシステムとは、関係者相互の利害を調整するために連携する組織の集合体です。このエコシステムには、サプライヤーやチャネルパートナー、投資家、規制当局、競合企業などが含まれます。これらの関係は常に変化しているため、エコシステムの各メンバーは相容れないニーズを調整するためにジャグリングのような曲芸技を必要とします。

エコシステムのメンバーはそれぞれ異なる目標や利益を持っており、競合や利害の衝突が生じることもあります。そのため、エコシステムの維持や発展には、相容れないニーズを調整する能力が求められます。

5、持久力(事業の継続化)
すべての企業が直面する最大の挑戦は、事業の長期的な存続です。短期的な成功はその持続を約束するものではありません。時が経つにつれての良し悪しの中で、組織の評判やブランドを守り続けるためには、持続的な努力と継続的な戦略が欠かせません。そのためには、組織としての柔軟性や変化への適応能力、そして真摯な顧客対応が不可欠です。

著者のシーゲルはアマゾンはこの10の能力を全て持ち合わせていると指摘します。脳力と筋力の2つの力を組み合わせ、成功した事例やダイムラーのような発展途上のケースが本書にはいくつも登場します。能力と筋力の両方のスコアを上げなければ、ダイムラーのような優良企業もやがてテスラやアップルにディスラプトされてしまうのです。

従来、筋力を中心としていた企業が脳力に注目し、その能力を強化する動きが見られる一方で、脳力を持ち味とする企業が筋力を伸ばす取り組みを進めています。これは、個人からチーム、部門、さらには企業や業界全体において、脳力と筋力のバランスを取ることの重要性を示しています。

この2つの力を組み合わせることで、新たな価値を生み出し、持続可能な競争力を築けるようになります。ベンチャーなどのディスラプターや大企業双方が、この2つの能力を鍛えることで、ビジネスの可能性を広げられます。


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