ヒューマノクラシー――「人」が中心の組織をつくる(ゲイリー・ハメル, ミケーレ・ザニーニ)の書評

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ヒューマノクラシー――「人」が中心の組織をつく
ゲイリー・ハメル, ミケーレ・ザニーニ
英治出版

ヒューマノクラシー(ゲイリー・ハメル)の要約

ヒューマノクラシーの中心的な考え方は、組織内での人間の重要性を強調し、人間の潜在能力を最大限に発揮させることにあります。ヒューマノクラシーを実現するには、自分の中にある官僚主義というマインドセットを捨て、組織の文化や風土を人間中心に変える必要があります。

ヒューマノクラシーとは何か?

いまこそ人間を官僚主義という足枷から解き放つときであり、それが実現できれば、1人ひとりの個人だけでなく、組織や経済、ひいては社会にまで多大な恩恵がもたらされるだろう。(ゲーリー・ハメル)

「ヒューマノクラシー」は、ロンドンビジネススクール客員教授のゲーリー・ハメルによって造られた言葉で、「人間(human)」と「支配・統治・制度(-cracy)」を組み合わせたものです。これは「人を中心に据えた組織」を意味し、21世紀のマネジメント論として大きな注目を集めています。

ヒューマノクラシーの中心的な考え方は、組織内での人間の重要性を強調し、人間の潜在能力を最大限に発揮させることにあります。従来の組織では官僚制や権威主義が支配的で、個々の才能や意見がしばしば抑圧されがちでした。

官僚主義で中核となる問いは「人間を組織により奉仕させるには、どうすればよいか」だが、ヒューマノクラシーでは、「どんな組織なら、人々から最高の力を引き出し、その力に値するような組織になれるのか」となる。

ヒューマノクラシーを実現するには、自分の中にある官僚主義というマインドセットを捨て、組織の文化や風土を人間中心に変える必要があります。

従来の階層制や部門間の壁を取り払い、よりフラットな組織構造を取り入れること、意思決定プロセスの透明化や、すべてのメンバーが積極的に関与できる環境の整備が重要です。ヒューマノクラシーは個々の人間の才能やアイデアを活かし、組織全体の力を高めることを目指します。

私たちは、権威主義的で満足感の少ない組織に甘んじる必要はありません。歴史を見れば、世界はかつて専制君主に支配されていましたが、今日では多くの人々が自由の中で生きています。民主主義への移行は自然発生的なものでも、トップダウンの結果でもなく、哲学者や愛国者、抵抗運動の参加者たちによって達成されました。

このように、人間らしい組織を作るためには、私たち自身も革命的な変化を遂げる必要があります。過去の成功例から学び、人間の精神を解放するために努力しなければなりません。「すべての人に成功するチャンスがある組織を作る」という大義のために行動することが大切です。

私たちの目指す組織は、個々の才能や能力を最大限に活用できる場所であるべきです。成功のチャンスが平等に与えられ、全員が自分の能力を発揮できる環境を作ることが重要です。これにより、組織全体のパフォーマンスが向上し、持続可能な成長が実現します。

ヒューマノクラシーの7つの原則

企業は、イノベーションの優位性がなければ、進化における優位性を築けない。意欲の面での優位性がなければ、イノベーションの優位性は築けない。未来に勇敢に漕ぎ出していく自己変革的な組織を築きたいなら、究極的には従業員が前向きに、情熱的に、喜びに満ちて仕事ができるかに、すべてがかかっている。

真にレジリエントな組織は、否定に逃げ込むことなく、未来に対応するために迅速に動く特徴を持っています。変化が必要とされる前に自ら進んで変化し、顧客の期待に応え続けるためにその定義を常に見直します。また、自社に適した新たなチャンスを積極的に捉え、予想外の利益を生み出すことを恐れません。

これらの組織は、競合他社よりも顕著な成長を遂げ、世界中からエネルギッシュな従業員を惹きつける能力を持っています。このような組織は、変化を恐れず、常に進化を続けることで、その回復力と持続可能性を高めています。

また、リーダーシップのあり方もヒューマノクラシーにおいて重要です。リーダーは指示命令型から脱却し、チームのコーチやサポーターとして機能し、自己成長と学習を継続する姿勢が求められます。

人間の精神を解放すること。これがヒューマノクラシーの約束である。やる気と決意によって、あなたはその約束をあなた自身のために、チームのために、そして会社のために果たすのだ。

ハメルが提唱する「7つの原則」は、ヒューマノクラシーを実現するための具体的なガイドラインとなっていますい。
①オーナーシップの文化を組織全体に浸透させる

②市場から得られる恩恵(集合知、機敏な資金配分、柔軟な調整、競争がもたらす規律)
市場は人間の知恵や創造性を活かす点で他のシステムに比べて優れています。市場は人間の創造性をトップダウンの管理から解放し、自由に発揮させる機会を提供します。このため、ヒューマノクラシーの実現には、市場が欠かせない要素となります。市場が人間のクリエイティビティを促進し、新たな価値創造を後押しすることは、ヒューマノクラシーにとって不可欠な機能です。

③健全な実力主義
ヒューマノクラシーの目標は、全員が能力を最大限に発揮できる環境を作ることです。しかし、自己宣伝が得意な人だけが昇進する、貢献が正当に評価されない、現在の上層部に従う価値がないと感じる組織では、この目標は達成できません。実力主義は、これらの有毒な環境から毒を取り除き、人を中心に据えた組織を創るための重要な原則です。

④コミュニティの絆を強める
献身や情熱や忠誠心。これらは真のコミュニティの特徴になります。本書のサウスウエスト航空のコミュニティ形成から、私たちは多くの学びを得られます。

⑤未来についての見方や計画にオープンであること
すべての組織は、オープンネスを基本的な原則として採用すべきです。内部と外部の間に引かれた分厚く不透明な境界線を取り払い、戦略策定がトップダウンで行われるという古い考え方を完全に捨て去る必要があります。このオープンなアプローチによって、組織はより多様な視点を取り入れ、革新的なアイデアや戦略を生み出すことが可能になります。

また、内外の境界線を曖昧にすることで、外部の才能やリソースを組織内部に取り込むことが容易になり、より包括的で効果的な戦略策定が実現します。

⑥実験
組織が進化するペースは、大部分が実験の数によって決まります。Amazonの成功を見れば、実験の数の重要性がわかるはずです。会社全体を実験室にすることで、企業はイノベーションを起こせるようになります。

⑦対立のパラドックスを超える
ヒューマノクラシーにおけるコントロールは、官僚主義における厳格なルールとは大きく異なります。このコントロールは、「共に卓越性を目指すコミットメント」、「同僚や顧客に対する責任」、「従業員を尊重し忠誠を示す組織への献身」などから生まれます。

これらは、従業員が自発的に行動し、お互いに協力し合い、顧客の期待を超える努力をするための基盤となります。ヒューマノクラシーでは、従業員一人ひとりが組織の価値観に対して深くコミットし、それを実践することが重視されます。

ヒューマノクラシーの原則を取り入れることで、官僚主義による非効率性を排除し、イノベーションの流れを形作れます。これにより、時代の変化に迅速に適応し、成功を収める能力を身につけることができます。

官僚主義が生み出された世界とは全く異なるこの新しい世界では、仕事の質を改善し、すべての働く人たちに成功するチャンスを提供することが最も重要です。このアプローチにより、すべての仕事が「良い仕事」となり、働く人々が自分の潜在能力を最大限に発揮できる環境が生まれます。

ヒューマノクラシーの実践は、組織だけでなく、働く人々一人ひとりの充実と成長にも大きく貢献するのです。これらの原則を採用することで、組織は変化に強く、柔軟で、革新的なものになることが期待されます。


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