
エンゲージド・リーダー ― デジタル変革期の「戦略的につながる」技術
シャーリーン・リー
英治出版

エンゲージド・リーダー(シャーリーン・リー)の要約
インターネットとSNSの進展により、何十万人もの人々と同時につながり、共感し合い、関与させることが可能になりました。デジタル・コミュニケーションの時代には、対話を通してフォロワーとの信頼関係を深め、目標を達成するリーダー(エンゲージド・リーダー)が組織には欠かせなくなっています。
この記事でわかること
・日本のエンゲージメントが世界平均の半分以下にとどまっているという事実と、その背景にあるリーダーシップ設計の遅れ
・「上意下達のコマンドアンドコントロール」を脱却するための、エンゲージド・リーダーという新しいリーダー像
・収集→ 共有→ 関与→ 変革という4段階の組織変革ステップ
・デジタル時代に日本のリーダーが見直すべき4つの姿勢と、明日から踏み出せる小さな一歩
こんな人におすすめ
・チームのエンゲージメントが長く上がらず、構造的な原因を探っているマネージャー
・経営層の方 ・Slackや社内SNSを導入したものの、リーダー自身が活用できておらず、ツールが“飾り”になっている組織のリーダー
・上意下達から脱却したいが、何から手をつければよいか分からないミドルマネージャー
・従来型の階層型組織に違和感があり、新しいリーダーシップ像を模索している人事・組織開発担当
・DX/デジタル活用を掲げつつも現場がついてこない状態を打破したい経営企画・事業推進部門の方
組織にイノベーションを起こすエンゲージド・リーダー
「組織構造(組織文化)」の変革なしに、イノベーションは実現できないということだ。どんなにイノベーションを推進しようとも、組織構造(組織文化)が上意下達のコマンドアンドコントロールである限り、従業員一人ひとりの意欲は低いままで、従業員同士のコラボレーションも活性化されない。(シャーリーン・リー)
本書出版時のギャラップ社の調査によれば、「積極的に仕事に関与(Engaged)」している従業員の割合は、アメリカでは30%、ドイツでは15%、韓国では11%、そして日本ではわずか7%となっており、日本は調査対象の142ヶ国の平均値の約半分であると報告されています。
最新の2023年の調査では、世界全体で「従業員エンゲージメント」の強い社員の割合が過去最高の23%に達した一方で、日本は2年連続で5%にとどまり、順位は125か国中124位と低い結果となりました。
現代では、SNSや様々なデジタルツールの普及により、社員や株主、顧客、取引先など、様々な階層が直接つながることが可能となりました。そして、リーダーも例外ではありません。これにより、情報の共有やコミュニケーションの手段が大幅に向上しましたが、デジタルコミュニケーションも含めてリーダーは対話を行う必要があります。
対話を通してフォロワーとの信頼関係を深め、目標を達成するリーダーをエンゲージド・リーダーが組織に変革をもたらすとリーダーシップ戦略、社員エンゲージメントのスペシャリストのシャーリーン・リーは指摘します。
エンゲージド・リーダーとは、フォロワーシップの一形態であり、リーダーがフォロワーとの対話を通じて信頼関係を築き、共通の目標を達成することに重点を置くリーダーシップスタイルです。
エンゲージド・リーダーは、フォロワーとのコミュニケーションを大切にし、彼らの声や意見に耳を傾けます。対話を通じて、フォロワーは自身のアイデアや提案を積極的に出すことができ、リーダーもそれを受け入れる姿勢を持ちます。このような信頼関係が築かれることで、組織のメンバーはより一体感を持ち、共通の目標に向かって協力し合うことができます。
情報の収集と共有はいずれもリーダーとフォロワーとの間の親善を深め、共通の目的の下に団結させる。そして両者の関係を強化し、エンゲージメントが実を結ぶための地盤作りをしてくれる。
リーダーは情報収集、情報共有、エンゲージメントのフレームワークを通じて、部下から信頼される優れたリーダーになることができます。組織内での役割を果たすためには、リーダーは部下とのコミュニケーションを重視し、彼らの意見や要望に耳を傾けることが重要です。信頼関係を築き、部下のエンゲージメントを高めることで、組織の目標達成に向けて効果的に指導することができます。
エンゲージド・リーダーに必要なこと
権力格差の減少、コミュニケーションの方向の変化、コミュニケーション頻度の増加により、リーダーはもはや隔離された存在ではなくなる。つまり、彼らはかつてのような「保護対象種」ではないのだ。 しかも、こうした新しい現象と引き換えに、途方もない利益と機会がやって来るのである。エンゲージド・リーダーが一対一、あるいは一対大勢とのエンゲージメントを通して組織全体を変革できることは、1つのチャンスなのだ。
インターネットとSNSの進展により、何十万人もの人々と同時につながり、共感し合い、関与させることが可能になりました。これは、従来の時間や物理的な制約によって難しいとされていたことを可能にする大きな変化です。このデジタル技術を経営に戦略的に活用すれば、以前は不可能だった多くのことを実現するポテンシャルがあります。しかし、実際には多くの経営者や経営幹部がこのデジタル技術を効果的に使いこなせていないのが現状です。
企業文化の改善には、リーダーたちがソーシャルメディアやSLACKなどのデジタルコミュニケーションツールを積極的に使用することが効果的です。このアプローチは以下のようなプロセスを通じて組織変革に繋がります。
①情報収集
リーダーたちはソーシャルメディアやSLACKを使用して、最新のトレンド、社員の意見や感情、市場の動向など幅広い情報を収集します。
②情報共有
収集した情報は組織内で共有され、全員が同じ認識を持つことができるようになります。これにより、透明性が高まり、社員の理解と参加が促進されます。
③エンゲージメント
リーダーたちがアクティブにコミュニケーションを行うことで、社員とのエンゲージメント(関与)が深まります。これにより、社員はより積極的に意見を述べ、協力的になります。
④組織変革
情報の収集と共有、エンゲージメントの向上は、最終的に組織文化の改善と組織変革に繋がります。社員がより参加意識を持ち、新しいアイデアや改善策を提案する文化が根付きます。
リーダーたちがデジタルツールを効果的に活用することで、企業文化はよりダイナミックで協力的なものに変化し、組織全体のパフォーマンス向上に寄与します。
エンゲージメントは、ソーシャル・キャピタルを蓄積できるという点で他の2つより強力なものだ。 従来のリーダーが築いてきたようなソーシャル・キャピタルとは違い、リーダーがみずから行動を起こし、人々が近づきやすい状況を作ることによって生まれるものだ。
リーダーシップにおいて、情報の収集と共有は重要ですが、エンゲージメント(関与)はそれらよりも強力な手段です。エンゲージメントを通じて、リーダーは従来の方法とは異なるソーシャル・キャピタルを蓄積することができます。これは、リーダーが自ら積極的に行動し、人々が近づきやすい環境を作ることによって生まれるものです。
効果的なエンゲージメント手法を持つリーダーは、フォロワーとの関係を改善し、変革を促すことが可能ですが、このプロセスは非常に慎重で意識的なアプローチが必要です。
デジタル時代におけるリーダーシップの重要な側面として、以下の点が挙げられます。
・デジタルリーダーシップへの変革
時代の変化を受け入れ、実践を厭わない姿勢と、デジタル戦略を明確な目標や目的に結びつけることが重要です。
・ユーザー中心の思考
デジタル化プロセスにおいても、常にユーザー(フォロワー)を考慮することが重要です。
・情報の分析と整理
必要な情報と不必要な情報を区別し、問題の全体像を分析する能力が求められます。
・対人関係と組織開発
バイアスを排除し多様な意見を受け入れる度量、自身の考えを明確に伝える能力、信頼関係の構築、相手の考えを引き出すスキルが必要です。
デジタル時代の特徴としては、迅速なコミュニケーション、多様な戦略の公開性、対象となる相手の量的な広がり、多くのリアクションを得られる可能性が挙げられます。これらは、デジタルコミュニケーションにおいてリーダーが意識すべき重要な要素です。
コミュニケーションがデジタル化する中で、リーダーの役割も変わっています。日本のリーダーも自分のコミュニケーション・スタイルを変え、メンバーのモチベーションを高めるべきです。
コンサルタント・徳本昌大のView
リーダーシップを変える第一歩は、ツールや制度の導入ではありません。リーダー自身が、現場との「距離感」を見直すことです。 シャーリーン・リーが提示する「エンゲージド・リーダー」という考え方は、日本の経営者やマネージャーが、自らのリーダーシップを問い直すうえで重要な示唆を与えてくれます。
本書を実務に生かす際に大切なのは、新しい施策を次々と加えることではありません。何を取り入れ、何をそぎ落とすべきかを見極め、日々の行動に落とし込むことです。
まず、エンゲージメントを単なる評価指標として扱うべきではありません。調査結果に示される数値は、組織の成績表というより、リーダーと社員の関係を映し出す鏡です。重要なのは、数字の高低に一喜一憂することではなく、その背後にある現場との距離や信頼の状態を読み取ることです。
社員との対話を避けたり、耳の痛い意見を遠ざけたりすれば、その瞬間からエンゲージメントは静かに低下していきます。数値を改善するための施策を考える前に、リーダー自身が日頃の振る舞いを振り返る必要があります。現場の声にどれだけ耳を傾けているか、自分の考えを誠実に伝えているか、異論を歓迎できているか。こうした小さな行動の積み重ねが、組織の信頼関係を左右します。
日本企業のエンゲージメントが低いという事実も、悲観的に捉える必要はありません。それは、日本の組織に改善の余地が大きく残されていることを意味します。
ビジネスチャットやオンライン会議など、現場と経営層をつなぐデジタル環境はすでに整いつつあります。足りないのは、ツールそのものではなく、それを使って対話を始めようとするリーダーの意思です。
ただし、デジタルツールを導入しただけで、エンゲージメントが自動的に高まるわけではありません。SlackやTeamsを導入しても、経営者が発信するだけで社員の声を聞かなければ、従来の一方通行型コミュニケーションがデジタル化されるだけです。
重要なのは、情報伝達の速度ではなく、対話の質を高めることです。 本書が示す「情報収集→情報共有→エンゲージメント→組織変革」というプロセスも、一度にすべて実行する必要はありません。むしろ、最初から大規模な変革を目指すと、現場に過度な負担がかかり、取り組みそのものが形骸化する恐れがあります。
最初は、リーダーが現場の声を集めることから始めればよいのです。次に、集めた意見をどのように受け止めたのかを、自分の言葉で社員に返します。すべての要望に応える必要はありません。実現できることとできないことを明確にし、その理由を率直に説明するだけでも、社員は「自分たちの声が経営に届いている」と実感できます。
その信頼が積み重なることで、社員は組織の課題に主体的に関わるようになり、やがて変革の担い手へと変わっていきます。
エンゲージや変革を急ぐのではなく、収集と共有を丁寧に繰り返すことが、結果として持続的な組織変革につながります。実行を妨げるのは準備不足ではなく、完璧な計画を求めるあまり、現場との対話を始められないことです。
DXが叫ばれて久しいものの、ツールを導入するだけでは、組織に熱量は生まれません。ツールは対話を支える手段であり、戦略は進む方向を示すものです。しかし、それらを生かすかどうかを決めるのは、経営者やマネージャーの態度です。
現場に開かれたリーダーがいる組織では、必要な情報が早く集まり、問題の兆候も見つけやすくなります。社員も安心して意見やアイデアを出せるため、意思決定の質と変化への対応力が高まります。
反対に、リーダーが現場から距離を置けば、どれほど優れた戦略やツールを導入しても、組織の実態を正確に把握できません。 リーダーに求められるのは、社員との距離を縮めながらも、単に迎合するのではなく、最終的な判断と責任を引き受けることです。
「何を決めたか」だけでなく、「なぜそう決めたのか」を伝え、異なる意見にも耳を傾ける。その姿勢が、社員の信頼と主体性を育てます。
本書は、リーダーシップの理論を学ぶための教科書であると同時に、自分の行動を定期的に点検するための手帳のような一冊です。
「社員から見て、自分はどのような距離にいるのか」「最近、現場の声を直接聞いたのはいつか」「発信するだけでなく、相手の反応を受け止めているか」と自問することで、自らのリーダーシップを見直せます。
FAQ
Q1. 『エンゲージド・リーダー』は、リーダー向けの専門書でしょうか?
タイトルの印象よりも、むしろ“すべてのビジネスパーソン”にとって読みがいのある一冊です。フォロワーシップの形を問い直す内容ですので、マネージャーや経営層だけでなく、部下や後輩と関わる機会のある一般社員にも多くの発見があります。
Q2. 日本の組織文化と合わないところはありますか?
リー氏自身が指摘しているとおり、本書で描かれるのは米国発のリーダーシップ像であり、上下関係や空気を読む文化が強い日本の現場とそのまま重なる部分は確かにあります。しかし、だからこそ、日本のエンゲージメントの低さは「文化的な」問題と見なされがちなものに対し、「構造的」な処方箋を提示しているという点で、むしろ日本企業にとって価値の高い示唆を含んでいます。
Q3. 本書を読んだ後、最初に何をすればよいですか?
最も効果が現れるのは、“リーダー自らが既存の社内チャネルに一つだけ書き込む”ことです。Slackのオープンチャンネル、社内報、経営層からの一通のメッセージ――手段は何でもかまいません。リー氏のいう「自ら行動を起こし、人々が近づきやすい状況を作る」を、机上の議論ではなく、現場の行動として一歩踏み出すこと。それが、本書を“読んだだけで済ませない”ための最短ルートです。
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