価値循環が日本を動かす 人口減少を乗り越える新成長戦略(デロイト トーマツ グループ)の書評

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価値循環が日本を動かす 人口減少を乗り越える新成長戦略
デロイト トーマツ グループ
日経BP

本書の要約

「ヒト」「モノ」「データ」「カネ」と4つリソースと前述の4つの「機会」を掛け合わせて、新たな需要の所在を明らかにすることで、企業は持続的に成長できるようになります。さらに、それらを相互につなぎ合わせて、より大きな潜在需要を創出することで、日本は失われた30年から抜け出せます。

価値循環モデルこそが成長の鍵

人口に頼らない経済成長の考え方、それが「価値循環」だ。 価値循環は、すべてのリソースを〝循環〟させることで、付加価値を生み出し、それを増幅させる考え方だ。人の数が減っても、価値循環の「回転と蓄積」のメカニズムを用いて、1人当たりの付加価値を高めて成長できる、というシナリオだ。(デロイト トーマツ グループ)

「失われた30年」からなかなか抜け出せないことで、日本経済の停滞が続いています。この先も少子化による人口減少が予測され、日本の低成長が続くという悲観論がメディアを賑わせています。人口減少によって、将来への不安が増幅され、それが成長期待の低下につながり、個人の消費や企業の投資意欲を減退させています。これが日本の長期停滞の要因になっているのです。

日本経済が長期停滞を抜け出せない要因は、30年前までの成長を牽引してきた〝人口増加に伴う需要拡大〟に代わる「新たな需要創出」の方法がわかっていないことにあります。

経済の成長率を人口1人当たりで見ても、人口増加率との相関がほとんどないことが明らかになっています。人口減少が今後も続く日本では、1人当たり成長率を高める工夫をして人口減少をカバーすれば、経済全体を成長させられます。

経済成長のためには「価値循環」モデルにシフトすべきだとデロイト トーマツ グループは指摘します。ヒト、モノ、データ、カネの4つのリソースが循環することで、日本の持続的成長が可能になると言うのです。

また、「グローバル成長との連動」「リアル空間の活用・再発見」「仮想空間の拡大」「時間の蓄積が生み出す資産」の〝4つの機会〟を活かすことが、日本の成長の原動力になります。

価値循環とは何か。端的にいえば、経済活動を構成する「4つのリソース」(ヒト、モノ、データ、カネ)の循環と、新たな市場になり得る「4つの機会」を成長の原動力とし、さらに相互に掛け合わせることで「新たな需要」を創出し成長につなげる、という考え方だ。これは、人口減少局面に入る国が増える22世紀に向けて、日本がフロントランナーになり得る新たな成長モデルである。

4つのリソースと4つの機会を相互に掛け合わせることで「新たな需要」が生み出せ、成長に結び付きます。これが「価値循環」の基本的なフレームワークになります。この循環を活用すれば、人口減少社会の日本も復活できるというのが、デロイト トーマツの主張になります。

4つのリソースと4つの機会を組み合わせよう

4つのリソース
①ヒトの循環
就労の機会を増やし1人当たりのスキルや経験を高めるとともに、相互に交わり知見を深めることで、社会全体の付加価値向上につながります。

副業や兼業で仕事の場を増やせば、新たな知見やノウハウを蓄積することで、人材としての市場価値が高まり収入の増加が期待できます。今後伸びる分野に多くの人材が移動すると社会全体の成長につながります。

・交流型人材循環・・・副業や兼業を通した循環
・回遊型人材循環・・・一度組織や地元を離れた人材が戻ってくる
・グローバル型頭脳循環・・・優秀な人材が日本を拠点に交流し、イノベーションを生み出す循環

当然、人材を循環させるためには、企業側の努力も必要になります。長年続いた企業の終身雇用に対して、新たな働き方や雇用形態を取り入れ、選択肢を多様化していく「雇用の柔軟化」が求められます。また、これまで単独の企業が担っていた終身雇用の役割を社会全体として担う方向に変えていく「社会としての終身雇用」も準備すべきです。安心して長く働けるセーフティーネットがあることで、ヒトの循環が起こります。

リカレント教育、職業訓練、再就職支援などの強化によりヒトの循環が起こることで、成長産業や人材を必要とする職場に人材が移動し、適材適所となるのでミスマッチが解消され、社会全体としての生産性が高まります。人口減少時代であっても、ヒトの循環を促進することで国全体としての成長余地が生まれてくのです。

②モノの循環
モノを循環させることで一投入資源当たりの価値を高められます。
・リペア・リユース・アップサイクル・・・製品を長い時間の中で繰り返し使っていく循環。
・地域集中型資源循環・・・産業集積地域など特定の空間に資源を集中させ、企業同士が連携しながら有効活用します。

③データの循環
データを1回の処理で利用するだけにとどめず、顧客をはじめ”需要側”のデータを起点にして、他のデータと結び付けて繰り返し活用することで、 データの持つ価値を増幅します。

顧客(需要家)起点で企業や組織が持つ多様なデータをつなぐことで、顧客のニーズの発掘と課題解決という共通の目的の下にデータが集まるようになります。異なる組織や事業体の間でデータの相互利用が進むことで、新たな需要創出につながるデータの循環が生まれていきます。

④カネの循環
社会の中でカネの取引の頻度を増やしてその量を増加させ(回転)、次の新しい価値を生む投資に活用します。社会性や将来性に富んだ魅力的な投資機会を創出し、投資機会と投資家をつなぐ新たな仕組みを構築する必要があります。

・社会課題解決型の投資・・・社会面・環境面の課題解決への貢献、社会的なリターンと財務的なリターンの両立を目指すインパクト投資や寄付など
・スタートアップ企業への投資
これら2つの投資は潜在的な資金需要が大きく、カネの循環を生み出す魅力的な機会になります。

また、次の4つの機会を活かし、ヒト、モノ、データ、カネの循環と組み合わせることで、持続的な成長が期待できます。

4つの機会
①グローバル成長との連動
世界の成長と国内の動きを連動させることで、日本の人口減少を補えます。海外の企業からの投資や高度人材、観光客など人材やノウハウなどを積極的に受け入れていくことも含めた”双方向”の関係を築きます。人口減・高齢化という課題をいち早く経験した日本のソリューションを海外に輸出することも検討すべきです。

②リアル空間の活用・再発見
人口が減少することは、日本の国土で利用できる空間が増えていきます。森林や海洋などの有益な資源を活用したり、生物多様性を含めた自然資本を回復させる「ネイチャーポジティブ発想」でビジネスを行うことで、日本の新たな可能性を追求できます。

③仮想空間の拡大
仮想空間に広がる「新しい経済活動」「新しいコミュニティー」「新しい労働」の3つの機会には、大いなる成長の可能性が秘められています。Z世代がメタバースやNFTで新たなビジネスをスタートしていますが、仮想空間に積極的に投資することで、新たな需要や雇用創出につながります。

④時間の蓄積が生み出す資産
長い歴史によって積み重ねられた文化的、技術的、生物的な伝統や経験、知識という”強み”を資産に変えていきます。時間の経過とともに経験や知識の蓄積はさらに確実に増えていきます。蓄積された資産には、知的財産、社会資本や教育、アニメやマンガといったコンテンツまで幅広いものが含まれます。

持続的成長のための10の需要創出シナリオ

日本を動かす10の需要創出シナリオから私たちは新たなビジネスのヒントをもらえます。
環境・エネルギー(国内にある資源から最大限の価値を引き出す)
・シナリオ1 再生可能エネルギー関連市場
再エネの供給と利用を結びつけ循環させる

・シナリオ2 セクターカップリング(電気やガス、石油の壁をなくした総合エネルギー企業)
既存と新規のエネルギーを一体化させ、循環させる

モノづくり(製造業は資源再生業)
・シナリオ3 静脈市場の開拓
資源の回収を基軸にビジネスを構築

・シナリオ4 リサイクルクレジット取引市場
廃棄物の資源化、カーボンクレジット市場

ヘルスケア(高齢社会を強みに変え、健康データを循環)
・シナリオ5 〝長寿〟イノベーション・ハブ
長寿を強みにグローバル規模でリソースを循環

・シナリオ6 コネクテッド・ヘルス
健康データを循環させて業種を超えてサービスをひろげる

観光(観光大国としての潜在力を引き出す)
・シナリオ7 〝循環〟ツーリズム
観光客と働き手の双方でヒトの循環を促す

・シナリオ8 観光データ・マーケティング
観光データの共有と循環で先読み需要を開拓する

地域創生(地域で価値循環を起こす)
・シナリオ9 ライフワーク×観光
ライフワークをきっかけに長きにわたるヒトの循環をつくりだす

・シナリオ10 再エネ×地域コミュニティー
再エネを軸に地域のリソースを循環させる

「ヒト」「モノ」「データ」「カネ」と4つリソースと前述の4つの「機会」を掛け合わせて、新たな需要の所在を明らかにすることで、企業は持続的に成長できるようになります。さらに、それらを相互につなぎ合わせて、より大きな潜在需要を創出することで、日本は失われた30年から抜け出せます。


 

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